ドコモ子会社化にKDDI・ソフトバンク・楽天が声をあげた……5G時代のいま議論が必要なワケ

会見会場

NTTによるNTT完全子会社化に係わる意見申出書を提出した28社を代表して、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの代表者が顔を揃えた。

撮影:小林優多郎

KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルなど電気通信事業者28社は、NTTによるNTTドコモ完全子会社化に関しての意見申出書を総務大臣に提出した

KDDIやソフトバンク、楽天モバイルは、NTTによるNTTドコモ完全子会社によって、NTTの支配力が強まり、公正な競争環境が損なわれ、利用者利益を損なう恐れがあるという強い危機感があるようだ。

5GにNTT東・西の光ファイバー網は必要不可欠

起こりうる問題例

NTTドコモ子会社化によって予想される問題の例。

撮影:小林優多郎

例えば、これから5G時代が本格化する上で、全国津々浦々にに5G基地局を整備していく必要がある。その際、 KDDIやソフトバンク、楽天モバイルは、NTT東日本・NTT西日本(以下、NTT東・西)が敷設している光ファイバー網を借りなくてはならない。

もし、NTT東・西が、NTTドコモとその他事業者に対して、同条件だが高額なレンタル料金を設定した場合、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルは赤字となり、通信事業の継続が困難になる。

理屈の上では、NTTドコモが赤字でもNTT東・西で黒字になれば、NTTグループ全体としては丸く収まる。一方でライバル企業は厳しい経営状況に追い込まれる……こうした事態に歯止めが掛からなくなることを危惧している。

NTTと競合2社のこれまでの関係

NTT東・西のボトルネック設備

5G時代に光ファイバー網の重要性は高まる。

撮影:小林優多郎

もともとNTTは日本電信電話公社であり、ほぼすべての市区町村に約7200の局舎を保有し、光ファイバーにおいては約75%の設備シェアを誇る。KDDIやソフトバンク、楽天モバイルは、それらの設備を借りないことには通信サービスをユーザーに提供できないという事情がある。

KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルというライバル同士が手を取り合って、NTTによるNTTドコモ完全子会社化に異議を申し立てるのには、各社ともそれぞれ、NTTグループに対抗しようと挑むものの、NTTの圧倒的な有利な立場に苦しめられてきたという苦い経験があるからだ。

KDDI代表者

KDDI 理事 渉外広報本部副本部長の岸田隆司氏。

撮影:小林優多郎

KDDIは、合併前のDDIが発足した当時、全国に固定回線網を持つNTTに対して、マイクロ無線網を東名阪に整備して、長距離電話のサービスを提供してきた。

また、NTTは電柱から各家庭に電話線を張りめぐらせているが、KDDIはラストワンマイルで対抗しようと、ケーブルテレビ会社を必死に仲間に入れ続け、家庭に通信環境を提供しようと努力を続けてきた。

すべてはNTTの競争相手になるためであり、対抗できる設備を持つことが重要だと考えてきたからだ。

ソフトバンク代表者

ソフトバンク 渉外本部本部長 渉外担当役員代理の松井敏彦氏。

撮影:小林優多郎

ソフトバンクは、「ヤフーBB」としてADSLサービスで、家庭向けインターネットで料金競争を仕掛けてきたが、ADSLを提供する際に必要なNTTの局舎を貸してもらえなかったり、工事の対応を遅らされるなどのことがあったという。

また、孫社長が10年ほど前に「光の道」という構想を提唱。NTTではなく、独自に民間のアクセス回線会社を設立し、NTTから既存のメタル回線を撤廃し、光ファイバーに切り替えていき、全国に一気にネットワークを整備しようと息巻いていた。

ソフトバンクとしては、全国のネットワークをNTTに独占させるのではなく、ネットワークを専門に敷設する民間会社にすることで、他の通信事業者が借りやすい環境を整備させたい狙いがあった。

孫社長は当時、相当暴れ回っていたが、NTTや役所の反対もあって結局「NTTに機能分離させるという話にはなったが、お茶を濁されてしまった」(関係者)ということで、 光の道構想は頓挫してしまった。

楽天モバイルすら声をあげた理由

楽天モバイル代表者

楽天モバイル 執行役員 渉外部長の鴻池 庸一郎氏。

撮影:小林優多郎

いま、苦しんでいるのが楽天モバイルだ。全国で携帯電話の基地局を建設しており、アンテナは立っているのだが、そこまでの光回線が敷設されていないところが多い。

三木谷浩史社長は8月に行われた決算会見で「既に1万以上の基地局の建設が完了しているが、NTT回線との接続を待っている基地局が非常に多い」とグチをこぼしていた。

今回の会見でも楽天モバイルの鴻池庸一郎渉外部長は「基地局建設は、伝送設備の設置場所や光ファイバーをお借りしている。料金が高止まりすることで、これから競争事業者として新規参入する事業者についても、公正かつ競争する環境が阻害される懸念がある」を危機感を募らせている。

NTTにまつわる歴史

3社が示したNTTにまつわる歴史的経緯。

撮影:小林優多郎

NTTの巨大な市場支配力を見直すという作業は、それこそ1985年の民営化の頃から議論され続けている。

ライバル企業と互角に戦わせるために、NTTグループを分離してきたが、今回のNTTによるNTTドコモの完全子会社化は、通信業界を長年見てきた筆者としては、その動きに逆行するものに見える。

NTTの澤田純社長は「昔に比べて時代や環境が大きく変わった」と説明。NTTドコモは営業利益で国内3位に転落しているなど「昔に比べて競争力はない」と話している。

子会社化は止められず。規制の議論をするなら今

NTTグループ ロゴ

いまだ巨大な存在であるNTTグループ。

撮影:小林優多郎

今回、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルなど28社(意見書の趣旨に賛同した会社を含めれば37社)が異議を唱えたが、すでにNTTによるTOB(株式公開買付)は終盤を迎えており、完全子会社化は避けられそうにない。

また、総務大臣や公正取引委員会も、すでに完全子会社化を認める発言をしているなど、問題意識は全く抱いていないようだ。

5G時代が本格化する中で、全国に張り巡らされた光ファイバー網をどう活用していくか。NTTグループだけが優位に使えるようになってしまっては、ライバル企業たちは太刀打ちできない。

10年前に泡と消えた「光の道」構想を改めて見直してみるなど、国民のためにインフラ利活用について、真剣に議論すべきタイミングが来たのではないだろうか。

(文・石川温、撮影・小林優多郎


石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。近著に「未来IT図解 これからの5Gビジネス」(MdN)がある。

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