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それでもトランプが挽回する3つの理由。バイデン当選で懸念される民主党支持者への攻撃

トランプ大統領 10/27エプリ空港にて

コロナから回復後も、激戦州を中心に大規模集会を何度も開いているトランプ大統領。

Gettyimages/Steve Pope

「大統領選挙の投票日前後のデモと暴動に備えて、勤務シフトが変わった」

と、ニューヨーク市警に勤める警官の友人から連絡があった。平時は1日3つのシフトを、4つのシフトの「小隊」に分けて大規模なデモに警戒・対応するという。

アメリカ大統領選の投開票日である11月3日の翌日4日、筆者もすでに3つのデモに登録した。デモは、人権運動の「ブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命は大切だ)」や、2011年の反格差運動であるオキュパイ・ウォール・ストリートに関する団体などが計画している。選挙で不正が行われたり、トランプ大統領の敗北が明らかになっても、トランプ氏が投票に不正があったと主張し政権交代を拒否した場合に反対するためだ。

投票所に出現する「極右民兵」の存在

BLM抗争オレゴン

トランプ米大統領支持者とBLM抗議者の抗争を警察が止める様子(2020年9月、オレゴン州ポートランドで)。

REUTERS/Carlos Barria

大統領選を控え、アメリカは不穏な空気が立ち込めている。トランプ、バイデンどちらが当選したとしても混乱が必至だとみられているからだ。アメリカ市民が今恐れているのは具体的に以下のようなことだ。

  1. 銃の携帯が許されている保守派の市民が多い州で、投票所で不正が行われないように警戒するという理由で、武装した市民、つまり「民兵」が出現する可能性がある。
  2. ブラック・ライブズ・マター運動のきっかけは、白人警官による黒人男性の殺害事件だった。このため、警官に対するデモが起きないように、各州が警官による投票所の警備を退けている。
  3. 特に激戦州で、トランプ派とバイデン派がそれぞれを支持する帽子やTシャツを身につけていることで、小競り合いが起きる可能性がある。

第1の「民兵」の出現はかなり現実的だ。テロや暴動の危機を予測・分析する「武装衝突の場所・イベント・データプロジェクト(ACLED)」などが10月21日発表した報告書によると、投開票日前後に極右の「民兵」のデモ・暴力行為などで最も高いリスクにさらされるのは、中西部のミシガン、ウィスコンシン、北東部ペンシルベニア、南部ジョージア、西部オレゴンの5州という。5州は大統領選の結果を左右する激戦州で、すでに殺人を含む民兵の動きが報道されている。

ACLEDは全米約80の武装民兵組織を追跡し、そのほとんどが極右と認定。各州にある民兵組織のリクルートや訓練状況、また、新型コロナウイルス感染拡大による経済・都市閉鎖に対する反感の高さなどを調査した。経済閉鎖やマスク着用を嫌うのが保守・右派の傾向だからだ。投票日が近づくにつれ、極右の組織でメンバーが増え、SNSでの連絡や活動も活発化していると報告した。

州知事の誘拐未遂事件とトランプの号令

ホイットマー知事

「民兵」組織によって誘拐が計画されていたミシガン州ホィットマー知事は、新型コロナウイルスに対して徹底した対策を呼びかけていた(写真は10月16日、バイデン氏とのイベントにて)。

REUTERS/Tom Brenner

この報告を先取りするかのように、米連邦捜査局(FBI)は10月8日、激戦州ミシガン州のグレッチェン・ホィットマー州知事(民主党)を拉致し殺害する計画を立てていたグループ13人を逮捕した。10月26日には、関連の爆破装置も発見された。ホィットマー州知事は新型コロナの感染拡大を抑制するためマスクの着用を義務づけ、経済や学校閉鎖を行ったために、武装市民が州政府を封鎖するなどの事件が起きていた。

またトランプ大統領は9月29日のテレビ討論会で、最もよく知られている極右・ヘイト組織である「プラウド・ボーイズ」を否認しないのか、という質問に対し、「スタンド・バック、スタンド・バイ」、つまり軍隊用語で「銃を控えて下がり、準備せよ」と発言した。これに対し、討論会の直後、プラウド・ボーイズ幹部が「イエス、サー!(命令してもらい)嬉しくてたまりません」とブログに書いた。

これら2つの事件は、投票所に武装した民兵あるいは市民が現れることを、一般の有権者に確信させた。

特に激戦州では、銃の保有に反対する民主党支持者らが、民兵を警戒して本選当日投票を嫌がる可能性もある。マスクを着用しないトランプ支持者と、「密」を警戒する民主党支持者らが、期日前投票や郵便投票に殺到している状況が注目されているが、民兵はさらに当日投票にまつわる大きな不安要素だ。

