記者会見には写真左から、楽天モバイル、ソフトバンク、KDDIの3社の担当者が代表して登壇した。
撮影:小林優多郎
NTTによるNTTドコモの完全子会社化は競争環境を阻害するのではないか ── 。
KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルは11月11日、NTTによるNTTドコモ(以下、ドコモ)完全子会社化に関する合同記者会見を開いた。
会見に先立ってまとめられた意見申出書は、3社を含めた通信事業者28社が名を連ねた。趣旨に賛同したケーブルテレビ事業者9社も含めれば、「待った」の声を上げたのは全37社。意見申出書は同日、総務大臣宛に提出された。
各社のリリースでは、今回の意見申出書はドコモのNTT完全子会社化に際して「電気通信市場の持続的発展に向けた公正な競争環境整備を求めるもの」で「37社の総意」としている。
通信事業者37社が気にする2つのポイント
意見申出書の概要。
撮影:小林優多郎
意見申出書はA4用紙で25枚分にもなる。
その内容は、公正な競争環境整備を求め、「情報通信審議会または同等の場での公開の議論」「環境変化に応じた競争ルールの整備」が主となっている。
意見書の内容は、簡潔に言えば、ドコモがNTTの完全子会社となった後も、ドコモが他の通信事業者と同等の条件で事業を展開していくためのルール(規制)作りを、公開の場で行っていく必要があるということだ。
なぜ、新たなルールが必要なのか。会見した代表3社が懸念を示した点は大きく分けて2つだ。
1. NTT東・西とドコモが近づけば、5G時代以降ドコモが有利になる
NTT東西とドコモの一体化を懸念。
撮影:小林優多郎
1点目は、NTT東日本・NTT西日本(以下、NTT東・西)とドコモの距離感だ。これは今後の5G通信網の展開を見据えたものだ。
NTTの子会社であるNTT東・西は既に、全国に固定回線(光ファイバー)の設備を多く持つ。シェアは2020年3月末で75.2%(NTT東・西合わせて)で、多くの事業者は通信のバックボーンとしてNTT東・西の設備の卸を受けている。
同じく子会社になるドコモに対し、NTT東・西が固定回線の卸の料金を値下げをしたり、ドコモが有利となる仕様を策定する恐れがあるのではないかと、競合各社は指摘しているわけだ。
NTTの澤田純社長。
出典:NTT/NTTドコモ
なお、NTTの澤田純社長は9月29日の会見で「ドコモだからといってNTT東・西を有益に利用できることはないし、法的にも(有利な条件には)できない」と発言している。
各社はこの発言内容に一歩踏み込み、担保するための具体的な規制内容と、その内容が確実に実行されるための厳格な運用方法についての議論を求めている。
2. NTTコミュニケーションズとの一体化もNTTの巨大化につながる
意見申出書の内容は、NTT東西だけではなく、NTTコミュニケーションズに対しても及ぶ。
撮影:小林優多郎
2点目は、ドコモとNTTコミュニケーションズ(以下、NTTコム)の関係性だ。
NTTコムは、2020年6月末時点で約712万の契約数を持つISP事業「OCN」を運営し、クラウドやIoT、ネットワークなどの法人向け事業でも一定のシェアを持つ事業者だ。
NTTコムもまたNTTの完全子会社で、NTTは9月29日の会見で「NTTコミュニケーションズやNTTコムウェアのNTTドコモへの移管」を検討しているとしている。
ソフトバンク 渉外本部本部長 渉外担当役員代理の松井敏彦氏。
撮影:小林優多郎
ドコモとNTTコムが一体化することで、通信事業だけではなくIoTなどの幅広い分野で巨大な支配力を持ってしまうのではないか ── というのが各事業者が抱く懸念点だ。
とくに、会見ではソフトバンクで渉外本部本部長・渉外担当役員代理を務める松井敏彦氏が「基本的に反対の立場」と強調した。
「法人(事業)はNTTコム、コンシューマー(事業)はドコモなど、完全に1社化してしまう。現在は禁止行為規制や特定関係事業者制度などもあるが、一体になってしまうと形骸化してしまう懸念が高くなる」(松井氏)
完全子会社化は止められないが、その先の議論を求める
通信事業者など28社は、総務大臣にNTTによるドコモ子会社化に係わる意見申出書を提出した。
撮影:小林優多郎
注意しておきたいのは、今回の意見申出書で、各社ともにNTTによるドコモの完全子会社化自体は止められないと認めていることだ。
会見では、今回の完全子会社化が、日本電信電話株式会社等に関する法律(いわゆるNTT法)の第2条で定められたNTTの主な業務にはそぐわないものと「NTTによる競争政策の一方的な反故」と強い言葉でけん制してはいた。
KDDI 理事 渉外広報本部副本部長の岸田隆司氏。
撮影:小林優多郎
ただ、すでにNTTによるドコモ株式の公開買い付け(TOB)は始まっており、11月13日まで実施されている。
会見に登壇したKDDIの理事で渉外広報本部副本部長の岸田隆司氏は「TOB自体は止める手立てはない」と話している。
NTT東・西とドコモの実質的な一体化については「目の前に起こっている資本的な一体化に対して、しっかりと手当てを打つことが先決」(岸田氏)としている。
(文、撮影・小林優多郎)