激化する「ショートムービーアプリ」戦国時代。「次のTikTok」になるのはどれだ?
図:複数の資料を元にBusiness Insider Japanが制作
TikTokに代表されるショートムービー市場の競争が過熱している。
縦型でモバイルに特化した設計、短くわかりやすいコンテンツ、動画ファースト……Z世代の心を掴んできたTikTokだが、米中関係の悪化によりアメリカでは運営に不安もくすぶる。
台頭する新興アプリ勢力はコロナ禍の在宅シフトの影響を受けてダウンロード数を伸ばしているが、ここから「第2のTikTok」となるアプリは生まれるのだろうか?
注目ショートムービーアプリ【グローバル版】。
図:複数の資料を元にBusiness Insider Japanが制作
注目ショートムービーアプリ【ローカル版】。
図:複数の資料を元にBusiness Insider Japanが制作
TikTokの企業価値は18兆円以上とも
まず「ショートムービーアプリの王者」TikTokの概要についておさらいしておこう。
TikTokは中国企業「バイトダンス(ByteDance)」が2016年に開始。中国国内版の「抖音(ドウイン)」と海外版の「TikTok(ティックトック)」の2種類のアプリを展開している。
バイトダンスは2017年にアメリカの動画共有アプリ「musical.ly(ミュージカリー)」を約10億ドル(約1000億円)で買収したのを機にアメリカでの事業を拡大した。これまでに全世界の月間アクティブユーザー数(以下、MAU)は6億8900万人、累計20億回ダウンロードされたアプリに急成長した。
ブルームバーグの報道によると、バイトダンスの企業価値は1800億ドル(約18兆9600億円)とも言われ、Z世代を中心に言葉の壁を超えて楽曲やダンスでコミュニケーションを取る文化を確立した。
一方でアメリカでの事業には懸念もある。トランプ政権は8月以降、個人情報が中国政府に悪用される懸念があるとして、中国IT大手のアプリの禁止措置に乗り出した。
11月13日、米商務省は措置に反対する連邦地裁の求めに応じ、TikTokの利用禁止措置の発動を見送ったと報じられた。運営が不透明な中、いくつかのアプリが「第2のTikTok」の座を狙いダウンロード数を伸ばしている。
第2のTikTok、筆頭は中国アプリ「Likee」
図:複数の資料を元にBusiness Insider Japanが制作
「第2のTikTok」としてまず挙げられるのが、2017年にローンチし全世界1億5000万人(MAU)を誇る「Likee(ライキー)」だ。運営は「Bigo Technology Pte. Ltd.」。日本にも上陸しているライブ配信アプリ「BIGO LIVE(ビゴライブ)」を展開する中国企業「JOYY Inc.」の傘下だ。
ショートムービー共有とライブ配信機能がセットになっており、ギフティング(投げ銭)でコンテンツを収益化できるのが特徴だ。
投げ銭アイコンを設置する人気ユーザー。「おすすめ(人気)」の他、ライブ配信専用タブがあり、配信中ライブが「おすすめ」にも掲載される。
出典:Likee
しかし中国企業ゆえ、インドでは7月にTikTok同様、使用禁止となっている。TikTok同様、米中関係によってアプリの運営が左右されるという懸念もある。
中国勢に対抗する、アメリカ発アプリ
中国勢に対抗するアメリカ発のアプリには「Byte(バイト)」「Dubsmash(ダブスマッシュ)」がある。TikTokに比べると規模は小さいが、独自性を打ち出してマネタイズを図っている。
【左:Byte】元Vineスターのザック・キングも復活。人物に対してフォロワー数は表示させないかわり、カテゴリーにフォロー設定を設けた。【右:Dubsmash】フィルター効果のないナチュラルな投稿が支持を集めている。
出典:Byte、Dubsmash
バイトは6秒ムービーで一世を風靡した「Vine(バイン)」の後継アプリだ。Vineの共同創業者であるドン・ホフマン(Dom Hofmann)氏が2020年1月にローンチした。コメディ、ペット、ホラーなどのジャンルの動画投稿が多くみられる。
ダブスマッシュは、2018年末にシカゴのラッパーが歌う「Envy me」を起点としたダンスチャレンジが生まれ、曲がバイラルヒットとなったことから、インディーズのヒップホップカルチャーに上手く入りこんでいる。
またGPSでの追跡を行わないことを明確にしており、若年層も多いユーザーのプライバシーを尊重し、安全性を高めることでTikTokに対抗している。2020年には、Facebookが買収に向けた協議をしたと報じられた。
アーティストの試験場となる「Triller」
いずれのアプリもTikTokと差別化を図ってはいるが、弱点もある。楽曲コンテンツが少ないという問題だ。
そこをカバーしているのが、アメリカで2015年からサービスを開始している「Triller(トリラー)」だ。
全世界でMAUは6500万人で、日本でも朝日放送GHD子会社のDLEが出資したことで話題になった。
ジャスティン・ビーバーもアカウント開設し、新曲をPR。楽曲サブスクリプションサービスへ直接、リンクする仕組み。LiSAなど日本人に馴染みの曲も多い。
出典:Triller
