女性は研究者に向かない?ロレアルが15年間、女性科学者を表彰する理由

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第15回「ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞」の生命科学分野で受賞した高垣菜式氏。温度を感じる新たな受容体を発見し、生物の温度感知メカニズムの解明に貢献。

2020年7月20日、「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」の受賞者が発表された。2020年度で15周年を迎える本賞の今年度受賞者は、小野寺桃子氏、藤代有絵子氏(ともに物質科学分野)、坂上沙央里氏、高垣菜式氏(ともに生命科学分野)の4名だ。

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物質科学分野で受賞した藤代有絵子氏。電子スピン構造のトポロジー制御により、次世代の省エネルギー型磁気メモリデバイスの基盤構築に貢献。

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物質科学分野で受賞した小野寺桃子氏。グラフェンを用いたテラヘルツ発光・光検出素子の実現と素子品質の向上に貢献。

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坂上沙央里氏。大規模ヒトゲノム解析により、日本人集団のゲノムの多様性を明らかにした。また、ヒトの健康寿命・病気リスクに関連するバイオマーカーの特定にも貢献。

科学は女性を必要としている

化粧品大手のロレアルグループが、なぜ、科学者の奨励賞を実施しているのかというと、同社の根本に、科学者である創立者の掲げた理念「科学に基づく製品研究・開発」があるから。そして、科学を大切にする同社は、同様に女性科学者も大切にしている。

「『世界は科学を必要としており、科学は女性を必要としている』という信念のもと、世界規模で女性科学者の支援を行ってきました。その最たる形が1988年にロレアル本社主催でスタートした『ロレアル-ユネスコ女性科学賞』。毎年、世界5大陸から女性科学者を選出しており、過去受賞者のうち、2名がノーベル賞を受賞しています」(日本ロレアル 楠田倫子氏)

この本社主催と並行し、日本ロレアルにおいて、国内の若手女性科学者の支援・研究活動の奨励を目的に、2005年より「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」を創設。2020年の受賞者と合わせ、59名の女性科学者の支援を実現するに至っている。

日本の女性科学者の活躍に寄与

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世界における研究者のうち、女性の割合はわずか29%。日本の女性研究者の数が研究者全体に占める割合は、この世界平均に及ばない。

「とはいえ、2005年の本賞創設当時より、日本における女性科学者を取り巻く状況は、ゆっくりではありますが、変化してきています。2005年当時、11.9%に留まっていた日本の研究者数における女性比率は、2019年に16.6%と過去最高となりました」(楠田氏)

ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞の存在は、確実に日本の女性科学者比率アップの一助となっている。

本賞の初期の受賞者が、研究者としても、職務上においても、主要ポストを務めるキャリアを積んでいることも、その証。例えば直近では2019年度の物質科学部門での受賞者・渡部花奈子氏(東北大学大学院 工学研究科 化学工学専攻 助教)が、アジアで注目の30歳未満に贈られる『フォーブス』の「30アンダー30 アジア版 〜ヘルスケア&サイエンス〜」部門に選出された。

「ただ、諸外国と比べ、女性研究者数が依然として低い水準であることは否めません。研究者の多様性の担保、すなわち女性科学者の活動支援は、日本の科学界の発展にとって引き続き大きな課題です。本賞の受賞者たちの活躍が日本の女性科学者のネットワークを活性化させ、ひいては日本の科学界の飛躍につながることを願っています」(楠田氏)

※女性科学者の増加が求められている理由はこちら。

女性科学者同士が連携できるように

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女性科学者のネットワークを形成することの必要性を感じ、ロレアルでは過去の受賞者間や関係者との交流、関連イベントへの参加、および登壇の機会などを提供しているという。本賞の授賞式も、女性研究者の大先輩と若手らのネットワーキングの場となっている。

この一環として、未来の女性科学者に向けた「リケジョイベント」も2012年から開催中。ロレアルのみならず、大学、理系女子大生コミュニティ、出版社など、産官学、さまざまな人が関わるイベントだ。

「受賞者に自身のキャリアについてお話しいただくなど、若い世代の対話や登壇の機会を提供することで、学生のみなさんに研究者としてのキャリア形成を具体的にイメージしていただく場です。高校生・大学生が女性研究者と出会い、直接対話をする機会はめったにありません。そうすると、どんなに理系分野に興味を持っていたとしても、大学院へ進み、研究を生業とするというキャリアが無意識のうちに選択肢から除外されてしまっていることも少なくないのです」(楠田氏)

リケジョイベントには、ロレアルで活躍する研究員が登壇することも。

学生たちにとって貴重な気付きの場となると同時に、受賞者や同社研究員にとっては女性研究者の若手リーダーとしての自覚を持つことにつながる。こういった草の根活動の積み重ねは、女性研究者の数を増やすことにも資するはずだ。

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「より良い未来のため」にできることを考える

創設から15年。認知度も高まり、女性研究者の発展に貢献してきたロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞。だが、やるべきことはまだまだあると感じると楠田氏。

「本年はこれまでの受賞者を対象に、近況アンケートを実施しました。今後の受賞者ネットワークのあり方などについての意見を吸い上げさせていただいたので、有益なネットワーク構築を目指し、検討中です」(楠田氏)

本国・フランスで行われている、女子中高生に向けた進路選択に関する啓蒙活動や、女性科学者支援を具体的に提言化するための男性リーダーによる諮問委員会の設立といった取り組みの、日本への導入も考えているそう。

女性のキャリア形成の選択の幅を広め、科学の進歩に新たな貢献をすべく、ロレアルグループでは、ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞の継続はもちろん、女性科学者がひとりでも増えるよう、活動を模索していく。

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楠田倫子氏(日本ロレアル):ヴァイスプレジデント、コーポレート・コミュニケーション本部 本部長。上智大学卒、米国・コロンビア大学経営大学院にてMBA取得。国内金融機関、米系消費財メーカーを経て日本ロレアル入社。サロン流通ヘアケアブランドのマーケティング統括やアジア市場における製品開発を担当ののち、百貨店流通ラグジュアリーブランドの事業部長職、アクティブ コスメティックス事業部長を歴任、2020年1月より現職。

[ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞]


文・多田亜矢子

多田亜矢子:編集&ライター。2006年、マガジンハウスに入社。雑誌『Hanako』『GINZA』編集部に勤務し、ビューティ、ファッション、グルメなどを担当。現在はフリーランスとして「Hanako.tokyo」や「FUDGE.jp」などで活動中。

MASHING UPより転載(2020年08月27日公開

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