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テレワークで進む「成果主義のワナ」から目を背けてはいけない

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コロナ禍でテレワークが急激に浸透した。

shutterstock

コロナ禍による業績低迷とテレワークが浸透するなかで、成果主義強化の圧力が高まっている。

その1つはテレワークでの人事評価の変容だ。「在宅勤務や時差通勤で部下の行動が見えなくなり、人事評価が難しくなった」との調査もある。

日本企業の一般的な人事評価は、営業数字など定量化された「成果評価」と、チームワークやコミュニケーションなどの「行動評価(プロセス評価)」の2つの総合評価で決まる。

ところが今、こんな声が出ている。

「数値評価以外に、中長期的な成果につながるプロセス評価も重視していた。例えば、『コミュニケーションを取りつつ周りと連携しながら仕事を進めていた』といった項目は、在宅勤務に入ってから全く見えなくなってしまい、評価が難しい」(サービス業人事部長)

評価が「普通」に集中してしまう

住宅関連企業の人事部長もこう語る。

「在宅勤務だと本当に働いているのか、行動が見えにくいし、成果物しか見えない。そうなると行動評価を辛くするわけにもいかないので、どうしても評価が真ん中に偏ってしまう」

つまり部下の行動評価が可もなく不可もない「C評価(普通)」に集中する結果、成果評価のみで昇進や給与の増減が決まってしまうことになる。

本来の成果主義評価とは、その前提として目標達成に向けた創意工夫や努力を促すことで、本人の成長意欲を引き出すことにある。

顧客にどのような提案をすれば満足してもらえるのか、業務の流れをどのように改善すればよいのか、目標達成の行動プロセスを加味して評価するのが一般的だ。

それがなければ、同じような行動をとって成果を上げてくれるだろうという成果の再現性が期待できないからだ。

また、日本の成果主義評価の主流である「目標管理制度」では、期初に部門目標と部下の申告をベースに上司と話し合って達成可能な範囲の目標を設定。期末にその達成度について部下の自己評価と上司の評価をすり合わせて評価が下される。

こうしたプロセスもなしに、単なる数値目標の達成だけを評価したり、過大な目標を押しつけたりすれば何が起こるのか。

最初から仕事に対する意欲を失ってしまう社員もいれば、顧客を無視し、他の同僚を犠牲にしてまで強引にノルマを達成しようという社員も現れる。その結果、社員の成長意欲を潰すだけではなく、会社の持続的成長を妨げてしまう

これが成果主義のワナである。

ローソンで起きた成果至上主義の弊害

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撮影:今村拓馬

その典型例がローソンの事例だろう。

2018年度に売り上げの振るわない新規オープン店舗で、開店の翌月、ローソンの社員が収入印紙を自腹で購入する行為が全国で行われていたことが報じられている。

かさ上げに使われた収入印紙の販売状況は、2018年度は1回100万円以上の取引が43件もあり、50万円以上だと計79件もあったという(『朝日新聞』2020年8月15日付)。

自費で購入し、架空の売り上げを計上する行為は本部の得になることはない。そんな粉飾まがいの行為になぜ手を染めたのか。その背景には本部の人事評価制度があったとされる。

出店部門の社員は手がけた新規店舗の数が多いほど賞与が増える仕組みになっていた。

ただし、オープンした1店舗の翌月の1日あたりの売上高(日販)が当初の年平均予測の80%に達しなければ賞与に反映されない。逆に平均日販が65%を下回るとマイナス1店とみなされ、賞与が減額される仕組みになっていた。

そのため自費で収入印紙を購入し、店舗の売り上げを水増しする不正を行っていた。この評価制度は担当エリアの上司を含めて適用されていた。

ノルマに追われるコンビニの実態

実は数値至上主義の人事評価はローソンに限らない。24時間営業と大量出店による規模拡大をテコに成長してきたコンビニ業界にまん延していたフシもある。

2020年9月に公正取引委員会が「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」を公表した。独禁法に基づいて本部と加盟店の不公正な取り引きの実態を調査したものだが、ノルマに負われる本部社員(指導員)の実態も記されている。

商品の仕入れに関して、本部に強く推奨され、意に反して仕入れている商品があると回答した加盟店は51.1%もあった。

その理由として「本部の指導員から『自分もポケットマネーで購入するので店舗も協力してほしい』などと言われ、本部と店舗に挟まれた指導員をかわいそうと思ったから」という回答が最も多く、47.4%を占めた。

