写真奥からiPhone 12 Pro、手前がiPhone 12だ。
撮影:石川温
アップルが10月23日に発売する「iPhone 12」「iPhone 12 Pro」を試用する機会を得た。同時に3キャリアのiPhoneで使える5G用SIMカードも調達。早速、都内をふらついて5Gの電波を浴びている。
2020年3月から3キャリアで始まった5Gサービスではあるが、NTTドコモですら8月1日現在で 24万契約と低空飛行が続いている。
日本のスマホユーザーの半数が持つiPhoneが5G対応したことで、日本でもようやく5Gが浮上することになりそうだ。アップルが5Gに本気だと感じた5つの理由を実機で確認した。
1. 日本でもキャリアと共同で5G技術を開発
アップルがiPhone 12シリーズの発表会で公表した5Gネットワークで協力関係のあるキャリア。
出典:アップル
アップルは5Gに関して長年、研究開発を続けてきた。
キャリアやベンダーとタッグを組み、5Gの技術を共同で開発。日本ではNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3キャリアがパートナーとなっている。
アップルとキャリアは実行伝送速度を上げながらもバッテリーの駆動時間を犠牲にしないように注力してきたという。
サイズが同じiPhone 12/12 Pro。
撮影:石川温
5G対応のiPhoneが他社の5Gスマホと異なるのはほとんどを自社で開発しているという点にある。
一般的に流通している部品を購入して組み立てるのではなく、iPhone専用に開発された部品を使うことで、iPhone内部の空間を効率化。
部品の配置をカスタマイズすることで、1つのiPhoneでどの5Gスマホよりも多い5Gの周波数帯に対応することができている。
対応周波数的にiPhone 12/12 Proは5Gの“ミリ波”に対応した「アメリカ向け」と、「日本・カナダ向け」「グローバル向け」「中国市場向け」という4種類の製品しか存在しない。
2. 5G接続時はFaceTimeがフルHD画質になる
5Gの恩恵をフルに享受するならばデータモードを「5Gでより多くのデータを許容」をオンにする。
iPhone 12/12 Proが登場したことで、ユーザーはどういった「5Gのメリット」を感じられるのか?
アプリの進化で言えばまず、アップルのビデオ通話機能「FaceTime」の高画質化が挙げられる。
これまで720pというHD画質で提供されていたFaceTimeだが、Wi-Fiもしくは5Gネットワーク接続のiPhone 12/12 Proでは、1080pのフルHD画質に高画質化する。
実際に、5Gエリアから別の5Gエリアにいる知人にFaceTimeをしてみたが、確かに写真かと思うぐらいの画質で、正直、ビックリしてしまった。
2020年、コロナ禍でさまざまなビデオ会議アプリを使ってきたが、どれも画質はいまいちで、とりあえず「コミュニケーションがとれればいい」というレベルでしかなかった。
しかし、FaceTime HDに関しては、臨場感の伝わり方が半端ではない。5Gは臨場感を伝えられる技術として期待されているが、まさにiPhone 12は、その一歩を踏み出したような気がしている。
羽田空港の展望デッキにてiPhone 12の超広角レンズで撮影。
撮影:石川温
実は、朝の情報番組や夕方のラジオ番組でリモート出演する際は局側からFaceTimeでつなぐことをお願いされたりもする。
放送局にいる映像や音のプロからすると画質や音質に優れ、セキュリティー的にも問題ないということでFaceTimeが選ばれているようだ。iPhone 12の普及により、FaceTime HDが広がれば、さらにプロの現場で使われるケースが増えてきそうだ。
なお、アップルは5G対応にあたって、音声や画像、動画の作成や再生など細かい作業をするためのiOS向けAPI「AV Foundation」を5Gに最適化。特定のAPIとガイドラインを提供することで、5Gネットワーク上で最善の形で作動するような指針を示している。
3. 2種類の5G通信設定を用意
「音声通話とデータ」設定画面では、「5Gオン」「5Gオート」「4G」の3つのモードを選べる。
iPhone 12/12 Proでは、iPhone側からキャリアに対して、ユーザーが契約している料金プランを確認し、使い放題プランであれば、自動的にFaceTimeや動画コンテンツの画質を上げるという仕組みが導入されている。
自動的に切り替えるには、やはりキャリアとの協業が不可欠だったとのことだ。通信する上でのプロトコルをアップルが正しく理解し、ユーザーにもちゃんと理解してもらえるように動作するには、「キャリアとインフラベンダーの協力」がなければならなかったようだ。また、通信設定において「5Gオン」「5Gオート」「4G」というように3つのモードを選べる。
