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韓国「辛ラーメン」は「カップヌードル」「マルちゃん」を駆逐するのか。コロナ禍で見えてきた世界市場の行く先

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韓国・農心のブランド「辛(シン)ラーメン」が、コロナ禍の世界インスタントラーメン市場で大きな存在感を放っている。

Lemonade Serenade/Shutterstock.com

コロナ禍のいわゆる「巣ごもり需要」で世界的にインスタントラーメンが売れまくっていると、多くのメディアが報じている。

パンデミック第一波の猛威が顕在化した2月23日から3月21日にかけて、米小売大手ウォルマートのオンラインストアでは、インスタントラーメンの売り上げがわずか1カ月でおよそ6倍(578%)にふくれ上がったという(ブルームバーグ、4月4日付)。

この動きは日本のメーカーにとっても、大きな追い風となった。

先ごろ(11月10日付)発表された日清食品ホールディングス(HD)の2021年3月期上期(4〜9月)決算は、文字通り「インスタントラーメン祭り」と言える内容だった。

同社は言わずとしれたインスタントラーメンの元祖。「チキンラーメン」「カップヌードル」の生みの親、安藤百福氏が創設した会社だ。

発売当時「価格は1食35円。うどん玉ひとつが6円の時代に、これでは商売にならない」(同社ウェブサイト)ほどの高級品だったが、いまや安価な常備食料品として世界中に広がり、巨大な市場を形成している。

日清は売上高5000億円の大台超えも見えてきた

日清食品HDは、「カップヌードル」「チキンラーメン」「出前一丁」「ラ王」などを展開する日清食品、「チャルメラ」「中華三昧」などの明星食品を傘下に置き、パンデミックのさなか国内外で大きく売り上げを伸ばした。

日清、明星とも、国内の袋めん売り上げはそれぞれ14%増、35%増。海外では、アメリカとブラジルで「新型コロナウイルス感染症による需要増」のために、売上高がそれぞれ34%増、27%増。中国地域(香港除く)でも、「カップヌードル」「出前一丁」の販売ボリュームが伸び、売上高が27%増えた。

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日清食品HDの2021年3月期上期決算より。セグメント別の売上高貢献度。国内外の即席めんの伸長が著しい。

出所:日清食品ホールディングス 2021年3月期 第2四半期決算報告

結果として、上期の売上高は前年同期比8.9%増の2411億円、営業利益は同61.5%増の318億円。

通期の売上高見通しとして、現時点で4860億円を見込んでいるものの、欧米で感染拡大第二波が広がり、巣ごもり需要が長期化する可能性が高いことを考えると、同社史上初となる5000億円の大台超えもありそうだ。

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日清食品ホールディングスの2021年3月期上期の売上高・営業利益・純利益。

出所:日清食品ホールディングス 2021年3月期 第2四半期決算報告

中国とインドネシアで「世界の総需要の半分」

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東洋水産の看板ブランド「マルちゃん」。写真は米ノースカロライナ州シャーロットのスーパーにて。

ZikG/Shutterstock.com

さすがインスタントラーメンの元祖、と言いたいところだが、コロナ禍で売り上げを大幅に伸ばしたのは何も日清食品HDばかりではない。

「マルちゃん」ブランドで知られる東洋水産の上期決算(売上高)を見ると、国内即席めん事業で前年同期比25億円増、海外即席めん事業でも同26億円増。両者が業績好調をけん引し、増収増益を果たしている。

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東洋水産の2021年3月期上期(4〜9月)の売上高の内訳。国内外のインスタントラーメン事業が大きく伸びた。

出所:東洋水産 2021年3月期第2四半期 決算説明会資料

そして、こうした国内勢の好調すらも、伸長する世界のインスタントラーメン市場においては氷山の一角にすぎない。

そもそも、世界で最もインスタントラーメンを消費する国はどこか、考えたことがあるだろうか。

業界大手が名を連ねる「世界インスタントヌードル協会(WINA)」の調べによれば、2020年5月11日時点で、1位は中国地域(香港含む)で414.5億食、インドネシアが2位で125.2億食。この「二強」の需要は他国を引き離してダントツの数字で、しかも長いこと順位の変動もない。

