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- カマラ・ハリス次期副大統領は過去にシリコンバレーと密接な関係を持っていたことから、グーグルやフェイスブックといった企業に対して寛容な態度をとるのではないかという見方もある。
- しかしコラムニストのジェイソン・アテンは、SNS利用者のプライバシー保護や不適切コンテンツの監視・削除といった問題については、もっと踏み込んだ対応をとると見ている。
- ハリスはケンブリッジ・アナリティカ事件の際にもフェイスブックの姿勢を批判しており、ツイッターにはトランプ大統領の投稿を規制するよう要請していた。
カマラ・ハリス次期副大統領は、シリコンバレーでは「よそ者」ではない。カリフォルニア州選出の上院議員を務める前は、州検事総長を務めていた。それ以前にはサンフランシスコで地方検事だった。2021年1月からホワイトハウス入りする際には、巨大IT企業に対する誰よりも豊富な経験を生かして執務に当たるだろう。
シリコンバレーの関係者の大半にとって、このことは一見すると朗報に思える。シリコンバレーにとってハリス氏はよそ者でないどころか、友人と言ってもいい存在なのだから。
フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグ。
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フェイスブックのシェリル・サンドバーグCOOは、著書『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』を出版した際にプロモーション活動に協力してもらっている。州検事総長選の際、サンドバーグはハリスの対抗馬だったフェイスブックの元最高プライバシー責任者クリス・ケリーより、ハリス氏のほうを応援していた。
また、ハリスの義弟はウーバーの主任法律顧問でもある。このウーバーについてハリスは、ドライバーを独立請負人ではなく従業員に分類するよう規定したライドシェアアプリ対象のカリフォルニア州AB5法(ギグ労働者法)を支持している。
しかし、同州の有権者は最近、住民投票でデリバリーやライドシェアアプリを規制から外したカリフォルニア州条例案「Prop 22」を可決した。
テック業界の知識があるにもかかわらず、ハリスは反トラスト法や海外利益の本国還流などの問題については、筆頭対抗馬のエリザベス・ウォーレン上院議員らほどには積極的に発言しておらず、上院議員として明確な態度を示していない。
その結果、ハリスと巨大IT企業との馴れ合いの関係から、バイデン−ハリス政権がテック業界を優遇するのではないかと懸念する業界の評論家もいる。こうした見方をされるのは、バイデン次期大統領が副大統領を務めた前民主党政権が、巨大IT企業に対して特に好意的だったからでもある。
しかし、ハリスが次期副大統領だからといって、次期政権がIT企業を優遇すると考えるのは単純すぎるだろう。
そもそも、業界の規制にせよ何にせよ、最終的に政策課題を決定する責任を副大統領が負うわけではない。
確かに、バイデン次期大統領が副大統領時代にオバマ元大統領の「がん撲滅のための国家プロジェクト」を指揮してきたように、特定のテーマについて副大統領がより公的な役割を果たすこともある。しかしそのような場合でも、副大統領は常に大統領の政策課題を支持する立場にある。
カマラ・ハリス次期副大統領(左)とジョー・バイデン次期大統領。
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バイデンはこの点に関して、フェイスブックなどのプラットフォーマーに対し、利用者が投稿したコンテンツについての免責の撤廃や、その他の一般的な技術的規制の強化に賛同の意向を示している。
さらにバイデンは、法案への署名や司法省を通じて、さまざまな面で巨大IT企業を規制するよう党から強い圧力を受けることになるだろう。
とすれば、例えば司法省での重要な職務に誰を選ぶかといったような場面で、カリフォルニア州の法執行機関トップを務めた経験を持つハリス氏の発言力が増すだろうと考えるのは筋が通っている。そうなれば、テック業界が注視している規制の動向に影響を与えること必至だ。
以上の点を踏まえると、テック業界に対する次期政権の姿勢にハリス氏の影響が及びそうな分野は次の3つということになる。
プライバシー
当時大統領候補だったハリス氏に対し、テック企業は解体すべきだと思うかとニューヨーク・タイムズが尋ねたところ、次のように答えたという。
「私にとっての優先的課題は、プライバシーが損なわれないよう保証すること、消費者がそれぞれ自分の個人情報の扱い方を決める権利を持てるようにすること、そしてそうした動きを確実に進行させることです」
ハリス氏はこれ以前にも、利用者の個人情報を守るためにテック企業にはもっとやるべきことがあるはずだと主張してきた。2018年に起きたケンブリッジ・アナリティカ事件の際には、ハリス氏がフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOに質問したことも話題になった。
このときハリス氏はザッカーバーグに対し、「フェイスブックが信頼と透明性をどれほど大切にしているのか疑問に思います」と語っている。フェイスブックが利用者の個人情報を販売する際、その旨をあらかじめ利用者に通知しないとする決定にザッカーバーグが関与していたのかどうかを質問した時のことだ。
不適切コンテンツの監視・削除
政府関係者の間で現在、唯一認識が一致しているのは、米通信品位法第230条(いわゆる「セクション230」)をどうにかすべきと考えている点だ。セクション230とは、利用者がサイトに投稿した内容について、プラットフォーマーは責任を問われることはなく、不適切コンテンツの監視および削除の権限を与えられるというもの。どちらの側も「どうにかすべき」とは考えているが、その具体的な内容は双方で異なる。
ハリス氏は、プラットフォーマーに対し、もっと多くのコンテンツを監視して不適切な投稿を規制すべきだとする立場だ。2019年には、ツイッターのジャック・ドーシーCEOに手紙を書き、トランプ大統領のツイッターアカウントを凍結するよう求めた。また、自らのツイートで世間に対し行動を呼びかけている。
ジャック、これ本当にどうにかしないと。
ハリス氏はセクション230に対して、民主党・共和党の議員の中では反対派の急先鋒というわけではない。しかしSNS運営企業のCEOたちに対し、不適切投稿の取り締まりが不十分だという批判を弱めてはいない。
反トラスト
反トラスト法違反でグーグルを提訴したのはトランプ政権だが、バイデン政権下でも提訴の標的となりそうな企業は数多くある。その筆頭に挙げられるのはフェイスブックで、さまざまな理由から両党の批判を受けている。
例えば、下院の反トラスト小委員会のデビッド・シシリン委員長は、グーグル、フェイスブック、アマゾン、アップルのCEOたちと面談した後、フェイスブックによるWhatsAppとInstagramの買収について「潜在的な競争相手を買収して市場の独占し、優位性を維持するためのものだ。典型的な独占行為である」と批判した。
ハリス氏は、フェイスブックがユーザーのプライバシーと信頼をどのように扱っているかについて批判したが、2019年にも、CNNのジェイク・タッパーとの対談の中でフェイスブックのことを「本質的に規制されない公共事業」だと述べ、解体すべきとの見解を示した。
このままで行くと、巨大IT企業は今後4年間、当初の見込みよりも厳しい状況になるかもしれない。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)