海外から関心集まったプロ野球・横浜「技術実証」、東京オリパラ開催への試金石

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10月30日から11月1日、横浜スタジアムでのプロ野球公式戦「横浜DeNAベイスターズ対阪神タイガース」において、技術実証が行われた。

提供:横浜DeNAベイスターズ

日本で果たして2021年、東京オリ・パラは開催できるのか?

海外メディアがいま、「日本の大規模技術実証」に注目している。現在、大きなスポーツイベントでは観客の入場制限をしているが、その緩和に向けた「技術実証」がこのほど実施された。技術実証とは、感染対策をした上で、上限に近い観客を動員して、マスク着用率や人の動きなどをデータ採取し、開催ガイドラインの海底などに役立てるもの。

第1弾となったのは、横浜DeNAベイスターズ。10月30日〜11月1日の横浜スタジアムでの阪神タイガースとの公式戦3連戦だ。

この実証は、世界から「画期的」と見られている。なぜか? 数万人規模の観客を集めたからだ。

横浜スタジアムの定員は3万2402人に対して、試合の観客の入りは、30日は約5割の1万6594人、31日は約8割の2万4537人、11月1日は約9割の2万7850人だった。

コロナ禍の現在、プロ野球は上限5割の入場制限が基本で、その制限が取り払われた今回は、これまで以上に観戦者が訪れた。そもそも、世界を見渡しても、現状これだけの規模の観客を入れた状態で実施しているスポーツイベントはほとんどない。「非常に珍しい機会」だったからこそ、海外メディアが注目している。

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技術実証が行われた横浜スタジアム。

撮影:大塚淳史

海外メディアからの関心の高さは、30日に報道陣に向けて行った横浜スタジアムでの説明会見で伝わってきた。国内のプロ野球の試合にもかかわらず、欧米やアジアの海外9メディアも参加していて、関係者へのインタビューなど積極的に行っていた。

長年、スポーツの取材をしている筆者でも、国際大会でもない国内スポーツの取り組みで、ここまで海外メディアが集まる様子を見ることは珍しい。

彼らの注目する理由はただ一点。「2021年の東京オリンピックパラリンピックの開催のための試金石」と見ているからだ。

IT企業の技術を結集して実証

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技術実証の取り組みについて説明する横浜DeNAベイスターズの木村洋太副社長。

撮影:大塚淳史

3日間の技術実証にはディー・エヌ・エー(DeNA)、NEC、LINE、KDDIなどの企業、神奈川県や横浜市といった自治体も協力した。球場内に、マスク着用有無を確認する高精細カメラ、二酸化炭素の濃度の計測機器、風速や風向きの計測機器、情報発信用のビーコンを客席や通路、トイレなどに設置した。また技能実証用に作られたLINEアカウントも活用した。

実証で取得した貴重なデータは、イベント開催での新型コロナ感染対策などに利用される。学術研究団体、政府や自治体等の関連団体など第三者にも提供され、研究や告知にも活用する。

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風の向きや速度を計測する機器が新たにひとつ設置された。もともとスコアボードの上に設置されている。

撮影:大塚淳史

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LINEはビーコンをスタジアム内に数カ所設置して、今回の技術実証向けのアプリと連携して情報発信。

撮影:大塚淳史

横浜DeNAベイスターズの木村洋太球団副社長は、報道陣から感染リスクの高い一種の実験のようなものではとの質問に対し、

「"実験"や”研究”ではなく”技術実証”という位置づけ。あくまで、コロナ対策で使う技術が利用できるかの確認であって、感染するかどうかを実験するものではない

と釘を刺し、

「2、3月からコロナの中の閉塞感で、プロ野球も通常と違うシーズンの始まり方だった。この取り組みが一つのきっかけとなって、人々が人間らしい生活を少しずつ取り戻せたらと思う」

とその意義を説いた。

今シーズン、無観客で開幕したプロ野球は、徐々に観客を入れ始めてはいる。それでも、各チームは原則、観客席の開放を上限5割にとどめている。

しかし、もし球場が満席ならば1試合のチケット販売だけで、1億円を超える売り上げとなるプロ野球。5割となるとチームの経営を大きく揺るがす。こういった背景もあり、観客の入場制限緩和は各チームが願うところだ。

