「ロジックじゃない世界はあるし、そこを大事に」後継者が語る、カリスマなき後のZOZOが過去最高益の理由

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ZOZO創業者で前社長の前澤友作氏とは「真逆のタイプ」と自ら話す、ZOZOの澤田宏太郎社長。

撮影:今村拓馬

「前澤はよく僕に託したな、と思っているんです。自分と真逆なんですよ。創業者が、自分と真逆な人間を、自分が育ててきた会社の次の代にするってすごい決断です」

ファッション通販サイト運営のZOZOが、2019年9月12日にZホールディングス(ZHD)傘下に入ってから1年余り。

傘下入りのタイミングで、カリスマ創業者だった前澤友作氏の後を引き継ぎ、新社長に就任した澤田宏太郎氏は、「就任の1週間前に告げられた」という交替劇をそう語る。

「俺のようにやってくれよ澤田、じゃなくて、澤田のやりたいようにやれ、というメッセージだと思っている。そこはすごくありがたかった」

アップルのスティーブ・ジョブズ氏、テスラのイーロン・マスク氏、ソフトバンクの孫正義氏 ——。

枚挙にいとまがないくらい、いつの時代もカリスマと呼ばれる創業者の後継問題は、難しい。

しかし、一斉を風靡(ふうび)したZOZOSUITの無料配布に、時価総額の急騰、月旅行まで、世間の注目を集め続けた前澤氏の退任後。澤田氏率いるZOZOは、順調に成長の歩を進めているように見える。

コロナ禍によるショッピングのデジタル化、Zホールディングス(ZHD)とのシナジーが追い風となり、過去最高益を更新。取り扱いブランドは7900超え、年間購入者数は880万人と、規模を拡大している。

澤田社長に「カリスマ創業者」が去った後の1年を聞いた。

地味でもおざなりになっていたことやった

SAWADAKOUTAROW

「地味だけれども重要なこと」がおざなりになっていた、と澤田氏。その一つひとつの修復が、2021年3月期上半期の飛躍につながったという。

「やっと会社として神経細胞に(意識が)行き届いたという感じ。これまでトップダウンでやってきた会社だったので、ボトムアップの組織力を生かした体制に切り替える必要があった」

2019年秋の澤田氏の就任後、ZOZOは急激な変化の1年を経験した。そもそもやるべきことは山積みだった。

完全にトップダウン型経営者だった前澤氏は、身体計測のZOZOSUITや自社のプライベートブランド(PB)に熱中。ZOZOTOWNのサイト改修やサイトを回す人工知能(AI)のチューニングといった、地味ながらもユーザーの使用感に直結するUI、UXなど「非常に重要ながら、ちょっとおざなりになっていたことをまずやった」(澤田氏)。

ファッション通販サイトの肝であるはずの、ZOZOTOWNに出店するアパレルブランドとの関係修復も必須だった。事前説明が不十分なままの大型割引キャンペーンに反発した、有力アパレルの離脱が相次ぎ、ZOZOへの信頼は揺らいでいた。

そこにきて、2020年4月には新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令され、装いをめぐる需要は大きく変わる。

軒並みリアル店舗が休業する中、買い物のデジタル化は加速度的に進んだ。売り上げが飛躍的に伸びると同時に、発送のための商品が倉庫に山積みになり、急増する発送作業と顧客対応に、ZOZOは追われることになった。

ライトユーザーの拡大は想定路線

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2020年春は、緊急事態宣言により、人々の生活習慣も大きく変わった。デジタルシフトが急速に進んだことはZOZOの利用者増につながったという。

こうした変化の1年を経て、直近の2021年3月期の中間決算(4〜9月)は、純利益は前年同期比76.1%増の139億円、商品取扱高は同16.2%増の1856億円と絶好調の増収増益。

「コロナの影響でデジタルシフトが起きたことは今期の業績に大きく影響した」と、澤田氏は明言する。

「緊急事態宣言以降、否が応でもネットで服を買ってみようという方が、ZOZOTOWNにも流れ込んできた。使ってみて『あ、これは便利だな。面白いな』という気持ちになれば、二度三度と買ってくれるようになる。

結局、我々がしみじみと作ってきたサイトの良さというのが(就任後の)改修も含めて実感されて、デジタルシフトによる顧客増との相乗効果を生んだ。そうやって最高益の今がある、という感じです

一方で、日常的にZOZOを使うアクティブユーザーの購入単価は、右肩下がりという懸念材料はある。

これについても澤田氏は「狙い通り」だと言い切る。

「我々の顧客が、ファッションに関してライトユーザーの人に広まっているというのがすごく大きい。いろんな人に買っていただくために、ある程度こうやって単価が下がるというのは致し方ない。その分お客様が増えていれば、全然問題はない。そうした層を捉えていくという戦略との整合性がとれています

薄れるZOZOカルチャーの懸念は

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プライベートでも月旅行計画を発表したり、芸能人の恋人の存在がクローズアップされたり、公私ともに話題を振りまいてきた前澤氏。写真は2018年10月の会見。

業績好調の一方で、どうしても気になるのが、もともとファッションに強い愛情とこだわりを持ち、世間をアッと言わせる存在感を放つ前澤氏が築いてきた「ZOZOカルチャー」が薄れていくのでは、という点だ。

