Seph Lawless; Skye Gould/Business Insider
2015年暮れのある朝、イリノイ州にあるシアーズの広大な社屋では十数人の社員が「B6」と呼ばれるテレビ会議室にこもっていた。2人の中堅社員がCEO エドワード・ランパート氏へのプレゼンテーションの準備をしていた。そこへ彼らの上司が最後のアドバイスをしに部屋へ飛び込んできた。彼は3つの単語をフリップチャートに書き込んだ。
その時の様子をBusiness Insiderに説明してくれた元シアーズの幹部によると「上司はプレゼンターたちに向かって『これらの単語を彼に言ってはいけない』と告げた」
「彼」とはランパート氏のことだ。間もなくテレビ会議室前方の巨大なスクリーンに現れる。彼は本部から1400マイル(約2250㎞)離れたフロリダの3800万ドル(43億円)の自宅オフィスにいる。3つの単語が書かれたフリップチャートはランパート氏のスクリーンには映らない所に置かれた。チャートに書かれていた単語の1つは「消費者」だ。
これはとても重要なことだった。もし、ランパート氏の前で、3つの単語のうちの1つでも口にすれば、プレゼンターの2人はCEOにボコボコにされただろう。彼の“口撃”の恐ろしさは、シニアマネージャーなら誰でも知っている。
「消費者」という単語はランパート氏が逆上する引き金となる。ランパート氏は社員に対して、買い物客を消費者と呼ぶのではなく、シアーズの会員組織に入会した「メンバー」と呼んで欲しいと言っている。
自分が出席している会議で同僚たちがランパート氏の前で不安そうにしているのを見た瞬間、ある幹部社員は、この沈みかけの創業123年の会社から逃げ出す必要があると悟った。
シアーズは苦境に陥っている
シアーズのCEOエドワード・ランパート氏
Reuters
ウォール街で活躍していたランパート氏は10年以上前にシアーズを支配下に置き、2013年に同社のCEOとなった。しかし、彼は滅多にオフィスには現れず(年に1度の株主総会に訪れるくらい)、そのほとんどをシアーズの本部があるイリノイ州ホフマンエステーツの“テレビ会議スクリーンの中で過ごす”。彼はマイアミ海岸沖のインディアンクリーク島で、シアーズのロゴが入った服を着用して、机に座っている方が好きなのだ。その島は民間警備会社が島の86人の住民の安全を守っていることから、「億万長者の隠れ家」と呼ばれている。
「スクリーン越しにしか彼を見ることはできない」と元幹部の1人はBusiness Insiderに語った。
ランパート氏の物理的な不在は、シアーズの業績が好調であれば、好意的に受け止められていたかもしれない。しかし、靴から掃除機まで、家庭で使用するあらゆる商品を販売することで有名なこの小売業者は今や、創業以来最大の危機に直面している。すでに数百店舗を閉鎖しているのだ。かろうじて開店している店舗でも、雨漏りや壊れたエスカレーターが放置されており、かなりまずい状態にある。ある店舗では、空いているフロアスペースを買い物客から隠すためにベッドシートをかけている。
億万長者のランパート氏はシアーズが破綻しないよう努力をしている。10億ドル(1132億円)の資金援助を関係各所に頼んでいる状況だ。
Business Insider
シアーズの内情を明らかにするため、Business Insiderは販売員から上級幹部まで十数人以上の社員と話をした(ランパート氏とシアーズからの法的報復を恐れ、自身が特定されないという条件で話をしてくれた)。ある女性社員は弁護士からのアドバイスのもとでオフレコでなら話しても良いと言い、ある社員は会社の情報を他人に話すことを禁止する秘密保持契約書にサインをしていると話した。
この記事の内容はシアーズの広報担当者2名にも詳細に説明した。その上でコメントを求めたが断られた。もちろん、ランパート氏へのインタビューも断られた。
Business Insiderに話してくれた社員たちは、幹部の入れ替わりの激しさとモラルの低下による内部の混乱を説明してくれた。「ランパート氏はシアーズを『テクノロジー企業』に転身させるため、店舗への投資を減らした」と上級幹部たちは述べた。一方、ランパート氏は「シアーズをより身軽な組織へと変化させつつ実店舗も所有する」と自身の戦略を解説し、「シアーズからもっとも価値のある資産とブランドを奪い去り、倒産を早めているのでは」という指摘を否定した。