「隠れトランプ支持者」が当日投票する可能性

クリントン氏2016

2016年、ほとんどのメディアがヒラリー・クリントン氏の「優勢」を伝えていながら、トランプ氏が勝利した。

REUTERS/Carlos Barria

調査機関リアルクリアポリティクス(RCP)は主要な世論調査機関の調査結果平均をまとめているが、民主党のバイデン氏は依然としてリードしている。10月27日(米東部時間)現在の支持率は、バイデン氏が50.7%に対し、トランプ氏が43.3%だ。

とはいえ米メディアは世論調査での「バイデン優勢」を伝える一方、2016年のことを決して忘れてはいない。ほとんどのメディアがヒラリー・クリントン氏「優勢」を伝えていながら、トランプ氏が勝利したからだ。

天才データアナリスト、ネイト・シルバー氏が率いる世論調査データ分析サイト「538(ファイブサーティエイト)」は、勝敗確率をバイデン88%、トランプ12%としている。だがこれは、トランプ氏が勝利する確率が12%残されているということでもある。

トランプ氏が劣勢でありながら、まだ勝てる要素は3つある。

  1. バイデン陣営が新型コロナ感染拡大を警戒して実行していない伝統的な選挙集会や個別訪問を、トランプ陣営は大々的に展開している。
  2. 激戦州などで投票したい人の共和党への有権者登録が、民主党を上回っている。
  3. マスクを着用しなくても新型コロナを恐れず、投票所の「密」も恐れない「隠れトランプ支持者」が当日投票に向かう可能性が大。

トランプ陣営は新型コロナの感染拡大をものとせず、マスクを着用しない支持者が駆けつけた数千人規模の集会を1日に3〜5回の割合で続けている。地平線まで埋め尽くすトランプ集会の以下のビデオは、コロナ惨禍の中、信じられない光景だ。

※ロイター通信記者のツイッターより

また米誌「ザ・ヒル」によると、トランプ陣営は250万人のボランティアが伝統的な戸別訪問(ドア・ノッキング)も続けている。これは、オバマ前大統領が初当選した2008年選挙の時の220万人というボランティア数を大きく上回っている。

バイデン氏が数千人規模の集会を行ったのは、新型コロナ感染が始まる前の3月までだろう。そのあとは、主にオンライン集会や支持者宅の庭、学校の校庭など小規模の集会しか開いていない。新型コロナ感染への警戒から、戸別訪問もボランティアが遠慮しながら実施している状況だ。

接戦州で多い共和党の有権者登録

有権者登録の行列

ニューヨーク州で始まった期日前投票の行列に並ぶ人。感染防止のため間隔を空けて並ぶ。

撮影:津山恵子

第2に、フロリダ州、ペンシルベニア州などの大激戦州で、共和党への選挙登録が、民主党への有権者登録を上回っているという状況だ。アメリカには住民票がないため、投票するためには名簿に名を載せてもらう必要があり、投票日よりかなり前に有権者登録をしなくてはならない。

前述の「ザ・ヒル」によれば、例えばフロリダ州で、2016年には民主党登録の有権者が共和党よりも7万8000人多かったのに対し、2020年は現在、10万4000人も共和党が上回っている。

第3の「コロナの怖さ知らず」のトランプ派が投票日に何としても投票所に向かうという行動は、データ的な裏付けもある。ABCニュース/ワシントン・ポストが9月に行った調査で、期日前投票に行くという人は、バイデン支持者がトランプ支持者を28ポイント上回った。これに対し、当日に行くという人は、トランプ支持者がバイデン支持者を50ポイント上回っている。

これはまさに2016年の再現である。当時、世論調査には答えず、心の中でトランプ支持を誓った、主に中西部ラストベルトなどの有権者が投票所に向かった。これが、クリントン敗北につながった。

「バイデンが勝っても、4割はトランプ支持者」

トランプ支持者の女性

リベラル派が多いニューヨークで出会ったトランプ支持者。

撮影:津山恵子

それでも、バイデン氏が勝利したと仮定しよう。そこから、何が劇的に変わるのだろうか。

国際政治学者でコンサルタント会社ユーラシア・グループの創業者兼社長イアン・ブレマー氏は10月27日記者会見でこう指摘した。

「バイデン氏が勝ったとしても、アメリカ国民の40%はトランプ支持者だ」

バイデン政権になったとしても、トランプ氏が生み出したアメリカの「ヘイト」を許す空気と「分断」は、顕在化したままとなるだろう。

筆者が住む地域の期日前投票所を取材に行って、びっくりした。サングラスをかけ、トランプの小さな旗を振る白人女性に話しかけられたからだ。ニューヨーク市のようなリベラル派の牙城で、トランプ派が出現するとは思わなかった。

