「個性の違い」を仕事に反映し、幸せを感じながら望む働き方ができている人はどれくらいいるのだろうか。
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新型コロナに見舞われた2020年4月、日本電産の会長兼CEOの永守重信氏は「社員が幸せを感じる働きやすい会社にする」ことを宣言した(2020年4月21日本経済新聞朝刊)。
サイボウズ社長の青野慶久氏は「100人いれば100通りの人事制度があってよい」とし、「従業員一人ひとりの個性が違うことを前提に、それぞれが望む働き方や報酬を実現したい」と表明している(2020年4月日本能率協会セミナー )。ギャラップ社の調査レポートでも、従業員のエンゲージメントとパフォーマンスの相関がここ数年、指摘されている。
しかし、こうした「個性の違い」を仕事に反映し、幸せを感じながら望む働き方ができている人は、日本で果たしてどれくらいいるのだろう。日々の仕事を通して、「これまでの経験がうまく活かせている」「自分の強みや良さが発揮できている」と、私たちは実感できているだろうか。
5人に1人は「持ち味生かせてない」「自分らしくない」
2019年12月に実施した「働く喜び調査」の結果からは、仕事の中で自分なりの持ち味を活かせている人は半数に満たないことが明らかになっている。以下のグラフにあるように正社員の23.2%は、職場で「持ち味」を発揮できていないと感じているのだ。
出典:「働く喜び調査」より著者作成
さらに、仕事の中で「自分らしさ」が発揮できているかどうかをみてみると、4人に1人は「自分らしさ」が発揮できない状態で働いている。
出典:「働く喜び調査」より著者作成
「仕事の中で自分の性格が活かせている」と実感できていない人は22.2%。さらに、自分なりのやり方で仕事をできていない人は約半数に上る。
出典:「働く喜び調査」より著者作成
出典:「働く喜び調査」より著者作成
ダイバーシティマネジメントの文脈では、多様であることこそが企業価値を決めるとも言われている。
しかし、これまでにみてきたグラフでは、企業で働く約5人に1人は、個人の持ち味、自分らしさ、性格、自分なりのやり方について、仕事の中で活かされていない現状が示された。
個人の持ち味が発揮できる組織はなぜ強い?
結論を先に言ってしまえば、個人の持ち味が発揮できている組織は業績が高い。
しかし、なぜ個人の持ち味が発揮できていると組織の業績は高くなるのだろうか。分析結果をもとに詳しく見ていこう。
図1:持ち味発揮とパフォーマンスの関係 ※共分散構造分析 適合度指標 CFI.998 RMSEA.04 GFI.998
出典:「働く喜び調査」
実は個人の持ち味発揮が、職場の業績に直接与える影響はそれほど大きくない(図1緑線)。
持ち味発揮と職場業績の関係について、より詳細にメカニズムを確認すると、「持ち味を発揮すること」は個人の「働く喜び」に対する影響が非常に強く、そのことが職場の業績に影響を与えていることが明らかになった。
では、どうすれば個人が持ち味を発揮できる状況になるのだろうか。そもそも持ち味とは何だろう。
持ち味とは「他の人にはない経験」「楽しいことや得意なこと」
前述の「働く喜び調査」では、調査に入る前に「あなたの考える持ち味とは何か」。社会人135人に対して、記述式のアンケートを実施した。
Q.「仕事で持ち味を発揮している」と聞いたとき、持ち味とは何を意味していると思いますか?
出典:「働く喜び調査」より著者作成
記述式アンケートの結果からは、「その人らしさ」「他の人にはない経験・スキル」「楽しいことや得意なこと」といったキーワードが浮かび上がる。
持ち味の語源は「素材本来が持つ味」のことであり、まさしく個人が持つ素材そのものの価値に着目した回答が多くみられた。
中でも「その人らしさ」に関する回答が多い。
職場の同僚の「強み」はすぐに説明できても「持ち味」を説明することは難しい。それは、持ち味がより人の本質に近いものだからだろう。
「あいつに任せておけば大丈夫」の背景にあるのは「強み」だけではないはずだ。
何かうまくいかなかった時に、その人がそこから何を学び、人としてどう変化していったのか、そうしたことが「持ち味」を創る源になっているのではないだろうか。
個人の持ち味が発揮される職場の特徴
持ち味が発揮されるには(1)個人が持ち味を自覚すること(2)職場においてそれを活かしている状態といった、2つの要素が必要だ。
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続いて、こうした「持ち味」が発揮されるのはどのような職場なのか、前述の記述式アンケートで尋ねてみた。
以下は自由記述の内容を定性的に分析した結果である。持ち味が発揮されるには、個人が持ち味を自覚すること、職場においてそれを活かしている状態、といった2つの要素が必要だ。
これは管理職でなくとも、他者と仕事をする上で相手に持ち味を発揮してもらうために欠かせない視点であると言えるだろう。
いかにして他者の持ち味を引き出していい仕事をしてもらうかを考える際に、
- 「自分にしかできないと思える」状態になっているか
- 職場のメンバーが互いの持ち味を知っているか
- いかにその人の持ち味と仕事の特性が一致した状態で仕事を任せるか
- 自分の裁量で動ける余地を残しているか
- 成果をいかにフィードバックするか
という観点が大切だ。
互いに持ち味を活かした状態になるに
7. 互いの持ち味を知っていること
8. 持ち味によって影響を与え合っている
ことも必要だ。
Q.今の職場で「持ち味」が発揮されていると感じる理由
出典:「働く喜び調査」より著者作成
そして、こうした職場をつくる際の大前提のことではあるが、仲間の持ち味を引き出すには、日々のコミュニケーションが欠かせないことを忘れてはいけない。
あなたはどう考える?どうしたいと思う?といった他者からの問いかけによって初めて、自分の持ち味に気づくこともあるだろう。
つまり、持ち味とは、本人ではない「周囲の人」がいて初めて、引き出せることだと言える。個人が「自分らしい」「これが持ち味だ」と思うだけでなく、仕事や周囲からのフィードバックや関係性を通じて、その人の個性が花開いた時、それこそが「持ち味」だ。
持ち味は、一人で発揮できるものではない。持ち味を生かすのも、見過ごしてしまうのも、コミュニケーション次第という点を、チームや組織はもう一度、見つめ直す必要がありそうだ。
(文・辰巳哲子)
全国15-64歳の就業者を母集団とし、性・年代(10歳刻み)×就業形態×居住エリアで母集団構成に合うように回収。調査期間:2019年12月12日〜17日 サンプル数:5467
全国18〜89歳の就業者を母集団とし、性・年代・就業形態・地域・学歴で母集団構成にあうように回収。調査期間:2019年11月13日〜15日 サンプル数:9716
辰巳哲子:リクルートワークス研究所主任研究員。働くことと学ぶことのつながりをテーマに、キャリア教育や大人の学びを中心とした調査・研究をおこなう。これまでに、「分断されたキャリア教育をつなぐ。」「社会リーダーの創造」「社会人の学習意欲を高める」「『「創造する』大人の学びモデル」「働く×生き生きを科学する」をリリース。博士(社会科学) 。