2020年7月29日、アメリカ下院司法委員会の反トラスト小委員会で証言するグーグルのサンダー・ピチャイCEO。
U.S. House Judiciary Committee via REUTERS
- アメリカ司法省はグーグルを反トラスト法違反で提訴した。これはアップル、フェイスブック、アマゾンにも影響があるだろう。
- もしグーグルが敗訴すれば、議員たちは他のテクノロジー大手企業にプレッシャーをかけることができるようになる。事業を分割させることまで可能になるかもしれない。
- 訴訟の行方次第で、アマゾンは重要なサードパーティーの販売データを失い、アップルはApp Storeの管理権限を失う可能性がある。
アメリカ司法省は10月20日の朝(現地時間)、グーグル(Google)を反トラスト法違反で提訴した。テクノロジー大手企業をより厳しく規制するための長期に渡るであろう戦いが始まった。
司法省は、グーグルが検索と検索広告を不法に独占していることを告発している。例えば、グーグルがデバイス上でデフォルトの検索エンジンであるために年間数十億ドルをアップル(Apple)を支払っているように、競争を阻害する不公正なことを行っていると主張している。
グーグルは、90年代後半にアメリカ政府と争ったマイクロソフト(Microsoft)以来の、反トラスト法違反で訴えられたテック大手だ。また、反トラスト法違反で調査されているのはグーグルだけではない。10月初め、アメリカ下院司法委員会は1年に及ぶ調査を終えて、アップル、アマゾン(Amazon)、フェイスブック(Facebook)、グーグルの親会社であるアルファベット(Alphabet)の4つの最大手テック企業の独占状態を告発する報告書を発表した。
司法省が起こした訴訟は、アップル、アマゾン、フェイスブックなどの業界全体に波及し、テクノロジー業界の抜本的な変化につながる可能性がある。
それぞれの会社は失うものが違うだろう。検索はグーグルにとって必要不可欠なものであり、検索機能を切り離すことは同社の主要な収益源である広告分野に大きな影響を与える。フェイスブックにとってのリスクは、WhatsAppやインスタグラム(Instagram)といった人気のアプリを失うことだ。一方、アップルはApp Storeに対する支配を緩めることを余儀なくされるだろうし、アマゾンは外部の販売者のためのマーケットプレイスを手放すことになるかもしれない。
グーグルがこの訴訟で勝訴すれば、アップル、フェイスブック、アマゾンも自分たちの訴訟でうまくやれるかもしれない。しかし、もしグーグルが敗れれば、議会は彼らにプレッシャーをかけることができるだろう。
「重要なのは、政府がついにそれを実行したということだ」と語るのは、元司法省の反トラスト法専門弁護士で、カードーゾ法科大学院のサム・ウェインスタイン(Sam Weinstein)教授だ。
「もし私がこれらの会社の一員だとしたら、恐らくこう考えているでしょう、『これは事件だ』と」
「もしこれまでが非常事態だったとしたら、このようなことが起こった現在はさらなる非常事態だ」と同教授は付け加えた。
グーグルの広報担当者は「今回の司法省による訴訟は重大な欠陥がある。人々がグーグルを使うのは、強制されたわけでも、他の選択肢が見つからなかったからでもなく、グーグルを選択するからだ」と述べている。
この訴訟が他の大手テクノロジー企業にとって何を意味するのかを以下にまとめた。
アマゾン
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アマゾンは、サードパーティーが商品を販売できるプラットフォーム 「マーケットプレイス」 の運営について、複数の政府機関の注目を集めている。
下院司法委員会は10月に発表した報告書で、アマゾンはサードパーティーの販売データを利用して人気のある製品をコピーし、中小企業を「抹殺している」と述べている。
ニューヨーク州、カリフォルニア州、そして連邦取引委員会(FTC)は、アマゾンがどのようにサードパーティーのデータを収集しているのか、そしてどのように自らの製品をサイト上で優遇しているのかの調査を開始した。
これはおそらく、反トラスト法違反訴訟の対象になるだろう。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の最近の記事によると、多くの投資家や起業家らは、アマゾンは競合製品を開発するためのデータを取得する前に、競合企業に投資していたと述べているという。
反トラスト訴訟の結果次第では、アマゾンはマーケットプレイスをメインの販売サイトから切り離すことを余儀なくされ、有用なデータの宝庫にアクセスできなくなるかもしれない。
アマゾンは、競合製品を開発するためにデータを取得していることを否定し、同社とサードパーティーの販売業者を「互恵的な関係」と呼んでいる。同社はその後、中小企業が自社サイトで成功を収めていることをアピールする姿勢を強めている。
フェイスブック
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連邦取引委員会(FTC)は、フェイスブックが競合他社を無力化するためにインスタグラムやWhatsAppを買収したかどうかについて調査を続けている。
9月には、FTCが同社を提訴する準備を進めていることが分かった。Politicoによると、マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)CEOはこの調査の一環として尋問を受けたという。
ザッカーバーグは以前から、TikTokやグーグル傘下のユーチューブ(YouTube)などのサービスの成功は、テクノロジー業界に競争が存在することを証明していると主張している。
FTCが訴訟を準備していることをフェイスブックが懸念するのももっともだ。専門家はフェイスブックへの対処は最も単純で、インスタグラムやWhatsAppが別の企業に分離される可能性があると考えている。インスタグラムの広告売り上げは急成長中で、今やフェイスブックの総売り上げの4分の1以上を占めており、分離されれば同社の財政に大きな打撃を与えるだろう。
「企業分割の明白な対象はフェイスブックで、これは検討されていると思う」と、30年前にマイクロソフト(Microsoft)に対する反トラスト訴訟のきっかけを作ったシリコンバレーの弁護士、ゲイリー・レバック(Gary Reback)は言う。
「インスタグラムやWhatsAppをスピンオフする必要があると言うのは、それほど過激な意見ではない」
アップル
2020年初めに出された報告書では、アップルがApp Storeを利用して競合他社を不利な立場に置いているとして非難しており、アップルが提訴される可能性もあると見られていた。
問題となっているのは「アップル税」と呼ばれているものだ。アップルはアプリ開発者に対し、アプリ内課金の30%を手数料として支払うよう求めている。これは特にApple ArcadeやApple Musicなど、手数料を取られないアップルのサービスと競合する開発者にとっては、長い間負担になってきた。
Apple Musicの競合であるスポティファイ(Spotify)は、同じサブスクリプション料金ではスポティファイの方が収益が低くなると30%の手数料に対して不服を申し立てている。
この問題は、8月にアップルの決済システムを回避しようとした人気ゲーム「フォートナイト(Fortnite)」の開発元Epic GamesをApp Storeから締め出したことで再燃した。
アップルは、iPhoneやiPadのユーザーに対する露出は30%の手数料に見合っていると主張しており、さらに、その割合は他のデジタルストアと同等だと述べている。
また、アメリカ下院が10月に発表した反トラスト法に関する報告書では、アップルは自社製アプリを自社端末にプリインストールすることで、競合他社よりも優位に立っていると述べられている。
反トラスト法違反の解決策の1つとして考えられるのは、App Storeをサードパーティーの開発者に「開放」し、AndroidスマホやPCのように自由にアプリをインストールできるようにすることだ。また、アップルは別の課金方法を提供せざるを得ないかもしれない。
CNBCの分析によると、アップルは2019年、売上3000億ドルのうち150億ドルをApp Storeから得ているという。
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)