撮影:今村拓馬
Business Insider Japanの読者であるミレニアル世代、特に20代にとって、政権と言えば、安倍政権という印象を持つ人も少なくない。日本では稀に見る長期政権は、この世代にどんな影響を及ぼしたのだろうか。一方、彼ら彼女らの意識の変容が長期政権を可能にもしている。
ミレニアル世代のビジネスパーソンなどに聞く3回目は女性向けメディア『BLAST』や生理用品ブランド「Nagi」を企画・運営する石井リナさん(30)。「女性活躍」を目玉政策を掲げた安倍政権だったが、女性たちには現実はどう映っているのだろうか。
安倍政権時代に女性を取り巻く環境は変化したとは感じますが、その歩みは牛歩のよう。現場に女性は多いと思いますが、最終的な決定権を持つのは男性。そういう意味では、まだまだ男社会です。
近年、「#MeToo運動」が広がるなど、ジェンダー平等が世界的潮流となる中、日本でもジェンダー問題を意識する男性が増えてきました。ただ、「女性差別はいけない」と理屈では分かっていても、本質的に理解している男性はまだ少ないと思います。いつも不思議に思うのが、人種差別問題は理解されるのに、ジェンダー問題になるとなぜ理解してもらえないのかということです。
女性VCとつながれたことで広がる可能性
ハラスメントや性暴力に対して口をつぐんできた女性たちが#Metoo運動をきっかけに声を上げ始めている。
Getty Images/ Sarah Morris
先日、男性起業家や投資家の方たちがスタートアップにおけるジェンダーギャップについて話すセッションを拝見したのですが、こんなに真剣に考えてくれている人たちがいたのかと感動しました。
こうした男性が少しでも増えれば社会はもっと変わると思う一方で、表面的には「女性差別はいけない」と言うけど、どこまで本気なのかなと感じる人もいます。グローバル潮流もあり、差別すると非難される、炎上するという理由で言っている人も少なくない。
理解しようと努力しているけど、マジョリティがマイノリティのことを理解するのは本当に難しいと感じます。
特にスタートアップは実力主義の世界です。しかし、実力を発揮できるかは環境的要因も大きく影響します。女性起業家であるために、妊娠・出産などのライフイベントを想定され、男性起業家よりもマイナスに捉えられた経験もあります。
さらに起業家は男性同士のつながりが強く、男性だからこそ得られる情報がある。男性起業家はそうした有利な環境や特権に気づいていないかもしれません。
先日、VCに出資いただいた際、23歳の女性キャピタリストに担当してもらいました。同性というだけでこんなにも安心して何でも相談できるのだと気付きました。彼女というパートナーを得たことで、いろんな人とのつながりも増えたように感じています。女性のキャピタリストが増えれば、女性起業家も増え、女性起業家が増えれば、女性のネットワークも自然と広まっていくのではないでしょうか。
新入社員時、苦痛だと思っても声を挙げられなかった
34歳でフィンランドの首相に就任したサンナ・マリン氏。与党の党首は5人全員女性だ。
Reuters/John Thys
私が社会人になったのは、安倍政権が誕生した直後の2013年です。新卒で入社した会社の経営層には男性しかいませんでしたが、当時はそのことに疑問も持ちませんでしたし、接待の場で男性役員の横に座らされることもあった。でもそのことが苦痛で。「早く帰りたい」と思いながら、声を挙げることはできなかったです。
私がジェンダーの問題に関心を持つようになったのは、2016年頃から。日本のジェンダーギャップ指数が100位以下という現状を知ってショックを受けたことがきっかけでした。日本がジェンダーの側面においては先進国ではないことに気づき、何か行動しなければという思いから、2018年に女性向けメディア『BLAST』を始めました。
やる気に満ちて始めたのですが、最近は2年間活動しても社会が変わらないことに声を挙げ続けるのが少し億劫になってきています。
この間、フィンランドでは34歳の女性首相が誕生し、スペインは閣僚の半数が女性です。一方、日本の閣僚は保守系のおじいさんばかりで何も変わらない。20年以上前から議論されている「選択的夫婦別姓」すらまだ認められていない。これでは同性婚の法制化なんてまだまだ先の話だと思ってしまう。こんな日本が、これから変わっていけるのかとても不安です。
