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大学のオンライン講義の今。コロナが白日の下にさらした大学教育の分岐点

講義室

再び人が密集した講義室で授業を受けられるようになることはあるのだろうか?

Richard Peterson/Shutterstock.com

多くの大学で秋学期が始まり、1か月以上が過ぎた。

新型コロナウイルスの流行によって、ほぼ全ての講義がオンラインで行われた春学期に対して、秋学期からは、一部で対面講義が再開されている。

緊急事態宣言下と比べると大学生の学びの環境は改善されている。とはいえ、中学校や高校では既に対面授業が解禁され、GoToトラベルキャンペーンなどの人の動きを活性化させる取り組みも進んでいる中で、いまだに大学が制限されている現状に、

「同じ学生なのに、どうして大学生だけ行けないんだって思います」(都内私立大学・経済学部1年、18歳)


「不公平に思える部分もあり、大学生活を楽しめていない実感があります」(都内私立大学・理工学部1年、19歳)

と、大学生からは不満の声が上がっている。

コロナ禍の大学教育は、どうなってゆくのだろうか。

春からはトラブル改善で進化も

オンライン講義の風景

パソコンの画面上に授業スライドと教員の顔を見る風景も、見慣れてきた。

撮影:戸田彩香

春、突然のオンライン化に各大学がなんとか対応できたのは、多くの大学関係者らの尽力あってのことだ。オンライン対応によって「通学時間が長いため、時間の節約になる」「復習のために何度も見返すことができる」など、メリットを感じている学生も多い。

ただし、

「(動画の)録音状態が悪く講義内容が聞き取れない、また聞きづらい授業が続いた教科がありました」(都内私立大学・理工学部1年、19歳)


「決まった時間にレポートを提出しなければいけないのに、ネット回線トラブルで出せてない人が多く、学生に不安を与える印象が大きかったです」(都内私立大学・経済学部1年、18歳)


「質問が出来る場が提供されていない授業があり、自分の成長が頭打ちされていました」(都内私立大学・法学部1年、19歳)

など、ICT環境の脆弱性によるトラブルや、オンライン講義に不慣れな教員の講義に対する不満が多かったことも事実だ。

大学側もこの状況を放置しているわけではない。10月以降、秋学期の講義が始まる中で、

「春学期から連続で履修している授業なのですが、秋学期初回の授業で明らかに画質が良くなっているなと思ったら『YouTuberに負けないように、機材を揃えました!学生のみなさんの期待に応えられるように』と教授が言っていました。とても快適なオンライン授業になっていました」(都内私立大学・法学部3年、22歳)


「学内で新しいシステムが導入され、スケジュール管理やリマインド機能が新しくなってオンライン授業がやりやすくなりました」(都内私立大学・法学部1年、19歳)

と、少なからず状況は改善している。

秋学期、対面とオンラインの良いとこ取りをできるか?

大学の講義割合

緊急事態宣言が終わると、段階的に対面講義を再開する大学が増えていった。

出典:文部科学省

一部とはいえ、対面講義が再開されたことで、大学の講義は、コロナ前と同様の「対面型」と、オンラインの「オンデマンド型」「リアルタイム型」の3つの形式が共存する状況となる。

オンデマンド型とは、事前に録画しておいた講義の映像を受講者に見せる形式の授業だ。

受講者が多く、教員が一方的に説明する内容を習得するタイプの講義であれば、わざわざ対面で行なうよりもオンデマンド型の方が感染対策上のメリットはもちろんのこと、学生のペースで何度も確認できるメリットもある。

一方、リアルタイム型は、ビデオチャットを使ってライブでやりとりをする形式の講義。少人数でのゼミやディスカッションを要する講義をオンラインで実現する上では欠かせない。

少人数のゼミなどは、当然対面で実施されることも想定される。ただし、感染対策に関する考え方が違って対面を望まない学生がいるような場合は、対面を強制せずに同様の講義を実施するための選択肢として、リアルタイム型講義は重宝されることだろう。

秋学期以降の大学では、引き続きオンラインのメリットの活用とデメリットの改善を基本路線としながら、一部で対面講義を再開させていく「ハイブリッド型講義」が主流となる。

ハイブリッド型の講義を進めていくためには、教員のテクノロジーのレベル、教育観、授業のやり方や内容、そして学生の特性といった様々な要因を考慮した上で、オンライン・オフラインにこだわらず、都度最適な講義形態を見極めることが肝心だ。

「リアルの代替としてのオンラインではない」

森田先生

早稲田大学の森田裕介教授。

撮影:三ツ村崇志

「大学側で、各授業の受講形態を『この授業はオンデマンド型で』などとお願いすることはありません。授業の内容に関わりますし、教員の教育観、授業を受講する学生の学習観も関わります。どんな講義形態が効果的なのかは、それぞれの授業ごとに検討する必要があります