同時に彼はシアーズのテコ入れを図るため、一連の不動産取引や金融取引を進めた。会社が破綻すれば、彼が所有するヘッジファンドのシアーズへの投資が間違いなく吹き飛ぶ。一方で、これらの取引は、ランパート氏に別の方法で恩恵をもたらすように仕組まれているとの批判もある。その結果、利益相反行為(りえきそうはんこうい)の疑いで株主代表訴訟が起きた。
オハイオ州のKマート(シアーズのグループ会社)では白いシーツで空いた棚を隠している。
Mark Schmidt(*)
業界ウォッチャーによるとシアーズの破綻はほぼ確実だ。アナリストは2年以内、もしくはそれより早い時期に会社更生法が適用されると見ている。
Business Insiderのインタビューに応じてくれた現社員や元社員は、アメリカの象徴的なブランドを破壊したことに対して、ランパート氏を真正面から非難している。
次のウォーレン・バフェット
54歳のランパート氏はウォール街の“名門の血筋”を受け継ぐ。エール大学を卒業後、ゴールドマン・サックスに勤務、そして26歳の時には自身のヘッジファンドであるESLインベストメント(以下ESL)を設立した。彼は30年のキャリアのほとんどを投資家として過ごしてきた。
2013年のウォール・ストリート・ジャーナルの記事によると、ESLは20年間にわたって年間投資利益率20%以上を記録し、史上最強の長期投資ファンドの1つとなった。2004年にはビジネスウィークが、ランパート氏は次のウォーレン・バフェットかもしれないと位置づけた。
インディアンクリーク島にあるランパート氏の自宅
Bing Maps
しかし、シアーズ凋落前のランパート氏のキャリアにドラマがなかったわけではない。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、2003年1月の夕方、ランパート氏がコネチカット州グリニッジにあるオフィスから車のある場所まで歩いている途中、4人組にからまれ、モーテルに連れこまれて28時間拘束された。これまでランパート氏がこの出来事について公に語ったことは一度もない。
この誘拐事件の際、ランパート氏は倒産したディスカウントストア「Kマート」の買収案件について、最後の詰めの協議中だった。2005年、シアーズとKマートは合併した。当時は「史上最大の小売業の合併」と騒がれた。この合併により、シアーズ・ホールディングスが誕生した。長期間にわたり、シアーズの大株主の1社であったESLは、新会社の約半分の株式をランパート氏と所有している。
シアーズ・ホールディングス設立の約1年後、ランパート氏はシアーズとKマート合わせて3000店舗以上を所有するこの企業を「550億ドル(6兆円)の売上高と社員35万人を擁するスタートアップ」と表現した。
「わたしの目標は、シアーズ・ホールディングスを素晴らしい企業にすることです。その偉大さが末永く続くよう経営してまいります」とランパート氏は株主に宛てた手紙の中で述べた。
彼はシアーズの戦略をAppleやマイクロソフトと比較している。株主に送った最新の手紙ではシアーズはUberやAmazon、テスラのように、新しい顧客のニーズに応えるよう努力をしていると述べている。しかし、小売業者という事実だけで、シアーズはウォール街から、それらの企業(UberやAmazon、テスラ)よりも厳しい視線にさらされているとも述べている。
「Uberのような新しい会社が置かれているビジネス環境では、ほぼ無制限に資金を調達できる。なぜ我々は、収益性や規制に関して、まったく異なる基準を要求されるのだ?」
数字を精査すると、シアーズ・ホールディングスは、急成長するテクノロジー企業群にまったく似ていないことがわかる。Moody'sによると、事業を継続するためにシアーズはすぐにでも15億ドル(1697億円)を調達しなければならない。
Skye Gould/Business Insider
