次世代型ワークプレイス「3L」。リコー創業の精神である「三愛精神」の英語表記「3 Loves」から名付けられたという。
撮影:太田百合子
リコーは11月2日、東京都大田区の本社近くに次世代型ワークプレイス「3L(サンエル)」をオープンした。
長年、大森会館の名称で親しまれていた、体育館等を備えたレクリエーション施設をフルリノベーションしたもの。同社が掲げるビジョン「“はたらく”に歓びを」の実現のため、社内外のさまざまなチームが集うワークプレイスを実験の場として活用。未来の「はたらく」を研究するのが狙いだ。
プロジェクトリーダーを務めるリコー経営企画本部の稲田旬氏によれば、プロジェクトが始動したのは、本社が創業の地である大田区中馬込へ移転した2018年のこと。
長年オフィスの生産性向上や効率化に取り組んできた同社が、創業100年を迎える2036年に向けた長期ビジョン「“はたらく”に歓びを」を実現するための取り組みとして、山下良則社長の肝いりでスタートした。
人はどのような環境や思考、⾏動によって、「“はたらく”に歓びを」感じるのか、「はたらく」と「人」の関係性を研究することで、「未来の”はたらく”」を追求するのが、若手社員を中心に結成されたプロジェクトチームのミッションだ。
リコー経営企画本部経営企画センターの稲田旬氏。3Lのエントランスには巨大なディスプレイがあり、在席中のメンバーなどをチェックできる。
リラックスした雰囲気の中、利用者が集って話せる広いカフェスペースも用意されている。
体育館だったスペースはイベントホールとして活用できるよう、リノベーションされている。
エントランスからつながるスペースにはタッチテーブルが設置されていて、施設の説明やメンバーの情報がチェックできる。ディスプレイを囲んでのミーティングも可能だ。
クローズド、セミクローズドのミーティングルーム、ワークルームが複数用意されている。
ソロワーク用のスペースもあるが、チームへの参加、またはチームでの利用を想定しているという。
3Dプリンターやレーザーカッターなどの設備が用意されたラボ。設備は今後のニーズに合わせて拡充していく予定だ。
「3L」には体育館をリノベーションしたイベントスペースや、落ち着いた雰囲気のカフェスペース、クローズドあるいはオープンなミーティングスペース、オープンデスク、3Dプリンターを備えたラボなどを用意。そのほか、中核施設として「RICOH PRISM(リコープリズム)」と名付けられた、会議のための空間を設けている。
プロジェクトを担当する村田晴紀氏が発案した「デジタルアルコール」というコンセプトに基づき、創造性を発揮できる環境を追求した、これまでにない実にユニークな空間だ。
「創造性を発揮できると、人は“はたらく”に歓びを感じます。では創造性はどのように生まれるのかを考えたときに、創造的かどうかは、要は気の持ちようなのではないかと思ったんです。創造的な気持ちになれる環境があれば、そこから創造性が生まれるかもしれない。
いつでも創造的な気持ちに酔える、アガれる環境があったら面白いんじゃないかという発想から、実際にそんな空間を作りました」(村田氏)。
会議なのにテーマパークのアトラクション
まるでアトラクションの入り口のような「RICOH PRISM」のエントランス。1人ずつ入室するしくみだ。
その体験は、会議というよりもまるで、テーマパークのアトラクションのようだった。1人ずつ扉をくぐり、暗闇から細い通路を進むと、真っ白な空間に到着する。
最初と最後に細い通路を通る。まるで儀式のようだが、この過程によってテンションが高まる。
そこで柔らかなキューブ型のコントローラーを手にし、全部の壁面、床も使って、音楽を奏でるイントロダクション「はじまりの儀」を経て、全員参加での会議がスタートした。
筆者が体験したのは決められた手順、制限時間に従って、アイデアを出し合い、それを絞り込み、ブラッシュアップするブレインストーミングアプリ『Brain Wall』と、まるで展覧会のインスタレーションのような空間に共に浸ることで、気づきを得るアートシンキングアプリ『Wander other worlds 』。
天井には多くのセンサーがあり、会議中はあらゆるデータがトラッキングされている。アウトロダクション「おわりの儀」では、メンバーの動きや発話数、テーマとの関連性やポジティブ度といった、チームの活動データを振り返れるしくみになっている。
やわらかく心地良い触感のコントローラーには、ポインターや選択スイッチ、マイクなどの機能が内蔵されている。
参加者みんなでコントローラを操作するイントロダクションのあと、用意されたメソッドに従って、アイデアを出し合っていく。
「RICOH PRISM」発案者の村田晴紀氏。体験会では「これから流行りそうな食べ物」をテーマにアイデアを出し合った。
アーティスト中山晃子氏が手がけた映像で、アートな世界に浸りながらのブレインストーミングはなかなか非日常な体験だった。
天井にはプロジェクターのほか、多くのセンサーがあり、会議の様々なデータを記録している。
アウトロダクションでは会議中の「活動」が可視化される。このデータをどのように活かすか、今後さらに研究が進められる。
創造性の追求したい人に使ってほしい
「3L」は専用アプリをダウンロードして入館予約をし、リコー社員ではなくても、事前に申請すれば、基本的には無料で利用できる(感染症対策のため人数制限がある)。また以下の条件を理解した上で審査に通れば、継続的に活動するメンバーとしてチームの活動拠点にすることも可能だ。
- 1人だけでなく、2人以上で成し遂げたいミッションがあること
- 週に一度以上の活動報告をアプリ上で行うこと
- 四半期に一度アプリで送信される「3L Questionnaire」に回答すること
- コミュニティマネージャーからの取材やピッチ登壇などのお願いに可能な限り協力すること
「RICOH PRISM」の利用も無料で、創造的なアウトプットをしたいチームをはじめ、創造性に関する研究をしたい人や開発者に活用してほしいという。
アプリから予約し、エントランスで入館証となるタグのQRコードを読み取ってチェックインする。
身につけるタグが天井に設置された位置情報センサーと通信し、館内のどこにいるか分かる仕組みになっている。
リコーでは様々なデジタル技術を駆使して、「3L」内の人の行動や感情、つながりを可視化してデータとして蓄積し、次世代の“はたらく”についての研究に役立てていく考え。
当面は3Lプロジェクトチームや、パートナー企業と起ち上げる社内外混成の共創プログラムチームの活動拠点とするほか、アントレプレナーやクリエイターなど、次の時代をつくる自律型人材やチームにも間口を広げていきたいという。
プロジェクト発足以前、リコー社内には「大森会館をレガシーを展示する資料館に」という声もあったというが、未来を見つめる若い社員の思いが、そうした声を押しのけた。
過去を振り返るのではなく、これからのビジネスをみつめるべきだ、という若手世代の声を支持した施設、ということなのだろう。
(文、写真・太田百合子)