ベイスターズの関係者は「今シーズンというより、来シーズンに向けた取り組み。今のうちにこういったことを行っておかないと、来シーズンいきなり緩和とはならない」と話していた。

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トイレに設置された二酸化炭素の濃度を測定する機器。

撮影:大塚淳史

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NECの顔認証技術を活用して、マスクの着用有無を判定。主に球場内通路に設置した。

撮影:大塚淳史

現地説明会に多くの海外メディア。注目はやはり「東京オリ・パラ」前提

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横浜スタジアムでの技術実証は、国内だけでなく海外メディアからの関心も高かった。

撮影:大塚淳史

今回の技術実証を発表した際に、海外メディアからの問い合わせはどれほどだったのか。

「恐らく(新型コロナ以降)世界初めての多くの人数を入れたスポーツイベントとなるので、注目されたようです」(ベイスターズ関係者)

実際、世界中のプロスポーツが、球場、アリーナへの来場を禁止したまま、あるいは大幅な入場制限した中での観戦となっている。

例えば、10月下旬に開かれた米プロ野球・メジャーリーグの優勝決定戦「ワールドシリーズ」は、入場制限を実施していたため、1試合辺り約1万人程度だった。

また、ヨーロッパではサッカーのリーグ戦やチャンピオンズリーグなど本来毎試合数万人が集まる試合でも、無観客や少数のみ入場可が続く。再び感染拡大している現状では、満席での観戦は、今後しばらくは認められない状況が続くだろう。

英国の経済メディアの東京支局記者は、実証に注目する理由をこう語る。

「ここまで大きいスタジアムで多くの入場客を入れて開催されるスポーツイベントということで、海外からの関心が高いです。来年の東京オリンピックパラリンピックを開催できるかどうかという点で、今回のイベントに注目しています」

また、ドイツのテレビ局カメラマンはこう教えてくれた。

「ドイツのサッカーリーグは現在1試合1000人程度にとどめ、また感染再拡大しているので無観客になる可能性も高い。今回のような大きなスポーツイベントはまだ行っていません。オリンピックが視野に入っている中で、良い結果が出れば開催に繋がると見ているので、今回の取り組みに関心を持っています」

東京オリパラ開催に向けて

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横浜スタジアムで練習する横浜DeNAベイスターズの選手たち。

撮影:大塚淳史

今後も、スポーツにおいて入場制限緩和への取り組みが行われていく。

11月7、8日にはプロ野球の巨人が東京ドームでの試合において、上限8割にまで引き上げる検証を行う。

サッカー・Jリーグは11月7日に国立競技場で行われるルヴァンカップ決勝のチケット2万5000枚弱が完売している。

技能実証の翌日11月2日、プロ野球とJリーグによる「新型コロナウイルス対策連絡会議」において、Jリーグの村井満チェアマンは「さまざまな角度からお客様を安全に守るためのトライアルをしていきたい」とオリンピック会場としても使われる競技場の有効活用を説明した。

横浜DeNAベイスターズの取り組み同様に、二酸化炭素の濃度計測や、高精細カメラを活用したマスク着用有無の確認、人の流れなどを企業と連携して実施する。

NPB(日本野球機構)の斉藤惇コミッショナーはこう話す。

「空気の流れ、マスクの着用がどうも、欧米の動きを見ても決定的な流れになりそう。来年の試合、来年のオリンピックに向かって、(今回の技能実証で得られた知見を)ご利用してもらえれば」

屋外とはいえ観客が密集状態になるスタジアムにおいて、入場制限の緩和の動きは、今後さらに進むのか。冬を迎える日本で、欧州のように再び感染再拡大が発生し、スポーツイベントが無観客に戻ってしまうのか。

2021年の東京オリ・パラ開催にも少なからず影響するであろう、今回の重要な実証結果は、時期は未定だが公表される予定だ。

(文・大塚淳史

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