撮影:鈴木愛子
今回は読者の方からお寄せいただいたご相談にお答えします。テーマは「人に興味がないのにマネジメント職は務まるのか」。
「リーダーやマネジャーは、メンバーに興味関心を持ち、その価値観や思いに寄り添うべき」。ビジネスの書籍や記事では、そう語られているものが多く見られますね。
私自身も、会社員時代からマネジャーとしてこのことを大切にしてきたひとりです。
しかし、「人に興味がない」という人がリーダー・マネジャー失格かというと、必ずしもそうではありません。
次の3つのポイントに着目してみてください。
1. 人の「成長」に興味を持てるか
人の価値観や思いには興味がない。チームメンバーとプライベートの話をするのも億劫——では、「自分のチームメンバーが成長することで、チームの目標を最短距離で達成できる、成果を最大化できる」となると、いかがでしょう?
「メンバーの成長」に対してなら興味を持てる、ということであれば、マネジャーに必要な要件は満たしていると思います。
実際、Aさんが会社からマネジメント力を評価されているということは、メンバーに対して適切な業務アサインや指導を行い、成長を促進できているということなのではないでしょうか。
メンバーのスキルアップや成長を意識して対応することができるのであれば、マネジャーとして十分通用すると思います。
メンバーの成長は、チーム力アップに直結します。リーダーの優れた戦略によって一時的に大きな成果を得られたとしても、個々のメンバーが育ち、「自走」できるようにならなければ継続はできません。
そもそも「チームでの成果に興味がない」ということであれば、個人プレイヤータイプですので、スペシャリストとしての道を選んだほうがいいかもしれません。
2. メンバーが何を求めているか
「自分の部下は不幸なのではないか」と思っていらっしゃるようですが、それは部下のタイプによります。
先輩や上司に対して、「自分のことを気にかけてほしい」「家族や兄弟のように親身になってほしい」と望むタイプの人もいれば、そんなことはまるで求めず、「課題解決や目標達成のためのアドバイスをもらえさえすればいい」という、自立したタイプの人もいます。
後者のタイプのメンバーで構成されているチームであれば、Aさんのようなタイプのマネジャーでもメンバーのニーズを満たすことができるはずです。
異動や採用などによって、そんなチームを編成できるのであれば、Aさんが今のスタンスを変える必要はないのではないでしょうか。
3. チーム内に「人に興味がある」リーダー格メンバーがいるか
メンタル面のコンディションは、どうしても仕事のパフォーマンスに影響を及ぼします。プライベートで悩みを抱えると、全力で仕事に向き合えないことも。そんな状況を改善するためには、そのメンバーの気持ちに寄り添い、プライベートの話にも親身になって付き合い、ケアしてあげることも大切です。
しかし、マネジャー自らそれをやらなくてはならない訳ではありません。得意なメンバーに任せてしまえばいいのです。人に興味があり、人の気持ちに寄り添うことに長けたメンバーを自分の下にリーダーとして据えるのも手です。
実際、あるベンチャー企業経営者は、「自分は人に興味がない。社員の気持ちに無頓着だし、細かなメンタルケアなんてできない。これでは社員はストレスを抱えてしまうだろう」と自覚されていました。そこで、自分が不得意な部分をカバーするため、「人情家」タイプの人事マネジャーを採用した、という事例がありました。
このように役割分担することで、チーム全体の最適化を図ればいいと思います。
「マネジャーの資質とは」については、この連載の第20回でもお伝えしていますので、参考にしてみてください。
「組織マネジメント」以外のキャリアを選ぶ道も
人に興味を持てないタイプのマネジャーが活躍するためのポイントをお伝えしてきましたが、そもそもAさんにとって「マネジャー」であり続けることは幸せなのでしょうか?
「キャリアアップのためにはマネジメント経験を積まなければ」と思っている方は多いようです。30~40代の方は、特にその意識が強い印象を受けます。それも一理あるのですが、最近は状況が変わってきています。
「組織に属してこそ価値を発揮できる仕事」は、今、なくなりつつあります。
「オープンイノベーション」が叫ばれ、これまでは「正社員」のみが担ってきた役割も、契約社員やフリーランサーが業務委託契約で担うケースが増えてきています。
つまり、組織マネジメントを行わないスペシャリストが活躍できるステージが拡大しているということです。今後も、「社員」と「フリーランス」の垣根はどんどん取り払われていくでしょう。
Aさんが、「人に興味を持てない自分」を気に病み、メンバーに後ろめたさを抱き、それがストレスになっているのであれば、いっそマネジャーのポジションから退き、スペシャリストとして生きていく選択肢も検討されてはいかがでしょうか。
すでにマネジメント経験を2年積んでいらっしゃるとのことですので、フリーランスのスペシャリストとして働くにしても、その経験はアドバンテージになるかと思います。
昨今では、フリーランスの人が業務委託の立場でプロジェクトマネジャーを務めるケースも増えていますので、マネジメント経験が活かせるのではないでしょうか。
IT業界にお勤めとのことですから、組織の都合によって、本意ではないプロジェクトを任されることもあるとしたら、なおさらです。
組織を離れてフリーランスの立場になることで、自分が本当にやりたいプロジェクトを手がけたり、「旬」や「最先端」のプロジェクトに携わって自身の市場価値を高めたりするチャンスに出会えるかもしれません。
フリーランススペシャリストとしてのキャリアにも興味があれば、この連載の第17回も参考にしていただければと思います。
※この記事は2020年11月16日初出です。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。