社内コミュニケーション活性化ツール「TeamSticker(チームステッカー)」を開発、運営する株式会社コミュニティオ 代表取締役 嶋田健作氏(写真左)と、同社カスタマーサクセスマネージャー 荏原靖氏(写真右)。
「ありがとう」からはじめる組織改善。ポジティブ・フィードバックでカルチャーを変える
「現代のビジネスパーソンは、 “ありがとう”が圧倒的に足りていないと思うんです。感謝や称賛が、人の思考や行動を変えるコミュニケーションの突破口になると考えています」
こう話すのは、コミュニティオ代表取締役の嶋田健作氏。同社は、従業員同士で気軽にサンクスカードを送り合うことができるツール「TeamSticker(チームステッカー)」を2019年7月にリリース。日本を代表するグローバル企業やIT企業などが導入をスタートしている。
感謝、称賛といったポジティブ・フィードバックは、組織にどのような変化を生み出すことができるのか。サービスを企画・運営する2人に、開発の背景や導入企業の変化、サービスを通じて目指す未来を聞いた。
テクノロジーで、全ての人の“働く”を楽しくしたい
コミュニティオ代表取締役の嶋田健作(しまだ・けんさく)氏。ライブドア事業責任者、現LINEの子会社・NHNテコラスの代表取締役社長などを経て、2016年に東証一部のゲーム開発会社であるオルトプラスのCTOに就任。2019年にコミュニティオを設立。
── 嶋田さんは、身の回りのことにゲームの要素や原則を転用し、人を楽しくやる気にさせる“ゲーミフィケーション”に関心を持っていたそうですね。
嶋田健作氏(以下、嶋田):以前、ソーシャルゲームの開発・運営を行う会社にいて、ゲームの仕組みや体験を組織づくりにも応用できないか、と思っていたんです。ゲーム上でアイテムやポイントをゲットすることや、条件をクリアしてステージを上げることが単純に楽しいように、組織内の行動をデザインすることで、個人の“働く”をもっと楽しくできないか、と考えていました。
── 創業当初は、企業ごとのオリジナル社内通貨を発行できるサービスを開発していたと聞きました。
嶋田:はい。ただ、そのアプローチは結果的にはうまくいきませんでした。とある企業との実証実験で、社内通貨のような少額インセンティブは、もらえる/もらえないが目的化してしまい、コミュニケーション活性化には不向きであることがわかったんです。
一方で、何かを成し遂げたときに「おめでとう」「素敵だね」「いいね」など、感謝や称賛のメッセージを受け取ると仕事の満足度が上がる結果に。そこで、ポジティブなフィードバックの必要性に着目しました。
「良い行動」の可視化で、組織は変わっていく
荏原靖(えばら・やすし)氏。カスタマーサクセスマネージャーとして、導入企業と伴走し組織の状態に合わせた提案を行っている。
── そうして「TeamSticker」が誕生したんですね。サービスの特徴を教えてください。
荏原靖氏(以下、荏原):「TeamSticker」は、Microsoft Teamsと連携して「感謝」や「称賛」の気持ちを表すステッカーやメッセージを送り合えるサービスで、Teams向けにアプリを提供しています。ステッカーの内容は自由に設定ができ、感謝や称賛だけではなく、企業ごとの行動指針や理念を推奨する内容にカスタムすることも可能です。
また、投稿されたカードはタイムラインに表示されます。他部署や多拠点のグッドアクションを見える化し、共有することでコミュニケーション全体を活性化していきます。
──企業では、ステッカーをどのように使っているのでしょうか。
荏原:あるレガシー企業から「もっと新しいチャレンジを生み出すためにも、失敗を許容するムードをつくりたい」と相談がありました。そこで、「ナイストライ」というステッカーをつくり、通常であれば内にとどめてしまうような失敗も、ポジティブに変換できるような仕掛けづくりをしました。
実際にやってみると、「意外とみんな挑戦していたんだな」「自分もまずはやってみようと思った」という感想もあり、可視化するだけでも周囲にチャレンジすることを良しとする姿勢が広がっていく好循環が生まれました。
リモートワークで浮き彫りになった「チームで働く意義」の重要性
──コロナ禍を経て、どんな組織課題が浮き彫りになったと感じていますか?
嶋田:特にリモートワークで働いていると、目の前の仕事はサクサク進む一方で、「自分はなぜこの会社に所属しているのか」など、その企業や組織で働く意義を考える機会が増えたのではと思います。「仕事に対するフィードバックが見えない」「自分の仕事がどう役に立っているのかが分かりづらい」など、特に若手の間で「自己効力感」が低い人が増えているとユーザー企業からもよく聞きます。
荏原:導入企業で実施したアンケートでは、社員の7割が「上司からメッセージをもらえると嬉しい」と答えています。これまでであれば、廊下ですれ違った際に「あのときはありがとうね」とちょっとした感謝やフィードバックをもらう機会がありました。そうしたコミュニケーションが減ったリモート環境下では、自分の行いに対する反応をもっと知りたいというニーズが顕著になっています。
嶋田:意図的に感謝を伝え合う機会をつくらないと、目に見える結果だけで仕事が進み、無機質な世界になってしまうのではと危惧しています。
実は面白い研究結果があって。「ありがとう」を受け取るよりも送る方が組織に対するエンゲージメントが高まるというものです。メッセージを送るときって、その人のことを考えるし想像しますよね。相手のことを考える時間が自然と増えて、愛着が増すのかも知れません。
組織の状態を把握し、「働く」を楽しく
──今後目指していること、長期的な展望を教えてください。
投稿されたメッセージカードはタイムラインに表示され、他部署や他拠点のグッドアクションが可視化される(画面はイメージです)
荏原:これまで、日本企業は合理性や売上を追求してきた結果、コミュニケーションが後回しにされてきました。コミュニケーションは可視化が難しいうえ、マネジメントも属人的になりがちです。「コミュニケーションの活性化が組織や事業の活性化につながる」と考えている経営層や担当者は多いものの、その手段がわからず試行錯誤している企業も多いと感じます。今後はTeamStickerの利用実態を解析し、そのデータをもとに離職者の予測や防止にもつなげるなど、データを組織改善の道標として活用いただけるようなサービスを提供していく予定です。
嶋田:ここ最近、特に大企業でDX推進のスピードが上がってきたと感じています。コロナ禍の影響で企業が自己変革しようとしている。これはとてもいい風潮です。同時にリモートワークをきっかけにチームで働く意義もフォーカスされるようになり、一人ひとりにとって「働く」を見つめ直す機会になりました。
ビジネスパーソンがもっと楽しく、生き生きと働くためにも、ツールにとどまらずコミュニケーションのあり方を変えていきたい。TeamStickerはあくまでもコミュニケーションの一部分で、これで完結させるつもりはありません。暗黙知であったコミュニケーションネットワークを研究し、組織活性化につなげていきたいと思います。