Cowen&Coのアナリストは言う。シアーズがどのように資金を調達するかは「不透明なまま」だ。「今後、さらに多くの不採算店舗の閉鎖が予想される」
シアーズはまさに、その通りのことを実施している。2017年前半に、シアーズとKマート合わせて全体の約10%に当たる150店舗を閉鎖する予定だと先週発表した。シアーズは Stanley Black & Deckerへ象徴的なブランドであるCraftsmanを9億ドル(1018億円)で売却する契約をまとめた。その契約には、同ブランドの売上に対するコミッションの他に、近い時期に5億2500万ドル(596億円)、そして向こう3年で別に2億5000万ドル(284億円)の現金の支払いが含まれている。
加えて、KenmoreとDiehardブランドの売却先も探している。
さらにランパート氏は会社を存続させるため、ESLを通じて必要資金をシアーズに“融資”する。この2週間で、ESLはシアーズに第2四半期の3億ドル(339億円)の資金注入とは別に、 最大10億ドル(1131億円)の融資を約束している。ESLもまた損害を被っている。2016年3月の当局への報告書によると、総資産は2007年の180億ドル(2兆円)から28億ドル(3169億円)にまで減少している。
典型的な大型店舗を持つ小売業はオンラインショッピングの台頭やショッピングモールへの客足の減少により、厳しい局面に立たされているが、現社員や元社員が言うには、シアーズの問題は、このような業界の大きな変化よりもランパート氏のマネジメントとその戦略が原因だ。
*編集部注:円換算の数値が誤っていましたので修正いたしました。申し訳ございません。2017年2月12日11時30分。
データの不備を見つけて激怒する
従業員がランパート氏と“仮想的に会う”テレビ会議室は、激しい議論が起こる場所として知られている。
2年前、シアーズの新しい副社長が、ふらりとその会議室に立ち寄ると、トップマネージャーたちがテーブルの周りに座っているのを見つけた。彼は自己紹介をしようと「やあ」「ハイ」「調子はどうだい?」と声をかけたが、返事はなかった。「皆がわたしを見上げて『どこにいるのかわかっているのか?』といった感じだった」
なぜ、返事がなかったのか。後日、彼はその理由を知ることになる。
イリノイ州にあるシアーズ本社
Reuters
ランパート氏は会議中、特に反論されると激怒することで有名だ。社員はいつも、誰が最初にこの会議室に通されて、「打ちのめされる」のかを噂していたと元マネージャーは教えてくれた。
会議は通常プレゼンテーションから始まり、プレゼンターが答えられなくなるまでランパート氏は質問を浴びせ続ける。
「彼はデータの不備を見つけて激怒し、そこから45分間、怒鳴り続けるんだ」と、ある幹部は語った。
ランパート氏のマネジメントスタイルは以前から問題視されている。2013年7月のブルームバーグの記事では、「意思決定と説明責任を組織のレベルに合わせて改善する」と述べている。
しかし、この記事が掲載されてから3年で、状況はかなり危うくなっている。2013年初頭から売上高は37%減少、シアーズの債務は16億ドル(1811億円)を突破し、毎年10億ドル(1131億円)の損失を計上している。その債務の支払いのために会社は価値あるブランドや資産を売却しなければならなくなっている。
彼のやり方で買い物をする
ランパート氏に小売業界での就業経験はない。 彼が期待をかけたシアーズ変革計画の中核事業は、2009年に導入した会員組織「Shop Your Way」だ。
常連の買い物客は、シアーズやKマートでの購入時にポイントを貯めて、それをディスカウントクーポンに変えることができる。このプログラムに関わっていた元幹部によると、「Shop Your Way」の狙いの1つは、個人情報を収集して、それを他社に販売することだった。
ウィブサイト「shopyourway.com」には、友人のお気に入りや、購入した商品をメンバーが見たり、コメントしたりできるソーシャルネットワーキングの要素もある。
