バイデン陣営はAIや5Gの研究に3000億ドルを投資すると公約した。
Joe Raedle/Getty Images
- トランプ政権は新しい技術分野で中国に対抗するため、いくつかの先端技術に重点投資を行ってきた。
- バイデン次期大統領は、トランプ政権が行ってきた研究支援や教育・実習制度拡充などの政策を継承すると見られている。
- 新アメリカ安全保障センターのシニアフェローは「トランプ政権が始めた政策の中には非常に優れたものがあり、バイデン政権も継続・強化する可能性がある」と言う。だが新旧政権では方針に違いも。
トランプ政権は過去4年間、量子コンピューティングやAIを科学政策の要として、研究開発、教育、技術推進のための国際連携にかなりの投資を行ってきた。
これらの分野で存在感を増す中国に対抗し、人々のビジネスや生活に革命を起こす業界をアメリカが牽引する——それがトランプ政権の狙いだった。
こうした取り組みを評価する声もある一方で、IT業界からは移民政策に対して、科学者からは基礎科学研究の予算削減案に対して批判の声も挙がっている。
それでもバイデン次期大統領は、連邦議会・産業界・学会が主導する超党派の取り組みを引き継ぐと見られており、これまでの政策をもう一段進めると見る専門家もいる。新アメリカ安全保障センター(CNAS)のマーティン・ラッサー(Martijn Rasser)シニアフェローは、Business Insiderの取材にこう答える。
「トランプ政権が始めた取り組みには非常に優れたものもありますから、バイデン政権も引き継ぎ、なかには強化するものもあるでしょう」
先端技術に対する方針は新旧政権でどう違う?
トランプ政権は技術分野で目覚ましい成長を遂げる中国に対抗するため、いくつかの先端技術に積極的な投資を行ってきた。量子コンピューティングはそのひとつ。
Boykov / Shutterstock.com
新興技術に関するバイデンの政策は、トランプ政権の政策を踏襲するものと見られている。野心的な中国に対抗心を燃やしているあたりは特にだ。ただ、中国の量子技術がどの程度進んでいるのかなど、まだ不透明な部分もある。
例えばバイデン陣営のウェブサイトでは「中国政府はこうした重要な技術領域の研究・商用化に向けた投資を積極的に行うことで、アメリカの優位性を覆し産業界の未来を独占しようとしている」と警鐘を鳴らしている。
バイデンは以前、AI、電気自動車、5Gといった分野の研究に「高付加価値の製造業やテクノロジー分野で質の高い雇用を創出するため」に3000億ドルを投資するべきだと発言した経緯がある。また、デトロイトを拠点にした「LIFT」(編集部注:アメリカのモビリティ分野における製造革命をミッションにした官民パートナーシップによる非営利団体)のような、研究開発機能と人材教育機能を併せ持つ全米50都市の「テクノロジー・ハブ」に投資する公約もした。
研究開発にはトランプ政権もこれまで何十億ドルも投資してきた。量子コンピューティングをはじめとする先端分野での早期教育拡大や実習制度のテコ入れ等を通じて、より技術に精通した人材の育成を進めてきた。
だが、明らかな違いもある。ひとつは、バイデンが掲げた「年収12万5000ドル未満の世帯は大学4年間の授業料を免除する」という公約だ。また選挙戦では「トランプ政権は対応してこなかった、アメリカの知的財産や国家の安全を敵の脅威から守る」ため、「最先端の通信やAIの領域での調達を行う」との公約も掲げていた。
これが具体的に何を意味するのかは不明確だ。
例えばトランプ政権は、中国の通信大手ファーウェイに対して非常に強硬な態度をとった。ホワイトハウス高官はファーウェイを実質的に中国共産党の所有物と見なしていた。連邦政府のリーダーたちは同盟国に対し、5Gインフラにファーウェイ製品を導入しないよう強く要請し、連邦政府もファーウェイ製品の使用を段階的に控えてきた。
だが、バイデン陣営はAIの規制に関するスタンスを明確にしてこなかったため、不透明な部分が残る。ホワイトハウスは連邦諸機関におけるAI技術の規制ルールをとりまとめている。タイミングを考えれば、これらの指針がバイデン政権の直近の目標となる可能性はあるだろう。
以下、トランプ政権がこの4年間で着手した主な政策をまとめた。
研究開発に注力
- トランプ政権は8月、AI研究と量子研究に対して10億ドル規模の助成金を発表した。また、「将来の重要産業のため、イノベーションを加速し、地域経済の振興を支援し、次世代人材を育成する」ためのハブとして、全米12カ所に新規の国立R&Dセンターを立ち上げた。
- トランプ政権は先端技術のカギとなる基礎科学研究の予算を削減して批判されたものの、別の技術分野への財政支援拡充を提案した。最終的には、AIや量子技術に従来の2倍近い20億ドル以上の予算を請求している。
- 米エネルギー省は1月、6億2500万ドルを拠出して量子情報科学研究センター(Quantum Information Science Research Center)を全米5カ所に新設することを発表した。
人材開発
- トランプ政権は産学連携の取り組み「国立Q-12教育パートナーシップ(National Q-12 Education Partnership)」を立ち上げた。量子技術を高等・中等教育の教育課程に取り入れてもらうこと、教師の勉強用素材を提供することを目的としている。
- 2017年、トランプ大統領はアメリカにおける実習制度を整備する大統領令を発効した。これによって、職務経験と研修を組み合わせることが多い実習制度の管轄が、労働省から民間へ移譲されることになる。
国際的リーダーシップ
- ホワイトハウスは科学技術政策局(the Office of Science and Technology Policy)に量子技術担当副局長(assistant director for quantum)のポストを新設した。これによって、トランプ政権がいかに量子技術に注目しているかを産業界・学会・世界のパートナーに対してアピールした。
- 2019年末、トランプ政権は日本と先端量子技術研究で連携していくとする共同声明に署名した。
- 2019年、トランプ大統領は「米国人工知能イニシアチブ(American AI Initiative)」を立ち上げ、いかにしてAI技術をアメリカの優先課題とし、この分野で世界的リーダーの地位を確立するか概要を示した。
(翻訳・カイザー真紀子、編集・常盤亜由子)