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「水曜どうでしょう」24年間の重み。藤村・嬉野Dは語る、大泉洋とミスターへの“信頼”を。

24年間の歩みで「どうでしょう軍団」が積み重ねてきたものとは…。

24年間の歩みで「どうでしょう軍団」が積み重ねてきたものとは…。

HTB提供、今村拓馬

HTBの人気番組『水曜どうでしょう』の新作が10月28日夜、北海道ローカルで放送が始まる。北海道のスター・大泉洋を育てた“奇跡の番組”は、この10月でスタートから24年を迎えた。

時に笑いを、そして時には互いの“言葉の応酬(罵り合い)”まで視聴者に余すことなく届けてきた「どうでしょう軍団」の4人だが、ディレクター陣は「4人が“ありのままの姿”を晒せるのは、互いの“信頼”があるからこそ」と語る。

コロナ禍のいま、テレビ業界への危機感を抱きつつも、『水曜どうでしょう』を24年続けてきたことで見えた境地とは——。新作の放送開始直前、藤村忠寿ディレクターと嬉野雅道ディレクターに話を聞いた。

大泉洋、曰く「こっちのほうがもっと手応えねぇな(笑)」

12年ぶりに同行スタッフなしで4人だけの旅に出る直前の「ミスター」こと鈴井貴之と大泉洋(2018年8月1日早朝、HTB旧社屋裏口にて)

12年ぶりに同行スタッフなしで4人だけの旅に出る直前の「ミスター」こと鈴井貴之と大泉洋(2018年8月1日早朝、HTB旧社屋裏口にて)

HTB提供

—— 今回は「はじめてのアフリカ」以来、7年ぶりの海外ロケ(ロケは18年8月実施)。しかも、12年ぶりに同行スタッフなしの4人だけの旅でしたが、手応えはいかがですか?

藤村:いやぁ……正直に言うとさ、こっちも手応えはなかったんだよ。「楽しかったな」とは思ったんだけどさ。ただ、「番組として面白いかどうか」はよくわからんという……(笑)。

—— 前作「北海道に家、建てます」でも、お二人は「ワクワクもドキドキもない」と、あえて自虐的ともとれる言葉を紡いでいました。大泉洋さんも「前作よりもつまらない」と取材で発言されていましたが……。

藤村:そうそう。あの時、全員が口ごもってモニョモニョしながら「手応えねぇな」って言ってたじゃない? でも、実際のオンエアはどうだった?

——「このままツリーハウスを作るだけで終わり……?」と不安に思いましたが、最後に「衝撃のラスト」があって……。大泉さんにドッキリを仕掛けていた「往年のどうでしょう」を彷彿とさせる内容で嬉しかったですね。

藤村:どんでん返しは本当に偶然で、仕組んだわけではなかったんだ。でも俺は「なるべくしてなった」と思っているんだよね。

でもさ、ネタバレになるから放送前にそこまでは言えないでしょう?

嬉野:そりゃあそうですよ(笑)。

藤村:確かに、ツリーハウスをつくる作業自体は大して面白いことはない。でも、そこしか事前に言えるところがなかったんだよね。

だから、「ワクワクもドキドキもないぞ」「迷走中だ」「がっかりさせたい」と、言える範囲で正直に言うしかなかった(笑)。

—— そして、今回も「手応えはなかった」と。

藤村:大泉さんなんか「家企画より、こっちのほうがもっと手応えねぇな(笑)」って話していたからねぇ。

でもさ、今回も出来上がりを見たら……やっぱり面白いんだよなぁ(笑)。

新作でも、大泉洋は「ボヤく」らしい。

HTB提供

—— “編集”によって見えてくる面白さが『どうでしょう』にはある。

嬉野:自分たちの「意識」というものを、やっぱり疑ったほうがいいんだろうなぁ。

誰一人として「面白くない」と思ってロケから帰ってきたんだよ? 大泉さんだって「いやぁ、今回はキツいんじゃないか?」って現場で言ってたんだから(笑)。

藤村:でもさ、編集されたものを見てみるとロケ中の感情では気付かなかった面白さの領域に至ってるんだよな。

「面白い」かどうか、現場ではその瞬間には気付かないんだよ。でもさ、後になって編集して、客観的に見てみると、「いやぁ、これは面白いわ」ってなるんだよなぁ。

嬉野:俺らにしたって、大泉さんにしたって、ミスターにしたって「どうでしょう軍団」4人には「今ここでやっていることは芸に至る」っていう覚悟、言うなれば“至芸”の意識は全くないんだ(笑)。