会社にはチャンスをくれる人がいない
就活の時点で初めてそれまで「平等」だと思っていた男性との間に格差があることに気づく女子学生も少なくない。
撮影:今村拓馬
「2020年までに女性リーダーの比率を30%に」という目標も先送りされましたが、そもそも女性が上の立場になることを諦めているのではと感じます。それも無理はなく、背景には家事や育児の負担が女性に偏っていて、一度退職すると正社員で復職することが難しく、非正規雇用を選ばざるを得ないという現実がある。
現状を変えるには家事・育児の分担に対する男性の意識を変えていくことが大切だと思いますが、我が家では私が料理をせず夫が料理をすると言っただけで驚かれることもあり、自分たちがマイノリティだと感じることが多いです。
一方で、女性のキャリアを支援する「SHE」というスタートアップが人気なのを見ると、今の若い女性はフリーランスとして年収を上げたいという健全な野心を持っている。会社員として上を目指そうと思っても、組織の中だと難しいと感じてしまうのではないでしょうか。
私自身、会社の先輩が出産後3カ月で、フルタイムとして復職してくるのを見て、自分には同じことはできないと思いました。会社にはロールモデルやチャンスをくれる人がいない。私が起業した背景には、「人生を自分でコントロールしたい」という思いもありました。
フェミニストはクールでカッコいい
ビヨンセだけでなく、テイラー・スウィフトやエマ・ワトソンなどアメリカのエンターテインメント界では、若いアーティストたちがフェミニストであることを公言し始めている。
Getty Images/ Kevin Winter
私は今、フェミニストを名乗っていますが、まだフェミニストと公言するのをためらう女性も多くいます。なかには、「私なんかが名乗るのはおこがましい」という考えの人もいますが、多くはフェミニストと名乗るだけでSNSで誹謗中傷にさらされることや、他人からどう思われるかを恐れているということもあると思います。
私もよく、フェミニストと名乗ることは怖くないですか?と聞かれますが、ビヨンセやエマ・ワトソンのような著名人が声を挙げていて、フェミニストはクールでカッコいいものとして影響を受けました。
日本では幼い頃から「女の子はかわいくないといけない」と刷り込まれています。10代の女の子向け雑誌は「モテるファッション」「彼のお母さんに気に入られる方法」などといったテーマの記事ばかり。アイドルもAKBに代表されるように、か弱さを含むかわいい女の子が多く、“かわいい至上主義”が蔓延しています。
一方、欧米や韓国のアーティストは「女の子は勇敢であれ、強くあれ」というメッセージを発信します。私自身、大学生の時にアメリカのドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』に影響を受け、もっと自由に自分らしく生きていいんだと気づかされました。ドラマや雑誌が与える影響はとても大きい。日本のメディアが伝える理想の女性像が「かわいい」に偏っていることにも問題があると思います。
人種や環境問題と違って、ジェンダーになるとなぜ炎上するのか。男性の中には女性が自分たちのポジションを奪う、と脅威に感じる人もいるからだと思います。反発されても、それでも声を挙げ続けないと社会は変わらない。制度や慣習自体はなかなか変わらないけど、それでも自分でできることをやっていこうと思います。
(取材・浜田敬子、構成・浜田敬子、松元順子、写真・今村拓馬)
石井リナ:大学卒業後、IT系広告代理店に入社、企業へのデジタルマーケティング支援に従事。2018年にBLAST Inc.を創業。エンパワーメントメディア「BLAST」と生理用品ブランド「Nagi」の立ち上げ、運営を行う。2019年、「Forbes 30 Under 30」インフルエンサー部門を受賞。著書に『できる100の新法則 Instagramマーケティング』(共著)。雑誌ケトルやForbes、朝日新聞デジタル&Mなどで連載を持つ。