こう話すのは、早稲田大学の講義のオンライン化を主導した、テクノロジー教育の研究者でもある森田裕介教授だ。

早稲田大学では、緊急事態宣言にともない、春学期の講義は全面的にオンラインで実施された。

「早稲田大学は2003年に、人間科学部通信教育課程(通称eスクール)を設立しました。そこで培ってきたオンライン授業のノウハウを全学部に展開していくことに努めました」(森田教授)

ただし、当初は教員の間で「リアルの代替としてのオンライン」というイメージが強く、テクノロジーをうまく使いこなせないケースなどもあったという。

結果的に、「春学期は、教員が『授業を止めない』こと、テクノロジーを使った授業方法に慣れることを支援していました」(森田教授)という状況だった。

森田教授は、これまでずっと対面で行われてきた大学教育における課題を話す。

「教教員の根底にある『教育観』は、時代背景によって異なっています。多くの教員は、自身が受けてきた教育の再生産をしようとしています。教員の視野を広げ、目的に合わせて授業をよりよく改善するように促すことが我々の役目です」

コロナの流行によって、大学教育界に根深く残っていた課題が白日の下にさらされたともいえるだろう。

コロナで進んだ、皮肉な改革

早稲田大学

shigemi okano/Shutterstock.com

皮肉なことに、コロナ禍における強制的なオンライン化やハイブリッド化は、大学の教育改革の時計の針を進める役割を果たしている。

早稲田大学では、8月、総長の田中愛治教授が学生に向けたメッセージの中で、「反転授業」とよばれる学習手法を積極的に導入していく方針を示していた(現在は削除されている)。

反転授業とは、講義の前に必要な知識の習得はオンラインで済ませておき、講義ではいきなり議論を行なうなど、知識の活用法や思考力を訓練することを目的としたハイブリッド型講義の一種だ。

日本国内では、先進的な小中学校などでの取り組みが注目されるケースが多いが、欧米などを中心に、大学教育の新しいスタイルとしても普及してきているという。

秋から一部とは言え対面講義が開始されたことで、オンラインとオフラインを混在させた、教育改革で描いた未来の講義スタイルを実践できる環境が整ったわけだ。

オンラインを活用する教育スタイルは、なにもコロナ禍という特殊事情だけを理由に推奨されているわけではない。例えコロナが収束しても、世界の教育のスタンダートになっていく可能性がある。

ミネルバプロジェクト

カリフォルニア州サンフランシスコにあるミネルバプロジェクトのオフィスで撮影されたロゴ。ミネルバプロジェクトでは、講義が完全オンラインで行われるミネルバ大学を運営。学生は4年間で7都市を移り住みながら学びを深めていく。

REUTERS/Stephen Lam

森田教授は、Business Insider Japanの取材に対して「日本の取り組みは10年は遅れています」と語っていた。

もちろん、これまでこういった教育手法に馴染んでこなかった教員が、いきなり高度な反転授業を行なうことは難しい。

しかし、対面が再開されたからといって、簡単に元の講義スタイルに戻してしまえば、せっかく進んだ教育改革の流れが逆流し、日本の教育が世界の流れから取り残されてしまうことにもなりかねない。

各大学は、コロナ禍のオンライン化を一時的なものと考えず、オンライン講義と対面講義の最適な活用方法を探っていくべきなのだろう。

コミュニティ

大学生は、大学の教育改革によって、学びのスタイルが再定義されつつあることを認識しなければならないのだろう。 一方で、日本の大学が担ってきたコミュニティとしての機能を今後どう担保していくのか、本格的に考えなければならない時期に来ているのかもしれない。

撮影:今村拓馬

また、11月上旬を目処に、文部科学省は対面講義の割合が5割未満の大学名を公表する方針を示している。しかし本来、対面とオンライン講義に優劣は無いはずだ。講義内容が大学、教員によって多様であることを考えると、対面講義の割合を指定することにどれほど意味があるのか、甚だ疑問だ。

コロナの流行によって、今までなかなか注目されてこなかったオンライン環境の整備や、それに付随する教育改革の流れが進みつつある現状は、大学界隈においてマイナス影響が大きかったコロナ禍における唯一と言っていいほどのプラス要素だろう。

数年先、コロナが収束した中でも、この教育形式がスタンダートなものとして定着するか、それとも元に戻ってしまうのか、まさに今、分水嶺に差し掛かっているのかもしれない。

(文、取材・三ツ村崇志、取材・戸田彩香

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