日々の暮らしの中で最も不当に扱われていると感じるのは? キャリアを阻む壁は?男女格差解消の鍵は?
日本の女性たちにとって、これら全ての答えが「家事分担」であることが、リンクトイン(LinkedIn)ジャパンの最新の調査で分かった。「男女平等は成立しない」と諦めながら、「もし自分が男性だったら、今より高いキャリアを築けたはず」と考える女性たちのリアルに迫る。
最も不公平感じるのは「家事分担の話し合い中」
ビジネスに特化したソーシャルプラットフォームのリンクトインジャパンは、2020年9月、日本在住の全国各地の女性750人を対象に、オンライン上で調査を実施した。年齢は18〜65歳、未婚・既婚、勤務状況もフルタイムからパートタイム、フリーランス、専業主婦などさまざまだ。
日本社会の中でどんな時に不当に扱われたと感じたか? という質問(複数回答可)で最も多かったのは、「家事分担の話し合い中」で33%。次に「職場」30%、「夫・元夫から」が27%と続いた。
サポートは企業よりも家庭内に
女性の仕事の機会を妨げているもの(複数回答可)としても、「家庭内でサポートが足りない」の44%が、「組織内でサポートが足りない」の24%を、倍近く上回った。
51%を占めた「家族の世話、育児の責任などの社会的な期待」は、家事などを外注することに後ろめたさを感じさせる空気だと類推されるという。
また、日本の男女格差を解決する方法を尋ねた質問(複数回答可)には、「男女の平等な家事分担を推進する」が53%とトップに。
夫やパートナーの家庭での存在感は
それもそのはず。子どものケアや学校関係の業務、掃除や洗濯などの家事を主に自身が担っていると回答した女性は、90%を超えるのだ。
こうした背景もあってか、「将来的に幹部職まで昇進したい」(7%)「将来は自分の事業を立ち上げたい」(14%)「より大きな機会を追求するために転職したい」(12%)と、「キャリア志向」の女性は約3割。7割以上が、「将来も現在の職位を維持したい」(42%)「ある程度は昇進したいが、幹部職にはなりたくない」(25%)という「ノンキャリア志向」だった。
疲れ果てた女性たち、約半数が「男女平等は成立しない」の衝撃
「もしも私が男性だったなら……」(写真はイメージです)
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一方で、「もし自身が男性だったら、今よりもキャリアの立ち位置は良かったと思うか?」という質問には、43%もの女性がそう考えていると回答している(「より良い業績が出せる」14%、「ある程度良い業績が出せると思う」29%」)。「分からない」は32%、「変わらない」は25%だった。
リンクトイン広報の薛(せつ)美智子さんは言う。
「女性たちは『女性であるがゆえに』家事や子育ての負担が重くのしかかり、目の前にあることをこなすのに精一杯という状態です。もし男性であれば、家庭の役割が減り、仕事でより良い業績を残せると考えているのでは、と類推できます。
また、女性管理職が少ないことは女性の意識の問題にされがちですが(※)、それもこうした家庭での責任の重さによるものではないかということが、より強く類推できる調査結果になりました。事業立ち上げや転職の願望があるなど、今回キャリア志向に分類した女性たちも、その方がよりワークライフバランスの融通がきくからだという理由も推測できます」
72%の女性が、日本社会は「男女平等が成熟しているとは思わない」と考えている一方で、49%と約半数が「男女はそもそも異なるため、男女平等は成立しない」と回答したのは、改善の兆しが見えない現実への、女性たちの無力感の現れかもしれない。
※2019年の女性の非正規雇用労働者の割合は56%。また、役職者に占める女性の割合は係長級18%、課長級11%、部長級6%(小数点以下切り捨て)だった(内閣府「男女共同参画白書」)。
4人に1人は誰にも相談しない
では、女性たちは家事分担やキャリアの悩みについて、どう対応しているのか?「家族」(61%)や「友人」(40%)に相談する人が多い一方、4人に1人は「誰にもアドバイスを求めない」と、そもそも相談することにためらいがあるという結果に。
リンクトインではこれまでも世界各国を対象に仕事の意識調査をしてきたが、日本の女性の仕事に対する自信のなさや、その一因になっている家事サポートの不足など、特に日本でのジェンダーギャップは顕著だった。
リンクトイン日本代表の村上臣さんは言う。
「日本のジェンダーギャップの課題は、他国と比べても大きい。私個人としても、女性の方がより多くの家事負担をしている現状や、選択的夫婦別姓が導入されないことに違和感を感じていました。なぜなら、私も結婚時に姓を変え、仕事では旧姓・村上で働き続けている一人だからです」
誰も取りこぼさずに経済的なチャンスを作るには
コロナ禍の現在、オンラインでのコミュニティは、女性たちの孤立を防ぐ上でも重要だ(写真はイメージです)。
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今回の調査では、オンラインで他人に相談することについても尋ねている。
結果は、年齢層に大きな偏りなく、約半数が「個人的な相談をインターネットに投稿するのは抵抗がある」というものだった。
理由は「プライバシーの懸念」や「嫌がらせ」など、昨今のSNSを見ていれば、うなずける内容だ。オンラインコミュニティに加わることにも、84%もの人が「興味がない」と答えている。現在、リンクトインのような「実名を交換しているネット上の知人」に相談していると答えたのは、わずか2%だった。
前出の薛(せつ)さんは、そもそも女性が仕事や家庭についての自分の意見を安心して言える場所がネット上にはあまりないのではないかと考えている。そこでリンクトインでは今後、オンラインを通じて女性たちが語り合う場を積極的に提供していくと話す。
キーワードは「ジャッジされない」「シスターフッド」
今回の調査結果を受け、企業は、男性は、どう動くか。もしくは動かないのか(写真はイメージです)。
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オンラインでも女性はセクハラを受けることが多く、女性たちを尻込みさせる一因になっているが、リンクトインでは明確なガイドラインに基づき、悪意や嫌がらせ、人種差別的な要素を含む投稿などを人工知能と機械学習を用いて削除している。
さらに日本では、常駐している編集部が目視でも日々確認しているという。
また、家事分担が偏る理由として、パートナー間の経済格差をあげる人も少なくない。リンクトインではキャリアアップを目指したスキル獲得のためのオンライン講座を多く開設。
特にコロナによる経済危機に対応するため、マイクロソフトと共に、デジタルスキルの獲得に向けた講座の無償提供を行っている(2021年3月まで)。
「日本の女性たちに元気になって欲しいんです。世界的に『シスターフッド』が注目されていますが、私たちが目指すものも、まさにそれ。子育てや仕事の価値観はさまざまです。バリバリ働きたい人もいれば、そうじゃない人もいて、求めているものは皆違います。自分の考えや悩み、失敗や成功談を話しても誰にも『ジャッジ』されない、建設的なコミュニケーションが出来る場所をオンライン上に作りたいんです」(薛さん)
既婚か未婚か、子どもがいるかいないか、キャリア志向かそうでないか……女性たちの人生にはさまざまな岐路点があり、社会の圧力があり、繋がりも絶たれがちだ。
誰も取りこぼさない、そんな会社の理念に立ち返った取り組みが、今、始まろうとしている。
(文・竹下郁子)