「5Gオン」はバッテリー駆動時間が短くなる可能性がある場合でも、5Gにつながる場所では常に5Gにつながるというモードだ。
「5Gオート」はバッテリー駆動時間が大幅に短くならない場合にのみ5Gにつなぎにいく。
つまり、5Gの電波状況が安定しない時に無理してバッテリーを消費することなく、あえて4Gにつないでバッテリー寿命を無闇に減らさないという設定が選べる。
4. Sub-6中心の日本では“ミリ波非対応”でも問題ない?
発表会では大々的に米ベライゾンの5Gネットワークへの対応が発表された。
出典:アップル
SNS上での評価では「ミリ波に対応するiPhoneはアメリカでしか販売しない。日本で売られるiPhone12はミリ波に非対応なのが残念」という声を聞く。
5Gでは周波数帯が6GHz以下の「Sub-6」と、28GHz帯以上などを用いる「ミリ波」という主に2種類が存在する。
アップルとしてはアメリカ市場はシェアナンバーワンのキャリアであるベライゾンがミリ波を積極的に展開していることもあり、アメリカ市場向けミリ波対応が避けられなかったようだ。
日本向けiPhone 12 Pro(モデルA2406)が対応する5Gと4G(LTE)バンド。
出典:アップル
一方で、日本市場は街中ではSub-6を中心にエリア展開されている。また、4G LTEの通信品質が高く、ネットワークのスケジューリングも最適化されて、実行伝送速度も最大化できているため、アップルとしてはSub-6だけで使用には全く問題ないと判断したようだ。
実際、アップルでは本来であれば、本社のエンジニアが世界中に飛び回って走行走行テストをするはずであったが、コロナ禍だったために、世界に散らばるアップル社員がテストを行い、結果を本社と現地のキャリアに共有したのだという。その走行距離は800マイル(約1200キロ)に及ぶ。
5. 平均100Mbps以上の速度を実感、テザリングも高速化
実機で快適な速度を体感できた。
撮影:石川温
では、実際にiPhone 12とiPhone 12 Proを日本で使ってみるとどうなるか。都内各地の5Gエリアで使ってみると、平均して100Mbpsを超える速度が出ていた。
新宿駅周辺ではNTTドコモとソフトバンクで5Gが利用できたのだが、調子が良ければ200Mbps超え、平均して100Mbpsを超える感じであった。
大井町駅ではauの5Gが200Mbps弱だった。4Gでは数十Mbps程度だったので、5Gの方が概ね速いという感じだ。
一方、羽田空港第3ターミナル(旧国際線ターミナル)はNTTドコモの5Gエリアなのだが、800Mbpsを超える数字を記録した。
ただ、新宿駅周辺は人混みであり、羽田空港はほとんど人がいなかったという点も考慮する必要があるかもしれない。
スピードテスト中、下り800Mbpsを超えた時もあった。
撮影:石川温
今回、アップルではテザリングも高速化しているようだ。
ビジネスパーソンが出先でノートパソコンを使う際、Wi-Fiを経由するとセキュリティー的に不安があるが、iPhoneを経由すれば比較的安全な通信が可能だ。
5Gの料金プランであれば使い放題もしくはテザリングにも余裕のあるデータ容量となっているだけに、iPhone 12を「モバイルWi-Fiルーター代わりに使う」という需要も増えていきそうだ。
iPhone 12が出ることで各キャリアでは5Gネットワークの整備を急ぐことになるだろう。KDDIでは2021年度末まで人口カバー率90%を目指す。
今のうちにiPhone 12を手に入れていれば、「ある日、朝起きたら自宅が5Gエリアになっていた」と言う日も来るかもしれない。
(文、撮影・石川温)
石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。近著に「未来IT図解 これからの5Gビジネス」(MdN)がある。