この構図はローソンと同じだ。ノルマ至上主義が社員を不正へと追い詰め、顧客だけではなく自身も疲弊させるという成果主義のワナに陥っている。

実はこうした業績・成果重視の人事評価制度は1990年代後半から多くの企業で導入されたが、2000年初頭に成果主義の弊害が大きな問題になり、それを契機にプロセス評価重視の流れに変わったという経緯がある。それが再びコロナ禍で復活する危険性もある

ジョブ型には育成目的の異動はない

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撮影:今村拓馬

もう1つ危惧されるのが安易なジョブ型(職務給)人事制度の導入だ。ジョブ型は求める役割・成果・スキルを具体的に示したジョブディスクリプション(職務記述書)に基づいて人材を採用・任用する仕組みだ。

職務範囲や評価基準が明確なために、物理的に離れて仕事をするテレワークと相性がいいとされる。

実際に米系人事コンサルティング会社マーサージャパンには、コロナ以降ジョブ型に関する企業の問い合わせが増えているという。しかし、同社のコンサルタントはこう指摘する。

「人材活用を含めた長期的人材戦略を持たずにジョブ型の導入が目的化している企業も少なくない。安易な仕組みの設計に走ることは大きなリスクを招く」

ジョブ型で給与は職務に張り付き、給与を上げようとすれば職務レベルを高める努力が必要になる。さらに昇給・昇進など年功的人事制度と違い、職責の有無や職務の成果によって降格し、給与減が発生するなどドライな仕組みでもある。

ジョブ型で降格、人件費削減というリスクも

そんな流れの中で、テレワークとは別に確信犯的にジョブ型を導入する企業もあるかもしれない。前述したように年功的賃金制度を崩し、職務の変更(降格・ポストの削減など)による降給など人件費をコントロールできるメリットがある。

実際にジョブ型導入による人件費削減を企図する企業が増える懸念もある。大和総研経営コンサルティング部の廣川明子主任コンサルタントはレポート「2020年代の人材マネジメントの方向性」(2020年9月25日付)でこう述べている。

「コロナ禍により業績が低迷し経費削減圧力が強まった場合は、「普通の企業」においてもジョブ型への変化が加速すると考える。バブル期に大量採用した50歳前後の社員の報酬は、年功序列の体系下でピークに向かっている。

当該世代に焦点を当てた人件費削減が真の目的であっても、

「年齢ではなく職務や貢献度で処遇する」ジョブ型は前向きに受け止められやすく、中堅〜若手の賛同を得やすいからだ」

その結果として、欧米企業のように離職を誘引する可能性もある。それだけではない。職務で人材の入れ替えを行うジョブ型では、低い職務レベルに滞留している人材のリストラも避けられない。

5年内に6割の管理職は「ジョブ型」へという調査

前出のマーサージャパンの「ジョブ型雇用に関するスナップショットサーベイ」(9月16日付)によると、雇用のあり方をジョブ型へ変えていく日系企業は管理職で現状の36%から3〜5年後には56%、非管理職は現状の25%から42%に増加するという調査結果を明らかにしている。

同社は調査結果についてこう述べている。

「日系企業における新卒採用については、一括採用は減少し、職種別採用およびコース別採用の割合が増加。同じく雇用調整においては、PIP(Performance Improvement Plan)の適用、降格・降給、退職勧奨の割合が増加し、従来の企業と個人の関係性の前提であったメンバーシップ型雇用からの脱却を目指す姿勢が明確となった」

リストラ手法まで変わる可能性

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ジョブ型雇用によってリストラ手法にも変化が訪れる可能性がある。(写真はイメージです。)

撮影:今村拓馬

ここに出てくるPIP(Performance Improvement Plan=業績改善計画)は欧米企業が導入し、一部の日本企業でも導入しているリストラ手法だ。基本的には人事評価が低い社員に改善目標を設定し、達成できなければ退職してもらうという仕組みだ。

具体的な選別手法は企業によって異なるが、ある米系アパレルメーカーの人事部長はこう説明する.

「縦軸に業績評価、横軸にコンピテンシー評価(行動評価)結果を示すマトリックスを作成する。業績・コンピテンシー評価ともに高い人はAランク、業績は高いがコンピテンシー評価が平均より低い人はBランク、業績は平均より低いがコンピテンシー評価が高い人がCランク、業績・コンピテンシー評価ともに低い人がDランクにそれぞれ分布される。PIPの対象となるのはDランクの社員だ」

日本のように曖昧な評価基準でリストラ候補者を選別するのではなく、明確な職務評価基準をベースに選別し、PIPによって退職勧奨を行うのも、ジョブ型のリストラ手法といえる。

コロナ禍の業績悪化によって成果主義の圧力が高まる一方、ジョブ型人事制度によってリストラの手法も大きく変わる可能性もある。

(文・溝上憲文

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