チャットボット、不正検知、タスク自動化──加速する金融業界のAI活用:eMarketerレポート

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Shutterstock/Roman Motizov

金融業界でのAI(人工知能)活用には、顧客対応のためのチャットボット、不正検知、タスク自動化などさまざまなものがある。インサイダー・インテリジェンスによる調査レポート「銀行におけるAI活用(AI in Banking)」によると、多くの銀行(約80%)でAI活用の利点についての理解が進んでいる。

今後も「技術の進歩」「顧客による受容」「規制の枠組みの変化」などを背景に、金融機関でのAI活用が加速するとみられる。銀行はAIの活用によって、口座へのアクセスやお金に関するアドバイスなどのサービスを24時間年中無休で提供でき、顧客体験を大幅に向上させることができる。

金融サービスのAI活用事例

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AIは金融業界に革命的な変化をもたらしている。

Business Insider Intelligence

ビジネス上の利益や、デジタルサービスを好む顧客からの圧力が追い風となり、金融機関は幅広い領域でAIを導入している。主な活用領域には次のようなものがある。

個人資産・家計管理(パーソナルファイナンス)

消費者にとって経済的自立は大きな関心ごとだ。そのため、パーソナルファイナンス分野では、健全な家計運営を手助けするサービスへのAI活用が盛んだ。業界優位を目指す金融機関にとって、年中無休で相談できるチャットボットや、資産管理についてパーソナライズされたアドバイスを顧客に提供するAI技術は必須となっている。

この分野での先行的なAI活用事例に、キャピタル・ワンが2017年に提供を開始した「Eno」がある。これは、アメリカの銀行が採用した初めての自然言語でのテキストベース(SMS)顧客対応システムだ。12項目で顧客口座のお金の流れをモニタリングし、「不正利用の可能性」や「自動引き落としされる料金が通常より高い」などの異変を検知して注意を促したり、今後発生しそうなニーズを見越したアドバイスを行う。

個人向け金融サービス

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リスク管理におけるAI活用例トップ3:「不正検知と監視」「データセットのパターン分析」「コンダクトリスク管理」。

Business Insider Intelligence

金融業で最も重要なAI活用方法が、不正検知やサイバー攻撃防止だ。オンライン決済の不正による年間の被害額は、2023年には480億ドル(約5.6兆円)になるとインサイダー・インテリジェンスは予測している。こうしたなか、銀行などの金融機関はこれまで以上に徹底した安全対策が求められている。AIは顧客のお金の流れを分析し、人間が気づかないようなパターン変化を検知できる

純利益の半分以上を個人顧客サービスから得ているJPモルガン・チェース銀行も、顧客の資産を守るために不正検知システムを導入している。その一つが、クレジットカード決済をモニターする独自のアルゴリズムだ。クレジットカードが使われる度に、決済情報がデータセンターに送られて不正がないかどうか精査される。

インサイダー・インテリジェンスが実施した「アメリカの銀行のデジタルサービスへの信頼度調査2020」で、JPモルガン・チェース銀行は2位につけている。AIの活用によって、安全性と信頼性の両項目で高いポイントを獲得したことが大きく貢献している。

企業向け金融サービス

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AIを活用した信用分析のデータソースには「クレジットスコア」「購買履歴」「人口統計データ」「位置情報」「ソーシャルメディア」「ネットの閲覧傾向」「心理測定テスト」などがある。

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AIは融資のリスク予測や分析に長けているため、特に企業向け金融サービスに資するところが大きい。金融機関は融資の審査に機械学習などの技術を使ってリスクを軽減できる。また、精度の高い不正や不規則性の検知能力によって金融犯罪を減らせる。

こうした能力を持つAIは会計、アナリスト、財務、投資など各部門の担当者をサポートし、企業の長期的成長を助けることができる。

USバンクは、ミドルオフィスとバックオフィスの業務でAIを導入している。深層学習で顧客関連データを詳細に分析して不正がないかを監視する技術は、資金洗浄防止にも役立てられている。インサイダー・インテリジェンスのレポートによると、AI技術を使った不正検知は既存のシステムと比較して精度が倍増している。

金融業界におけるAI活用のメリット

金融機関がAI技術を取り入れることのメリットは非常に大きく、タスク自動化、不正検知、パーソナライズされた顧客への提案など幅広い領域で活用できる。フロントオフィスとミドルオフィスでのAI活用には次のような利点がある。

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人間のような受け答えが可能なチャットボットは、自然言語処理などの技術によって作られている。

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  • 24時間年中無休のフリクションレスな顧客対応が可能になる。
  • 繰り返しの多い単純作業を減らせる。
  • 誤判定やヒューマンエラーをなくせる。
  • コスト削減

AIによるミドルオフィス業務の自動化で、北アメリカの銀行は2025年までに700億ドル(約7.4兆円)のコストを削減できる。さらに、2023年までにAIの活用によって銀行が削減できるコストの総額は4470億ドル(約47兆円)になると推定されている。そのうち4160億ドルが、フロントオフィスとミドルオフィスに関するものだ。

フィンテック:金融サービスにおけるAI活用の今後

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銀行の利用方法についての2018年のアンケート。店舗よりもアプリの利用が多いことが見て取れる。

Business Insider Intelligence

消費者のデジタル志向や、テクノロジーを強みとするスタートアップの台頭に押される形で、金融機関はサービスのデジタル化を加速させている。2021年までに世界の銀行のIT予算は2970億ドル(約31兆円)まで拡大する見込みだ。

アメリカの銀行が新規顧客として取り込みたい最大のセグメントが、ミレニアル世代やZ世代の若年層だ。金融機関は、彼らが満足するデジタルサービスを構築するため、ITやAI関連の予算拡大を迫られている。銀行の利用方法に関して、若い世代は圧倒的にデジタルチャンネルを好んでおり、ミレニアル世代の78%が「可能な限り銀行の店舗には行かない」としている。

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Insider Intelligence/eMarketer

デジタルネイティブの顧客が増えたことで、すでにコロナ以前から店舗からオンラインやモバイルバンキングへの移行が進んでいた。だが、感染拡大で全国的に外出制限が敷かれると、その流れが一気に加速した。

インサイダー・インテリジェンスの予測では、2024年までにアメリカでのオンラインバンキングの利用は72.8%増、モバイルバンキングの利用は58.1%増となる。進化する業界で金融機関が成功し競争力を保つために、AIの導入は必須となる。

AIは、銀行などの金融機関が生き残っていく上で欠かすことのできない技術だ。ビジネスインサイダー・インテリジェンスによる調査レポート「銀行におけるAI活用」では、銀行のフロントオフィスとミドルオフィスにおいて、最も有効なAI技術の活用方法を示す。

また、金融機関によるAI活用の成功事例を紹介しながら、AIによるデジタルトランスフォーメーションを目指す、銀行がとるべき最適なアプローチを提示する。

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[原文:Artificial Intelligence in Financial Services: Applications and benefits of AI in finance

(翻訳・野澤朋代)

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