Eli Wexlerという名のユーザーは頻繁にこのウェブサイトに投稿し、例えば2495ドル(約28万円)のハンドバッグが「高すぎる? それともそれだけの価値がある?」と投稿している。
2013年にBloombergは「Eli Wexler」はランパート氏のペンネームであると伝えた。
2016年2月には、Wexlerとして投稿している(おそらくランパート氏)は、ボクシング・グローブのページをクリックして「誰かこのグローブ持っている? 思いっきりパンチしても自分の手を守ってくれるかな?」と投稿している。
Shop Your Way
ランパート氏は店舗の販売員に厳しいノルマを課し(新規登録件数を伸ばすため)、積極的にこのリワードプログラムを推進した。しかし、多くの点でその戦略は裏目に出た。というのは、このプログラムは複雑で、レジに長い列を作ることになり、買い物客を怒らせたのだ。
「このプログラムが原因でKマートでは、以前は1分あたり18品目をレジでスキャンできたが、今では5品目になった」。そう話すのは、同社に12年勤務し、2012年に退職した元アシスタント・マネージャーだ。腹を立てた客はショッピングカートを放置した。販売員は商品を元の棚に戻すことを余儀なくされた。
同時期にランパート氏がShop Your Wayプログラムの推進とウェブサイトへの投稿を始めたことで、実店舗への投資をやめたのではないかと社員は不満を口にし始めた。
ランパート氏は2016年2月、株主に向けて手紙を書いた。「実店舗への投資を控えているとの批判がありますが、以前から説明しているように事業変革のための投資は、店舗への投資をはるかに上回るのです。けっして実店舗を無視しているわけではありません」
Business Insider
「顧客の購買行動や小売業界自体の大きな変化を考えると、Shop Your Wayプラットフォームの導入や“統合的な小売業”への転換に対する投資は適切だと信じています」
“統合的な小売業”とは 実店舗とオンラインでの買い物の融合を意味するランパート氏自身の言葉だ。
シアーズは2014年にeコマースに関するレポートの提出を中止しているが、このプログラムに精通する2名の元幹部によると、Shop Your Wayは現在「利益の膨大な流出先」になっている。シアーズの主要来店客層は比較的高齢で、オンライン・ショッピングにあまり興味がないのだ。
「実店舗の売上は落ち込んでいる。そして、中高年層はオンラインで買い物をしない。いくらオンラインで買うように仕向けても、状況はすぐには変わらない」とある元幹部は語った。
ランパート氏はこのプログラムに参加している買い物客の数が「目標に達していない」と認めている。
「これ(Shop Your Way)を価値のあるものにしたとき、我々の評判は変わるだろう」と、Crain's Chicago Businessによると2016年の年次総会で彼はそう話した。
「天井は雨漏り、フロアはひび割れ」
3人の元幹部によると、ランパート氏の目標は、いつかシアーズを典型的な小売業からAppleやFacebookのようなテクノロジー企業に変革することだ。
「彼は頭の中で案件の進め方をすべて決めている。我々は“生ける死者”みたいに、彼が決めた方向へ向かって進んでいくしかない」と、元従業員の1人が語った。
この1年間の数十人へのインタビューを通して、繰り返し語られた言葉がある。それは「ランパート氏は現実を見ていない」だ。
「彼は店舗の改装に1銭も使いたがらない、店舗に入ると、天井は雨漏り、フロアはひび割れていて社員として恥ずかしく感じる。誰も彼のビジョンを信じていない。彼はただのならず者だ」と元副社長は語った。
Business Insiderは複数の販売員たちと話をした。彼らによると、店舗は極度の人員不足で、ある店舗では必要な店員数の半分以下で仕事をしている。結果、レジに店員がおらず、買い物客は手ぶらで店を出る羽目となる、といった具合だ。
ランパート氏は言う。「小売業は現在、業界をあげて、より“軽い資産”を有する組織へとそれぞれが“業態変更”しつつあるのです」
Skye Gould/Business Insider
ランパート氏は損害を被るのか?