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インスタントラーメンの世界総需要ランキング。

出所:世界インスタントラーメン協会(WINA)

3位以下は僅差で、インド、日本、ベトナム、アメリカ、韓国などがトップ10に名を連ねる。

日本は2017年まで3位をキープしていたが、人口増加と社会発展の著しいインドに抜かれた(もちろん需要が多ければいいというわけではない)。

そんなわけで、この広大な世界市場を支配するのは、必ずしも元祖カップヌードルやチキンラーメン、マルちゃんラーメンではない。何となく想像がつくように、需要量の圧倒的な中国とインドネシアの胃袋を満たしてきた「地元メーカー」の存在感はいまだに大きい。

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中国・北京市内のスーパー陳列棚。地元トップブランド「康師傅(カンシーフー)」のカップめん。

REUTERS/Jason Lee

中国地域では「康師傅(カンシーフー)」ブランドを展開するティンイホールディングス(HD)や、「統一(トンイー)」ブランドの統一企業(ユニ・プレジデント)、日清と2015年まで合弁契約を結んでいた「今麦郎(ジンマイロウ)」ブランドの河北華龍麺業などがシェアの大半を占める。

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インドネシアのソウルフード、「Indomie(インドミー)ミーゴレン」。

Mia Woolgar/Shutterstock.com

また、インドネシアでは「Indomie(インドミー)」のインドフードが最大手。「Mie Sedaap(ミースダップ)」で知られる業界2位ウイングスとの2社合計で、同国の販売量シェアのほぼ9割を占める。

なお、コロナ禍の追い風という意味では、中国最大手ティンイHDは2020年上期(1〜6月)決算で、インスタントラーメン事業の売上高が前年同期比3割(29.16%)増の149.1億元(約2375億円)、純利益が同2倍(93.67%)増の16.94億元(約270億円)と発表。日清食品HDのインスタントラーメン事業の国内外合計を上回る数字を叩き出している。

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「康師傅(カンシーフー)」ブランドを展開するティンイ・ホールディングスのセグメント別売上高。

出所:Tingyi Presentation on 2020 Interim Results

要するに、日本勢はブランドとしての認知度は決して低くないものの、世界市場が(中国・インドなどエリアごとに)地元メーカーの圧倒的な影響力によってセグメント化されていることもあって、成長のけん引役と言えるほどのリーダーシップは発揮できていないのが現状だ。

ニューヨーク・タイムズは「辛ラーメン、最高」と

「辛ラーメンブラック」のコマーシャル動画。

Nongshim YouTube Official Channel

世界のインスタントラーメン市場は2020年、新型コロナ感染拡大による巣ごもり需要が引き続き想定されることもあって、前年比11.3%増の412億ドル(約4兆3260億円)まで広がると予測される(ユーロモニター推計)。

そんななか、これまで地道にファンを増やしてきたあるメーカーが、苛烈なコロナ禍に苦しむアメリカ市場での躍進をテコに一気に頭角をあらわした。

日本でもよく知られる、韓国「辛ラーメン」の農心(ノンシム)だ。

米ニューヨーク・タイムズが2016年に買収した人気レビューサイト「ワイヤーカッター」は今年6月、シェフや料理本の著者、ラーメンブロガーらに取材して「最高のインスタントラーメン」ランキングを発表した。

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米ニューヨーク・タイムズ傘下の人気レビューサイト「ワイヤカッター」。6月17日付で掲載されたランキングが大きな話題を呼んだ。

Screenshot of NYTimes Wirecutter

そこで「ベスト」と評価されたのが、農心の「辛ラーメンブラック」だった。

「1袋あたり3ドルという値段は安くないが、普段食べているインスタントラーメン以上の満足と豊かな風味、食す喜びを得られること請け合いだ」

また、3位にも農心の「チャパゲティ」「ノグリ」がランクイン。今年の米アカデミー賞で作品賞を含む4部門を制した『パラサイト』に、この2種類のインスタントラーメンを混ぜてつくる「チャパグリ」が登場したことも追い風になった模様だ。