ファッションにゆかりの深い音楽業界のバックグラウンドをもち「試着もできないのに誰もネットで服など買わない」と言われた時代からZOZOTOWNを始めた、起業家マインドの前澤氏。

これに対し、理工学部を卒業後、新卒でNTTデータに入社し、コンサルティング会社を経て前澤氏率いるZOZO(当時はスタートトゥデイ)にジョイン。前澤氏退任のタイミングで社長に抜擢された澤田氏。

両者は火と水のようにキャリアもタイプも異なる。

よくも悪くも「ZOZOと言えば前澤」という創業者を失って、ZOZOらしさ、そこに惹きつけられてきた人材は、維持できるのか。

「会社のよりどころとなる一本軸は、やっぱり前澤だった。何をするにも前澤がどう思うかというところがありました。オーナー起業というのは必ずそうなるんです。では自分が引き継いだ時に、カリスマ社長澤田です、ではないだろう、と」

ファッション人材と圧倒的なデータ活かすテック

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「MORE FASHIONとFASHION TECH」が会社のよりどころ。ZOZOらしさとして「ソウゾウノナナメウエ」を掲げている。

強烈な創業者の後、会社のカルチャーの核はどこになるのか。澤田氏は当然ながら、その点を熟慮した。

「では何をよりどころにするか考えたときに、会社としての進むべき方向として、MORE FASHIONとFASHION TECHという言葉を据えた」

数あるファッションサイトとの差別化要因がZOZOには明確に2つある、と澤田氏は言う。

「一つはファッションのことが分かっていて大好きな社員が1000人以上いるということ。もう一つはテクノロジー。我々はファッションに関するデータは世界一くらいに持っていて、それは唯一無二のもの。それを操るテクノロジーがあることは、圧倒的な強みです」

サイトの改善の積み上げにしても「ファッション好きでなければ分からないことがたくさんある」と、澤田氏は言う。

たしかに、ZOZOに引き寄せられたきたファッション人材の厚みと、その知見を注入したテクノロジーの組み合わせが、デジタル化に遅れを取りがちなファッション業界における「ZOZOの醍醐味」と言えるだろう。

成長こそがカルチャー証明する手段

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東京・青山にある子会社ZOZOテクノロジーズは、エンジニア・デザイナーなど制作に関わる技術者を集めた技術開発部門。テクノロジーとファッションの掛け算がZOZOの醍醐味だ。

提供:ZOZOテクノロジーズ

2020年3月期の決算発表で、「3つのやるべきこと」として、澤田社長が掲げたのは(1)売場拡張(2)商材拡張(3)収益モデル拡張であり、圧倒的な「成長路線」だ。

その路線は着実に実行されつつあるが、成長にこだわる理由が、澤田氏にはある。

「グローバリゼーションや個人主義で今の世界が動いている中で、ZOZOはチームワーク(がまず大事)。お金じゃないよね、という力学で動いています。ある意味、昭和的な要素もある会社」

澤田氏はZOZOという会社をそう評する。

ただし、こんなにいい文化持っていますと言ったところで、赤字だったら誰も話を聞いてくれない。ZOZOらしさをもって成長することで、社員も自信を持って、ZOZOってやっぱりすごい会社なんだ、というのが発信できる」

成長こそが、前澤時代から培ってきたカルチャーを証明する手段だと、確信しているのだ。

「ロジックではない世界に解がある」を目撃してきた

ZOZOSUIT

2020年10月29日、ZOZOは「ZOZOSUIT 2」を発表。活用されず失敗に終わった前作の教訓を生かし、開発段階から協業を目指し、パートナー企業を募っている。

一度は撤退した中国への再挑戦、即時完売を達成したD2Cブランドの展開など、成長の打ち手を広げる。一度は「ZOZO離れ」と言われたアパレルブランドも、ZOZOTOWNへ戻り協業を始めるなど、関係修復で成果を見せている。

カルチャー重視と着実な経営の両輪。それは堅牢な大企業の社員から、破天荒な経営者のもとでのベンチャー経営まで、なかなかないレベルでの振り幅を経験した、澤田氏ならではと言えるかもしれない。

「本当に両極端を経験してきたなと思います。僕も堅い世界から来て、ZOZOに入ってからはどんどん柔らかい世界に生きていて。やっぱり、ロジカルじゃない世界に実は解がある、というのを本当に目の当たりにするんですよ

自分自身は左脳派ですが、ロジックじゃない世界はあるし、そこを大事にしようという思いはすごくありますね」

現場に眠っているアイデア、声を引き上げることを念頭に置くのも、そのためだ。

ちなみに退任以降、前澤氏が経営について口出すことは一切、ないという。

「彼は彼で楽しんでやっていますから」

インタビュー後、記者らを見送りがてらのエレベーター前で、澤田氏はそう微笑んだ。

カリスマが去った後の前進という新たな挑戦のフェーズを、ZOZOはすでに突き進んでいる。

(文・滝川麻衣子、写真・今村拓馬、取材協力・稲葉結衣)


澤田宏太郎:ZOZO代表取締役社長兼CEO。1970年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学理工学部卒。1994年NTTデータ入社。コンサルティング会社2社を経て、2008年5月、スタートトゥデイ子会社のスタートトゥデイコンサルティング(後に吸収合併)の代表取締役就任。2013年6月、スタートトゥデイ(現ZOZO)取締役就任。2019年9月から現職。

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