実を言うと藤やん、本当はユーコン川に行きたかったんだって。でも、今回は「4人だけで行く」って先に決めていたものだからさ。それなら「旅の流れに任せよう」って思ったんじゃないかな。

ただ、それもあって、藤やんも「真っ白になるぐらい、何かをやらなきゃいけない」という観念からは、どこか自由になっているように見えた。

藤村:「この二人(ミスターと嬉野D)に責任を押し付ければいいや」「この二人が行きたいところに行くんだから」って思っちゃったんだよな。

取材に応じる嬉野雅道ディレクター。

取材に応じる嬉野雅道ディレクター。

撮影:今村拓馬

嬉野:後から聞けばそう思っていたらしい。でも、その辺りは大泉洋にも見えたらしいのよ。

大泉さんは「オレがまだぼやいているのにだよぉ?藤村さんが『じゃあ予約してくるわ』って、事務的な手続きをし始めるんだよぉ?」なんてボヤいていた(笑)。

藤村:「大泉さん、もういいよ」なんて部分もあったな。

嬉野:そういう「常」とは違う状況で、4人が旅をしたんだろうな。それで4人が4人とも「うーん…」って唸っていた。だからこそ、ロケから2年も塩漬けになっていた。

でもさ、つないでみたら(編集してみたら)ついつい見ちゃう。ここの面白さって、計算してつくれるものじゃないんだよな。

藤やんも「家企画より、今回の方が好きだな」って言ってなかった?

藤村:うん。「手応え」はなかったんだけど、「楽しかった」のは間違いない。大泉くんも、「こんな感じだったら、また1年に1回と言わずやりたいな」って。

4人でやって、「楽しかった」っていうのは初めてだったかもしれない(笑)。

これまでは「(番組として)面白い」と「(4人が)楽しい」は別だと思っていたんだ。でも、楽しかった上に面白い映像になったから、「これはこれでいいんじゃねぇのかな?」って思っているんだよね。

D陣の共通見解は「昔より、今のほうが面白い」

「シェフ大泉 夏野菜スペシャル」のワンシーン

「シェフ大泉 夏野菜スペシャル」のワンシーン

HTB提供

—— 24年の歳月で「楽しい」=「面白い」という境地に至った理由は。

藤村:やっぱり4人の関係が24年で熟成してきているからだと思うんだよね。大泉くん以外は全員50歳を超えた。嬉野さんは昨年、還暦を迎えましたからね。

最初の頃は若いワインのように多少は尖っていたけどね? 今はさ、誰が飲んだって「うまい」って思うぐらいになったんだよな。

ただ、そのかわり「クセ」があるのよ。「臭さ」もある(笑)。

だから、今までのどうでしょうを見たことがない人は、いきなり今のものに手を付けようとするなら、ちょっと待ってほしい。「もう少し若いミディアム(ボディ)くらいの、1999〜2000年ぐらいの飲みやすい企画を飲んだほうがいいぞ」って思うんだよな。

でも、「うまさ」で言ったら、今のほうがいいと思う。うまくなっている気がする。

嬉野:大泉洋は、ロケ中も「俺のライバルは過去の俺だから」って言っていたんだ。そういう印象が大泉さんの中にはあるんじゃないかな。

見ている視聴者の中にも、過去の印象と対比することがあるはずなんですよ。人の心に残っている「印象」というのは強いからね。

でもさ、見比べてみるとですよ? 「お前、明らかに今のほうが面白いよ」って思うもの(笑)。個人的にはどっちが面白いかって聞かれたら「いまのほうが面白い」と思うし。

藤村:落語家さんだって、若い頃の勢いがある落語も面白いけど、熟練の落語家さんが何の気無しに、ほんの少し発した一言が面白いことってあるじゃない? その域に入ったんだと思う。その時、その時の面白さがあるんだと思う。