なお、「アベレージ以上」と評価された4位以下には、日清食品「ラ王 旨味豚骨味」(5位)と農心の「辛ラーメンライト」(6位)がランクイン。

「ベーシック」評価の7位以下には、日清食品「トップラーメン チキン味」(7位)、農心「辛ラーメン(カップ入り)」(8位)、東洋水産「マルちゃんヌードルスープ クリーミーチキン味」(9位)、同「マルちゃんヌードルスープ チキン味」(10位)、日清食品「チキンラーメン」(11位)が選ばれた。

新型コロナの影響で、今後の市場拡大が予想されるアメリカのインスタントラーメン市場。そこで大きな影響力を持つレビューサイトの評価を、日本の日清食品と東洋水産、韓国の農心の3社でほぼ独占する形になったのは、市場の動きについて何かを指し示していると言っても過言ではないだろう。

ロサンゼルス・タイムズも「辛ラーメン」3位に推す

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11月5日付の米ロサンゼルス・タイムズ記事。ニューヨーク・タイムズ以上に多様なインスタントラーメンを評価しつつ、東南アジア寄りのランキングとなった。

Screenshot of LosAngels Times

そして最近、米ロサンゼルス・タイムズ(11月5日付)が発表した「インスタントラーメン・パワーランキング」が、また別の意味で話題を呼んでいる。

というのも、ニューヨーク・タイムズのランキングとは全面的に異なる顔ぶれでありながら、「辛ラーメンブラック」だけが唯一両方にランクインしたからだ。

1位はインドネシアの「インドミー バーベキューチキン」。10位には「インドミー ミーゴレン」もランクイン。2位にはマレーシアの「マイクアリ ペナンホワイトカレー」、5位に同じくマレーシアの「イブミー・ミーゴレン」、7位にも「マイクアリ ペナンスパイシープラウン」が入り、東南アジアのメーカーに偏ったランキングとなった。

そんななかで「辛ラーメンブラック」は堂々の3位。日本勢は、サンヨー食品「サッポロ一番 トーキョーチキン・モモサン」が4位、明星食品(日清食品HD傘下)「中華三昧 醤油」が5位に続いたものの、農心の後塵を拝する形になった。

なお、農心の2020年上期(1〜6月)決算を見ると、インスタントラーメン事業の売上高は前年同期比12.2%増の6740億ウォン(約637億円)。中国とアメリカ、さらには日本で「辛ラーメン」が大きく伸びた。レビューやランキングにとどまらず、現実に市場シェアを押し広げていることがわかる。

日本と韓国の直接対決?

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日清食品HDが誇るインスタントラーメンの元祖「カップヌードル」。世界のスタンダードとして君臨し続けられるか。

Wacharin Soponthumkun/Shutterstock.com

結論として市場の先行きを展望すると、世界の二大インスタントラーメン消費エリアである中国地域とインドネシアでは地元メーカーがまだまだ元気で、おそらくそう簡単に「地殻変動」的な勢力変化は起きないだろう。

一方で、長いこと国内市場に安住してきたティンイHD、ユニ・プレジデントといった中国大手が、いきなり海外進出とシェア拡大に成功するとも考えられない。

そう考えると、グローバル展開を狙うメーカーは、「二強」以外の国でそれなりの規模感とトレンドの変化を期待できる「確変ゾーン」を主戦場にしようと考えるはずだ。

具体的には、冒頭でも触れた総需要ランキング3位以下10位以上のインド、日本、ベトナム、アメリカ、韓国、フィリピン、タイ、ブラジルあたりが狙いどころで、それらの国々を足すと中国の総需要に匹敵する規模感となる。

実際、国内最大手の日清食品HDはすでに、インドやアメリカ、ベトナム、タイ、ブラジルなどでの販売拡大に重心を傾け、農心「辛ラーメン」の需要を削り取ることを意識してか、「」「激超」(タイ・ベトナム)といったラインナップを充実させている。

変化球的なマレーシアのメーカー各社も伏兵として気にならなくはないが、ここまで紹介してきたさまざまの情報や需要の動向を踏まえれば、「確変ゾーン」のシェア争奪戦は、もはや日清食品HDあるいは東洋水産と、韓国・農心による直接対決の様相を呈してきている……と考えるのは単純に過ぎるだろうか。

(文:川村力)

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