シアーズの店舗で起こっているすべての問題に対して、ランパート氏は何が起ころうとも利益が得られるような別の方法を彼自身の様々な事業を通して、講じている。
ESLはシアーズの株式の過半数を保有しており、過去数年間で4分の3の価値を失っている。その額は2015年前期だけで15億ドル(1697億円)以上にのぼる。
一方で、ランパート氏はシアーズを破綻させないために、ESLを通じて11億2000万ドル(1272億円)の融資と追加で6億7900万ドル(767億円)を約束している。その見返りとして、シアーズは融資手数料と利息を直接ESL、つまるところランパート氏へ支払っている。つい最近の株主からの訴状によると、2014年の4億ドル(452億円)の融資に対して、手数料と利息を合わせて少なくとも1900万ドル(21億円)の支払いを受けている。
ランパート氏とESLは、シアーズが債務を支払えない場合、店舗や在庫を差し押さえる可能性がある。例えば、この4億ドルに関しては、計5億ドル(566億円)の資産価値がある25店舗を担保としている。
元幹部や専門家によると、万が一、会社が破綻してもランパート氏の懐はそれほど痛まないという。
「彼は片方のポケットから、もう片方のポケットへ資金を移しているだけだ。凄腕のアセット・ マネージャーだが、小売業者ではない」と元副社長は語った。
Skye Gould/Business Insider
テナントであり大家
株主は、ランパート氏がシアーズとの取引を通して、異なる方法で利益を享受している、とESLに対して訴訟を起こした。
ランパート氏が2015年に設立したSeritage Growth Propertiesという不動産投資信託がある。ESLとSeritageは別の法人だが、ランパート氏と彼のヘッジファンドはSeritageの株の43%を保有している。シアーズ・ホールディングスの保有率は54%。
Seritage設立後、ランパート氏は大きな不動産取引を計画した。シアーズは2015年に235店舗をSeritageへ売却、シアーズはその取引で27億ドル(3056億円)を調達し、さらにSeritageから店舗スペースを“借りた”。
多くの店舗において、Seritageはすべて、または半分のフロアスペースを引き継ぐ権利を保有している。空きスペースを他の小売店に、時には現在の賃貸料の4倍で貸している。
「Seritageは小売店への賃貸料を1平方フィート(約0.09平方メートル)あたり4ドルから20ドル以上に引き上げた。Seritageはシアーズに残っている不動産価値の重要性を証明した」とシアーズの取締役会のメンバーの1人であるブルース・バーコウィッツ氏は、この取引にも出資している自身の投資ファンドの説明会で述べた。
米国証券取引委員会に提出された書類によると、この権利はすでにシアーズ6店舗とシアーズオートセンター7店舗で行使されている。Seritageは他の9店舗においても、半分のフロアスペースを他の小売店に貸し出せるようにしている。
Business Insider/Hayley Peterson
シアーズはすべての賃貸借契約を解約して、Seritageに空きスペースを明け渡せるオプションを保有している。これはシアーズが店舗を閉鎖せざるをえない場合、Seritageは他の小売店に空きスペースを貸し出せるので、両社にとって都合が良い。シアーズはすでにそのオプションを行使して、17店舗での賃貸借契約を解消し、今月中にSeritageに明け渡す予定だ。
しかし、訴状では株主は、ランパート氏が彼のヘッジファンドや彼個人が利益を享受するために、シアーズ・ホールディングスの中核資産を切り取っていると告発している。彼らの言い分では、Seritageとの取引は店舗の市場価格よりも低い価格で販売されており、他のシアーズの投資家の利益を犠牲にして、ランパート氏が私腹を肥やしている、とする。
