- 航空会社は、フライト中に乗客のコロナウイルス感染を防ぐためにあらゆる手を尽くしている。
- だが、訪問先が安全かつ完全に再開されない限り人は旅行しないため、航空需要は依然として低い。
- 航空会社にとって、かすかな希望の光と呼べるマーケットはあるものの、残念ながら利幅は小さい。
新たな研究によると、航空機内で新型コロナウイルスに感染するリスクは実質的にないという。
この研究結果は、パンデミック発生当初から旅行需要の大幅減で苦境にあえぐ航空会社にとっては朗報と言えるが、機内の安全だけでは乗客を呼び戻すにはまったく不十分だと業界関係者は語る。
国防総省とユナイテッド航空が共同スポンサーとなって行われたこの研究では、着席した乗客がマスクを着けていれば、空中感染粒子が他の乗客の呼吸域に入る可能性は満席時でも0.003%にすぎないと判明した。このことは、機内感染は稀だというこれまでのエビデンスを裏付けるものだ。
乗客の信頼を得るために機内の安全性を高めようと取り組むアメリカの航空各社は、この研究結果によってお墨付きを得た格好だ。清掃や衛生管理にはユナイテッド航空をはじめ各社が徹底して取り組んでいるし、デルタ航空やサウスウエスト航空などは、ソーシャルディスタンスに配慮して中間席を空けるようにしている。
デルタ航空やユナイテッド航空ではフライトごとに機内の消毒を行っている。
提供:デルタ航空
一方、この研究には厳しい見方もある。航空会社が研究を共催していることは明らかな利益相反であることから、一部の消費者は本研究結果に疑問を呈している。その後、各飛行機メーカーと国際航空運送協会(IATA)が合同で行った別のキャンペーンも、本研究と同様に専門家から欠陥を指摘されている。
ただし航空業界における短期見通しに関して、今回の研究結果が的外れと言える理由は、こうした懸念ゆえではない。
旅行需要は前年比わずか30%の水準で横ばいに推移しており、航空会社がいくら努力したところで、通常の水準にまで回復する目処は一向に立たないことが日を追うごとに明らかになっている。
飛行機が清潔なだけでは不十分
航空会社にとって本当の問題は「行き先がない」ということだ。
新型コロナウイルスは世界中に拡大しており、アメリカの多くの州では州外からの旅行者に対して隔離要件を設けている。渡航先の多くは、少なくとも部分的には閉鎖されたままだ。
ニューヨーク市の劇場は少なくとも2021年半ばまで休業が続く。市内のレストランは25%の客席稼働率で営業しているが、これから寒くなれば歩道やパティオで食事する客はいなくなるだろう。
マンハッタンのレストラン。コロナの影響で客足はまばらだ(2020年9月9日撮影)。
REUTERS/Carlo Allegri
カリフォルニアのテーマパークは閉鎖が続いており、オーランドでは入場制限がかかっている。純粋な娯楽のために旅行したい気分にさせてくれるバーもショップも美術館も、アトラクションがとにかく利用できないのだ。
では出張はどうか。通常、出張需要は大手航空会社3社の搭乗率の15~20%を占めるにすぎないが、収益では50%にあたる。それが停止した状態だ。コンベンションのような大規模イベントはすぐには開催されないだろうし、企業も、経済が冷え込む中で出張旅費を削減したいのはもちろん、従業員の健康や有事の際の賠償責任リスクを取りたがらない。
海外旅行に至ってはないも同然だ。エッセンシャルワーカーや合法居住者でもなければ、国境を越えることすらままならない。「自己隔離対象免除国リストが整い検査体制が拡充されれば、長距離フライトも再開の目処が立つかもしれない」という期待は、しょせん期待でしかない。
航空各社の経営者はこうした理由から、旅行需要が2019年水準まで回復するのは2023年か2024年ごろになるだろうと予測している。しかも、回復に必要な条件は経営者がコントロールできる類のものではない。デルタ航空のエド・バスティアンCEOは、先ごろ行われた投資家との電話会議で次のように語った。
「(回復の)タイミングは、すべての人の安全を確保するために我々が取り組める戦略よりも、ウイルスの状態とその医学的な封じ込めによるところが大きい。隔離をなくしたいというのが目標だからだ」
ユナイテッド航空のスコット・カービーCEOも、同社投資家向けの電話会議で同様の発言をしている。
「いくら機内が安全でも、出かける理由がなければならない。ディズニーランドが営業を再開しており、クライアントがオフィスで来訪者を受け入れる態勢が整っている必要がある。したがって、需要はすぐには戻らないだろう。ワクチンが広く出回るようになるまで、50%を超えることはないだろう」
カービーは、出張需要もいずれ回復するだろうが、需要の大半は出張ではなくレジャー関連と見ている。
「ワクチンが広く流通するようになれば、また出張の機会も回復するはずだ。対面営業をした競合他社に受注を奪われたとなれば、もうZoomでオンライン営業している場合ではない、となるだろう」
航空会社にとっての数少ない好材料
例年なら多くの旅行客で賑わうメモリアルデー(アメリカの祝日)だが、今年はチェックインカウンターにほとんど人がいなかった(ロサンゼルス国際空港にて2020年5月23日撮影)。
REUTERS/Patrick T. Fallon
航空会社にとって、ささやかながらも可能性がある分野といえば、VFR(Visiting Friends and Relatives:友人・親戚訪問)と呼ばれるセグメントである。
数カ月ぶりに家族や友人のもとを訪れようと思っている人たちは、レストランが閉まっていてもあまり気にならないだろうし、親戚宅に滞在できるなら隔離要件にも耐えうるはずだ。
国際線が再開されるとして、おそらく最初に需要があるのはこのVFRセグメントだろう。二重国籍者や複数居住者の中には、愛する人に会うために既にフライトを利用している人もいる。
ユナイテッド航空もVRF需要に期待している企業のひとつだ。特に来年、理想的には検査体制が整って制限が緩和され、可能な限りVRF需要を取り込みたいと躍起になっている。
同社の国際線企画責任者、パトリック・クエールは、Business Insiderの取材に対してこう語る。
「ロンドンや東京行きのフライトを利用されるお客様とは異なります。アメリカに帰国される方や、海外にお住まいでアメリカにいる親戚を訪ねてこられる方は、人間関係の濃さが特徴です」
一方、メキシコ、コスタリカ、ホンジュラスなどの国々は、主にレジャー目的でのアメリカ人の入国を許可し始めている。これを受けて、ユナイテッド航空はラテンアメリカとカリブ海沿岸諸国への路線を追加した。
デルタ航空もレジャー需要に基づいて調整中だ。同社のグレン・ハウエンスタイン社長は10月13日の四半期決算発表で、路線ネットワークを「戦術的に管理」しており、「感謝祭やクリスマスなどの休暇期間のピーク時を中心に乗客定員を増やし、ハロウィンや大統領選の週などのオフピーク時には減らしている」と語った。
結局のところ、あと数週間もすれば、航空会社がどのような回復を見せるかを正確に示す指標が出てくる。感謝祭期間の航空券予約は前年同期比で大幅減となっているものの、旅行者は現地の状況に基づいて、直前に予約すると見られている。
もし、旅行好きな人でも休暇に家族に会うために飛行機を使わないとしたら、航空会社がどれほどピカピカに飛行機を清掃したところで、唯一の明るい材料さえ暗いままということになるだろう。
(翻訳・印田知実、編集・常盤亜由子)