「トランプは、警察官や兵士の味方なの。だから応援してね」

マリアという彼女は、アメリカ国旗などを配っていた。

その数日前、ニューヨーク州北部の銃保有を支持する住民が多い地域を訪れた。ここでも2016年とは異なり、トランプ支持の巨大な手製看板や、トランプ陣営から買った大きな旗があちこちで見られた。

トランプ支持者の多くは2016年選挙戦中と異なり、もう隠れることはしないし、バイデン氏が勝利したとしても黙ってはいないだろう。

過去最高規模とされる郵便投票の開票と集計は11月3日の夜には終わらず、数日かかる見通しだ。このため、主要メディアが投開票日夜に「即日」出していた当確は、「週内」になるとされている。

集計結果が出そろわず、勝敗が分からないままの投票日直後は、トランプ支持者とされる民兵や、それに反対するリベラル派市民との対立が、必ずどこかで起きるだろう。それを沈静化しようとする警察が、両派の市民に対し、催涙ガスなどを使う可能性は、大都市ニューヨークやシカゴなどではあり得る。

看板

「トランプ一家のせいでコロナの犠牲者はこんなにいる」という共和党支持者らでつくる「リンカーン・プロジェクト」による広告。

撮影:津山恵子

加えて、アメリカでの新型コロナ感染状況は衰えるどころか拡大している。

新規感染者数は10月23日、過去最高の8万5000人超となり、3度目の感染ピークは第1、第2波を超えた。感染が急増する西部ユタ州などでは、医療崩壊が起き、集中治療室(ICU)に入れる患者は若い人を優先するなど「命の選択」を迫られているほどだ。

こうした中、たとえバイデン氏が1月に政権をとったとしてもワクチンの普及が保証されない限り、できることは限られている。つまり都市・経済閉鎖(ロックダウン)やマスク着用の義務化である。これはトランプ支持者の怒りをさらに買い、民主党の州知事など政治家への攻撃、拉致・殺害計画の企てなどにつながるだろう。

大統領選挙の投票は、11月3日には終わる。しかし、アメリカ全体を巻き込んだ分断による混乱は、その後も人々の不安を高め、数々の事件に発展していく可能性がある。

(文・津山恵子

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REUTERS / Jim Bourg

【11/4緊急開催】現地ジャーナリストが米大統領選の結果を解説

11月3日、アメリカ国民はどんな選択をするのでしょうか。

大統領選の結果とその後のアメリカ社会の行方など、混迷を深めるアメリカの今をNY在住、アメリカ社会を知り尽くしたお二人に解説していただくオンラインセミナーを11月4日(水)に開催します。必見です!

登壇者は、Business Insider Japanなど多くのメディアで米社会、経済について執筆活動を続けるジャーナリストの津山恵子さんと、BIJの有料サービス「BI PRIME」で連載「おとぎの国のニッポン」を執筆している渡邊裕子さん。聞き手は統括編集長の浜田敬子。

  • 日時:2020年11月4日(水)20:00〜21:15(質問時間15分を含む)
  • 開催方法:Zoom(お申し込み完了後、イベント開始前にメールにてURLをお送りします)
  • 参加費:一般1000円(BI PRIME1カ月無料チケット付き)、録画視聴チケット1500円(BI PRIME1カ月無料チケット付き)

※BI PRIME会員の方は、一般チケットが無料になるクーポンコードをご利用いただけます。詳細は10月20日に配信したPRIME会員専用メルマガ(件名:【イベント:PRIME会員無料ご招待】アメリカ大統領選を投開票日翌日にNY在住ジャーナリストが緊急解説!)をご確認ください。会員でメルマガが届かないという方は、お手数ですが prime@businessinsider.jp までご連絡ください。

※無料クーポンコードは「録画視聴チケット」にはご利用いただけません。クーポンコードをご利用になる際は「一般チケット」の申し込みをお願いいたします。

【参加方法】

  • イベントサイト、Peatixのイベントページよりお申し込みください。
  • 配信にはオンラインビデオサービス「Zoom」を使用します。スマートフォン、PCいずれでも可。
  • 一般チケットは、当日メールにて参加者専用招待URLをお送りします。
  • 録画チケットは、イベント終了後、メールにて専用視聴URLとパスワードをお送りします。

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津山恵子: ジャーナリスト、元共同通信社記者。ニューヨーク在住。2007年から独立し、主にアエラに、米社会、政治、ビジネスについて執筆。近著は『教育超格差大国アメリカ』『現代アメリカ政治とメディア』(共著)。メディアだけでなく、ご近所や友人との話を行間に、アメリカの空気を伝えるスタイルを好む。

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