DXで50代営業パーソンの給料が上がる?「人間だけができること」とデジタルを掛け算せよ【音声付・入山章栄】

経営理論でイシューを語ろう

撮影:今村拓馬、イラスト:Singleline/Shutterstock

今週も、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生が経営理論を思考の軸にしてイシューを語ります。今回のテーマは「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。DXは日本のイノベーションにも必要不可欠と言う先生。いったいどういうことでしょうか?

【音声版の試聴はこちら】(再生時間:9分10秒)※クリックすると音声が流れます


デジタル庁新設。DXが不可欠な本当の理由とは

こんにちは、入山章栄です。

いま日本のビジネスで最も話題になっているキーワードが、DX(デジタル・トランスフォーメーション)です。実は僕も、DXをテーマに講演依頼をいただく機会が急激に増えています。Business Insider Japan編集部の横山耕太郎さんや常盤亜由子さんは、DXの必要性についてどのように感じているのでしょうか?

横山さんと常盤さんの声

菅政権下で、デジタル庁の担当大臣はこの分野に明るいと言われる平井卓也さんになりましたし、期待したいところですよね。

さきほども言ったように、僕は最近DXをテーマにした講演やイベントに呼んでいただいたり、取材していただいたりすることが多くあります。そこでいつもお話しするのが、「DXはこれからのビジネスに不可欠だ」ということです。

なぜなら、DXそのものが重要というよりも、DXを進めた結果として会社がよりイノベーティブになる可能性があるから、というのが僕の説明です。

つまりDXを通じて、今後はAIや、RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション:ロボットによる業務の自動化)などが日常の仕事に入ってくる可能性が高い。

この連載では何度も言っているように、これからの時代、企業はイノベーションを起こして新しい価値を生み出していかなければいけません。でも口で言うのは簡単ですが、実際にイノベーションを起こすのは大変なことです。なぜならそれには、この連載で僕が何度も取り上げてきた「知の探索」という、手間と根気のかかる行為が必要だからです。

本連載で何度か述べていますが、イノベーションとか新しいアイデアというのは、既存の知と既存の知の組み合わせで生まれます。けれど人間の認知には限界があるから、どうしても目の前の知だけを組み合わせてしまう傾向がある。そのため遠くまで知を探索するのではなく、近くだけを深掘りして効率化するようになる。つまり「知の深化」のほうだけをやりがちになる。

効率性を求めるという意味ではこれでもいいのですが、それだけでは中長期のイノベーションが枯渇してしまいます。だからこれからの時代は「知の深化」ではなく、「知の探索」にも力を入れていかなければいけない。それが僕のよくいう「両利きの経営」(Ambidexterity)です。これは僕のオリジナルではなく、世界の経営学では非常に重視されている考え方です。

さて、ここで考えてみてください。よく考えると、実は「知の探索」に必要なことは、すべて「人間にしかできないことばかり」であることに気づくはずです。遠くまで見渡して、大変でも離れた知と知を組み合わせること、そして失敗してもいいからそれを続けることは、人でないとできません。

AIと人間

AIが得意なのは知の深化。イノベーションに必要な知の探索は、むしろ人間の得意領域だ。

Alexander Limbach/Shutterstock

それに対して「知の深化」のほうは、すでに組み合わさったものを改善して、エラーを減らしていくということです。したがって、実はAIやRPAが最も得意とするところなのです。逆に、AIは知の探索は苦手です。なぜなら、AIとはある意味で「失敗をしない」ようにしていく仕組みだからで、「失敗してもあえてやる」ことは一番苦手なのです。

ということは、今後みなさんの会社がDXを進めていけば、「知の深化」はAIやRPAが代わりにやってくれるのです。逆に言えば、それまで深化に使っていた優秀な人材や従業員の時間を、「知の探索」に振り向けることができる。

もうお分かりでしょう。DXは実は、知の深化から人を解放し、より人間らしい「探索」を促すためのインフラと捉えられるのです。僕は、だからこそDXは不可欠と主張しています。

先ほどの横山さんの経費精算の伝票処理も、今後はAIやRPAにやらせればいい。そうやって空いた時間で、横山さんは今まで行けなかったような遠くに取材に行ったり、大勢の人に会ったりして知と知を新しく組み合わせ、より興味深い、誰も書けないような記事を書けるようになるはずです。だからDXが重要なのです。

DXで50代の営業パーソンの給料が上がる理由

さて、このように経営理論を思考の軸にすれば、DXは不可欠だと言える訳ですが、とはいえ「デジタルに慣れているのは若い人たちで、デジタルの苦手な年配にはDXはやはり脅威に感じてしまう」という意見が多いのも事実です。しかし僕は、必ずしもそうとは限らないと思っています。

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