KDDIは2020年度第2四半期決算会見で、新しいMVNOを発表した。
撮影:小林優多郎
KDDIはeSIMに特化した新しい通信ブランドを新たに設立する。
国内では代表的なところで、MVNO(仮想通信事業者、格安SIM事業者)の「IIJmio」や楽天モバイルが一般ユーザー向けのeSIMサービスを行っているが、いずれも物理的なSIMカードの発行も行っているため、“サービス設計からeSIMを主軸とする”事業者は異色の存在だ。
KDDI傘下には、自社運営の「au」「UQ mobile」のほかに、グループ会社ビッグローブの「BIGLOBEモバイル」、ジュピターテレコムの「J:COM MOBILE」といった4つの通信ブランドを抱えている。
新ブランドの名前はまだ明らかになっていないが、会見でKDDI社長の髙橋誠氏は「実際のサービス名は(既存のものとは)違うものになる」と発言しており、新しい「第5のブランド」が誕生することになる。
完全オンライン・eSIM採用の新ブランド誕生へ
KDDIの設立する新ブランドの詳細。
撮影:小林優多郎
新ブランドは既存ブランドの提供するサービスと何が違うのか。現状で明らかになっているポイントは以下の3つだ。
- 契約や各種手続きは原則オンラインとなること。
- 通信に必要なSIMカードは物理媒体を持たない“eSIM”になること。
- ユーザーの利用シーンに応じて、月単位などで料金をカスタマイズできること。
最も大きな特徴は、キャリアショップや家電量販店などの現実世界の窓口を持たない原則オンライン型のサービスとなることだ。
eSIMは物理的なカードではなく、アプリで直接書き込んだり、ウェブや紙などのQRコードから読み取ってインストールできる(写真は過去にIIJmioが提供していたeSIMプランのQRコードをiPad miniで読み取っているもの)。
撮影:小林優多郎
完全オンラインでスピーディーなユーザー体験を実現するためには、手続きだけではなく、SIMの発行自体もオンライン化、つまり電子的に契約するeSIMを使う必要がある。
第5のブランド設立、理由の1つは“開発スピード”
Circles Lifeが海外で提供するeSIMの料金プランの例。
撮影:小林優多郎
eSIMに関しては、10月27日に総務省が公開した「アクションプラン」の中で積極的な採用を呼びかけられている。KDDI Digital Lifeの設立はそれに対応したものとも言えるが、「なぜ既存のauやUQ mobileの枠組みで“eSIM移行”をしないのか」という疑問もある。
あえて別会社のMVNOとしてeSIMサービスに取り組む理由の1つとして、髙橋社長は「開発スピードの早さ」を挙げている。
KDDI社長の髙橋誠氏。
撮影:小林優多郎
新ブランドの運営を行なうKDDI Digital LifeはKDDIの100%子会社となるが、シンガポールの新興通信事業者Circles Lifeと同事業のサポートに関するパートナーシップを結ぶ。
基幹システムはCircles Lifeが「台湾やオーストラリアで展開されているものを用いる」(髙橋社長)想定だ。
既に実績のあるシステムを導入にすること、海外の新興企業らしいスピーディーな開発スピードが、髙橋社長の言う「速さ」だと言える。
UQ mobileの新プラン「スマホプランV」は2021年2月以降に提供開始予定。
撮影:小林優多郎
KDDIが10月28日に発表したUQ moblile向けの月額3980円・データ容量20GBの新料金「スマホプランV」は、2021年2月以降の提供を予定している。
一方、同日に発表したソフトバンクのワイモバイル向け「シンプル20」は2020年12月以降の提供開始となっており、KDDIの“遅さ”が目立つ格好だ。
髙橋社長はこうした対応が遅れる理由を「システム開発上の都合」としており、同社がKDDI Digital Lifeで速さにこだわりたい姿勢には、皮肉にも説得力がある。
KDDIはマルチブランド戦略でauへの“アップセル”に期待
KDDIは格安ブランドからauへの“アップセル”を期待している側面もある。
撮影:小林優多郎
また、会見ではマルチブランド戦略を推し進める意義として、UQ mobileのようなサブブランドからauへの移行の、いわゆる“アップセル”効果への期待も語られた。
2019年と2020年の10月中の2週間の内、UQ mobileからauへMNP(携帯電話番号ポータビリティ)で移行したユーザー数は、3.5倍となっている。
髙橋氏は逆に格安のプランに移行してしまう“ダウンセル”の効果について認めつつも、「(グループ内で)いい循環を起こしていく」と、今後もマルチブランド戦略に注力していく旨を語っている。
(文、撮影・小林優多郎)