「ランパート氏はシアーズでのCEOというポジションを利用して、株主をコントロールし、会社の重要資産を不当な価格で切り売りしている。会社の最大利益を考慮せず、自身や、自身が所有するヘッジファンドの利益を追求しているのだ」。株主訴訟の代表法律事務所Labaton Sucharow LLPのパートナーであるネッド・ウェインバーガー氏はそう語った。
多くの社員が会社を去っている
部下に対して「消費者」と言わないよう指示した会議は、Business Insiderのインタビューに応じてくれた上級幹部にとって苦痛以外のなにものでもなかった。
その会議こそがシアーズを苦しい状態に陥れている問題の象徴だった。つまり、ランパート氏は「彼のビジョンに対する一切の反論を聞きたくないのだ。その意見がシアーズの業績を伸ばすものだとしても」とその幹部は語った。
彼は会議後、同僚に助言を求めた。すると、「船が沈没する前に逃げるように」と忠告された。
「彼は『あなたの在職中にシアーズは破綻するよ』と言った。この瞬間、わたしはシアーズを去るべきだと悟った」
Business Insider
過去数年間でシアーズから異常なくらい多くの社員が去っている。LinkedInのデータによると、少なくとも部門長レベルやそれ以上の上級幹部67人がこの2年で退職している。これらの社員の略歴を見ると、15人は入社後2年以内に、そして7人は12か月以内に退職していた。
この中には、CFOのロバート・シュリーズハイム氏、上級副社長のジェフ・バラグナ氏、そして社長のジョエル・マーハー氏も含まれている。退職に関して、3人にコメントを求めたが回答は誰からもなかった。
Kマートの店内
Business Insider/Hayley Peterson
「多くの人が去っているが、会社が破綻しかけていることが理由ではなく、むしろ会社のトップが彼らを怒鳴りつけ、非難し、責任を転嫁することが原因だ」
シアーズを担当したEvercore ISIの証券アナリスト グレッグ・メリク氏は、シアーズの幹部は「1〜2年ももたない傾向にある」と昨年指摘した。
本部に勤務している中堅社員によると、社員はLinkedInの略歴を更新したり、会社の状況について(仕切られた部屋の中で)「ひそひそ話」をしている。
しかし、何が何が起こるか、誰もにもわからない。
「今はすべて宙に浮いたままだ」とその社員は言った。
ゲームオーバー
現社員や元社員、取引先などによると、シアーズのサプライヤーは神経を尖らせており、注文を断っている。
7月に閉鎖されたシアーズのニューヨーク・デザインオフィスに勤務していた社員は、「1年ほど前からこの状況が始まった。現在はさらに増えている」と語った。
Business Insider
本部の中堅クラスのマネージャーもサプライヤーが契約をキャンセルしているとBusiness Insiderに語った。
「仕事をすることが非常に難しくなってきている。多くのサプライヤーがシアーズとの関係を絶ち始めている」
このマネージャーは、サプライヤー名を明かしてくれなかった。情報源が特定され、報復されることを恐れているのだ。
業界ウォッチャーによると、シアーズが生き残るチャンスはますます少なくなっている。
「いずれ事業継続はできなくなるだろう。この雪玉はもう丘のふもと90%地点のところまで転がって来ている」。倒産と債務再編の専門家であるVan Conway & PartnersのCEO ヴァン・コンウェイ氏はそう語った。
以上、これが「本部のテレビ会議室にいる幹部たちが非常に不安そうに見える」理由だ。一方でランパート氏はフロリダの自宅で、資金を注入する穴を見つけようとしている。
「いずれどこかの時点でシアーズの資産は底をつくだろう。ブランドと売上を回復させ、根本的にビジネスを立て直す戦略が練られる兆しはない」とコンウェイ氏は語った。そして、彼は続けた。
「もう、ゲームは終わったんだ」
source:ウォール・ストリート・ジャーナル、ビジネスウィーク、ブルームバーグ
[原文: Inside Sears' death spiral: How an iconic American brand has been driven to the edge of bankruptcy]
(翻訳:Conyac)