嬉野:そう。だから、本当は昔の企画と今の企画を比べてもあまり意味がないかなって思うね。

談笑する藤村忠寿ディレクター(右)と嬉野ディレクター。

談笑する藤村忠寿ディレクター(右)と嬉野ディレクター。

撮影:今村拓馬

—— なるほど、24年モノの円熟味ですか。

藤村:そうそう。まさに円熟味が違うんだ。

だって、あれだよぉ?こっちだってね?そんなしょっちゅう大声を張り上げて、やれ「馬鹿じゃないの?」って言わないもの。

だけどね? 会話の流れに渋さがあるんですなぁ……。大泉さんは今回、俺のことを「虫」呼ばわりしてきたんだけど、そうなるとこっちも返し方が変わってくるからね(笑)。

—— 大泉さんは以前も藤村さんのことを「カブトムシ」「ゲンゴロウ」とか言っていましたけど、それとはまた違う。

藤村:そうなんだよ、やれ「カブトムシ」とかは言っていたよね。

でもさ、なんだろう……。あの頃は「若いやつが上に必死になって抵抗する」っていう感じだったじゃない? 今では彼(大泉)のほうが大御所感が出てきちゃって。だから、それに対して俺らが偉くなった大泉を若干茶化しているみたいな……(笑)。

—— 放送されることは意識しつつ、円熟の「流れ」に任せた。

嬉野:オンエアされて、みんなに見られることは4人とも意識しているはず。それは当然、心のどこかでは意識して話をしていると思うんだ。

でも、その上で流れというか、転がっていくっていう流れなんだよなぁ。

—— それは、大泉さんが言うところの「視聴者代表」としての嬉野さんにしか見えない視点かもしれませんね。

藤村:「ファン代表」とか言われながらも、この方も普通に番組に入ってきているからな(笑)。

嬉野:ほらさ、何かあったら一応口は出さないとねぇ…?自分が低い身分になっちゃうからさぁ。

なにか自分に失態があったときもさ、「俺はそんなことしてねぇ!」って反発してみるんだよ。

でも、そこで面白くなっちゃったら使われるでしょ?とりあえずは否定しておかないと、俺が世間にそう思われちゃう。そこは「介入」していかなきゃいけないでしょ?(笑)。

いずれにしろ、テレビに写っている自分たちを他人に見られるなら、そりゃあいい感じに写りたいと思うわけですよねえ(笑)。

会話だって「割と面白い感じにきているな?」って意識したりする。そういうものが見え隠れするのも、なかなか面白いじゃない?

藤村:そうそう。そういう24年の「円熟」をじっくり味わってほしいよね。いいか、今回も視聴率とか全く考えてないからな。

前回の家企画も、もし数字が低かったら「視聴者、そこまで見る目下がったか…?」「こういうものを見ないとだめだろ!?」って思っていたぐらいだもの(笑)。

コロナ禍のテレビ業界への危機感…だからこそ、ビジネスで工夫を。

藤村ディレクターは緊急事態宣言後、赤平のツリーハウス「水曜どうでしょうハウス」に籠もり、野鳥を観察しながら来し方行く末を考えたという。

藤村ディレクターは緊急事態宣言後、赤平のツリーハウス「水曜どうでしょうハウス」に籠もり、野鳥を観察しながら来し方行く末を考えたという。

撮影:今村拓馬

——ただ、新作放送までにはご苦労もあったと聞きました。9月には、お二人が全国12箇所を訪れるイベント「どうでしょうキャラバン」が2年ぶりに企画されていましたが、コロナ禍で中止に。お二人とも中止までには葛藤があったと近著で明かされていました。

藤村:本当はギリギリまでやろうと思っていたんだよね。でも、7月下旬から状況が一変し、8月の頭に中止を決めましたね。

嬉野:4月の緊急事態宣言に入ってすぐぐらいにHTBスタッフのグループにLINEが来て。あの時は5月か6月に判断を伸ばすって話だった。それに対して私は「そんなものは言語道断だから、今すぐキャラバンをやらないということを宣言すべきだ」って言ったんですよね。(中略)

藤村:でも、結果キャラバンはなくなったわけでしょ。だからあなたのあの時の危機の察知というものは、当時は非常に個人的な感覚だったけど正しかったわけですよ。結果としてなくなったわけですから。でもその時にオレの考えは、察知能力がないほうだから、「どうやったらできるかって考えるほうが、前にすすめるだろう」って思っていた。(中略)

あの時に、誰よりも先に「キャラバンはやりません。コロナウイルスを鎮めるために家で楽しみましょう」「そのために家でどうでしょうをずっと観ましょうよ」っていう思考になっていれば、たぶんオレも誰よりも早く秋のイベント中止を決めたと思うんだよね。そこにオレの頭が回ってなかったっていうだけの話。

でも結果的に中止になったから、あの時のあなたの判断は正しかったんですよ。
(藤村忠寿・嬉野雅道『週休3日宣言 水曜どうでしょうハウスにこもって考えたこと』より一部抜粋)

藤村:ただ、このコロナ禍でテレビ業界はキー局を含めて危なくなってきた。「売れるものがあったら売らなきゃ」と思っていたんだよね。

うちもイベントに備えてグッズを作っていたから、それをなんとかしなきゃいけない。でも、ただグッズだけ売るのではお客さんにはなかなか買ってもらえないでしょう?

—— そこで思いついたのが「エアキャラバン」という企画。お客さんがいる体で、ミスターさんが住まう「赤平の森」で無観客のイベント会場をつくり、ネットで中継した。

藤村:やってみたら、意外とお客さんからは「雰囲気を楽しめてよかった」と仰っていただけて…。「また俺たちは新しいやり方を発明したな!」って言い合っていた(笑)。

昨年、札幌で開催した「どうでしょう祭」も、これならまたできるかもしれない。1日1万人しか入れなかったイベントが、ネットなら10万人、20万人で同じ時間を共有できる。

「エアキャラバン」にはカリスマスタイリストとしてファンに愛される小松江里子さんも登場。

「エアキャラバン」にはカリスマスタイリストとしてファンに愛される小松江里子さんも登場。

Twitter/@SD_UNITE2013

—— 実際、エアキャラバンでは3000個の福袋グッズが完売した。

藤村:俺たちは「エアキャラバン」というコンテンツ自体でビジネスをしようとは思っていないんだよね。

たくさんの人がこのイベントを見てくれて、そこを入り口にグッズが売れたらいいなって思っていた。

コンテンツ自体でビジネスをするわけではない。そこを入り口にすることに成功したんだと思う。「福袋」型式という売り方も工夫したんだよね。

——「工夫」ですか?

藤村:これまでは品揃えを多くしたほうがお客さんに親切だと思っていた。だけど、コロナ禍では「品数が多ければお勘定の時にお客さんが並ぶことになる」という懸念が中止を決める前からあって。

そこで思いついたのが「グッズひとまとめで5〜6000円の福袋にしよう」っていう案だった。

この案はエアキャラバンでも使えたし、イベントの建て付けとしても「3000個つくったけど、それを売るためにやっているんです…!」というイベントの目的も明確にできた。

お客さんを楽しませることが大事だけど、「3000個のグッズをを俺たちが売り切る」という意図がはっきりしていた。

エアキャラバンを観てくれたお客さんも「せっかくだし、1個ぐらい買おうか」って思ってくれた。正直に「買ってくれ」と言えたことが強かったなと思うね。

『水曜どうでしょう』を24年間続けてきた意味とは…。

撮影:今村拓馬

—— コロナ禍の時代、『水曜どうでしょう』という存在は、私たちに日々の“日常”の尊さを感じさせてくれる貴重な作品になったような気がします。24年間の歳月で円熟しつつも、変わらず4人が画面にいる姿には安心感を覚えます。

藤村:俺たちは普通のことをしているんだけなんだけどね(笑)。でも、SNSとかで色々な人が色々な発言をするようになって、(世の中の)言葉がちょっとキツくなってきた気はする。

普段の話し言葉は嫌味なくらい丁寧なのに、SNS上で交わされる言葉は聞いたこともないような嫌な言葉と、へりくだり過ぎている言葉があるよね。

新作での4人は、現代の人々のコミュニケーション能力を超えているというか……(笑)。「そこまで言っていいの?」みたいな悪態を平気で言う。だけど、1時間後には4人ともケロっとしているんだよね。

—— 血が通ったコミュニケーションが、そこにはある。

藤村:建前のある「血の通った言葉の応酬」みたいなものが、随所にあるわけだよね。

嬉野:視聴者は面白さを醸し出すために我々4人がどう立ち回るか、その関係性を24年間見続けてくれている。我々4人の間にも、我々とお客さんとの間にも互いに信頼関係がある。

そういうお客さんが観てくれているからこそ、我々にもどこか安心して丁々発止のやり取りができるわけで。それは今のテレビでは、なかなか観られないよね。

そこにこそ、我々4人が『水曜どうでしょう』を24年間やってきた意味があるんでしょうね。

(取材・構成:吉川慧

※「水曜どうでしょう」2020年最新作は10月28日午後11時15分から北海道ローカルで放送後、各地の放送局でも放送予定。HTB北海道onデマンドではHTBでの放送終了直後から有料配信する。

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