トリラーの特徴を一言で表すと「楽曲を広めたいアーティストのための試験場」。ソニー・ミュージックやワーナーミュージック、ユニバーサルミュージックなど世界最大級の音楽レーベルと契約し、充実した楽曲コンテンツを揃える。
ユーザー発信のオリジナル音源のアップは可能だが、他のユーザーはそのオリジナル音源を使用することはできない。あくまでアーティストが発信した楽曲のみ、ユーザーは動画に使用できる仕組みだ。
さらに、ユーザーが好みの曲に合わせて撮影・投稿した複数の動画の中から、人工知能が最良の部分を自動でつなぎ、まるでプロが制作したかのようなミュージックビデオに編集してくれる。AppleMusicなどと連携し、投稿画面から楽曲サブスクリプションサービスへ、直接リンクされているのも特徴だ。
アメリカではTikTok同様、音楽業界に与える影響も大きく、新曲の発表のために試験的に楽曲をトリラーで公開するアーティストも多い。米ビルボードは7月、トリラーのチャート「TOP TRILLER GLOBAL」を新設した。
インスタ・スナチャ・YouTubeも新規参戦
一方、既存のSNSやプラットフォームから機能を拡張しているケースも目立つ。
Instagramは8月、日本でもショートムービー機能「Reels(リール)」をリリース。TikTokのコピーとも報道されたが、TikTokと比べても楽曲も充実している。
ハッシュタグ検索欄でも検出されるリール動画 ※すべてのハッシュタグで出る仕様ではない。リール投稿の専用タブもあり、オリジナル音源制作者は、元動画としてトップに掲載される。 ※仕様は随時、変更される。
出典:Instagram
リールとTikTokとの違いとしては、リールではインスタの世界観を重んじた、よりおしゃれな投稿が「いいね!」をもらいやすい。
TikTokではアカウントの匿名性が高く、コメントをつけやすいため、ツッコミ要素のある動画ほどコメントが増える傾向がある。そうしてエンゲージメントが高まればおすすめページに表示され、さらに拡散される仕組みだ。
しかし顔出しや本名で登録していることも珍しくないインスタグラムでは、千や万単位のフォロワーを擁するインフルエンサーでもない限り、基本的にフォロー外からのリアクションは薄い。だからこそ、一発のウケ狙いよりも、より洗練された動画がトップに上がりやすい印象だ。
20億人ユーザーを誇るYouTubeも、TikTok同様に動画に楽曲を付けられる「Shorts(ショーツ)」を9月からインドでテストとして開始している。
出典:YouTube
公式サイトによると「数か月以内に、さらに多くの国に拡大したい」としており、日本でも近く実装される可能性がある。
また世界で日間アクティブユーザー数(DAU)2億4900万人の「Snapchat(スナップチャット)」も新しく動画に音楽を付けられる機能をスタートさせる計画を発表した。Snapは、2020年内に、広い地域を対象にリリースする予定としている。
日本ではSHOWROOMがサービス開始
日本では先月、SHOWROOMとKDDIが協力してバーティカルシアターアプリ「smash.」をリリースした。
大手芸能事務所、大手制作会社の協力のもと2021年3月末までに2600本のコンテンツの提供を目指すという。
出典:SHOWROOM株式会社、KDDI株式会社
スマートフォン視聴に特化した5~10分程度の短尺映像コンテンツを、音楽・ドラマ・アニメ・バラエティなどの幅広いジャンルで提供。特徴はユーザー発信ではなくアーティスト発信の動画アプリという点で「縦型コンテンツでありながらも高画質でプロクオリティ」をうたう。
リリース時には、Hey! Say! JUMPのオリジナルMV・作品の独占配信をしたことで話題を集めた。動画を切り取る「PICK(ピック)」機能を活用することで、コンテンツの一部をSNSでシェアすることもできる。
Facebook、Quibi…撤退したサービスも
【左】Lasso、【右】Quibi、いずれも年内でサービスを終える。
出典:Lasso/Facebook、Quibi app store screenshot
一方で撤退したサービスもある。
Facebookは7月、動画共有サービス「Lasso(ラッソ)」のサービス終了を発表した。ラッソはTikTokと似たサービスで、ユーザーが使った動画に音楽を付けて共有でき、一部の市場に試験的に導入されたが、普及せず終了した。
スマートフォン向けに、クオリティの高い10分程度の動画を配信するアメリカの短編動画配信サービス「Quibi(クイビ)」も年内でサービスを終了する。料金は、広告付き月額4.99ドル(約530円)、広告なしは月額7.99ドル(約840円)で展開し、米ウォルト・ディズニーや中国のアリババなど大企業が出資して注目されたが、登録者数が伸び悩み、半年でサービス終了となった。
ユーザー発信のコンテンツ不足が課題
ここまで紹介したショートムービー共有アプリを実際に使用してみると、TikTokに投稿した動画がそのまま転載されているケースを目にすることも多い。
ユーザーは個別にコンテンツをつくるのではなく、一つの動画を複数のアプリに投稿しているのが現状で「このアプリだからこそ体験できる」コンテンツの拡充はどのサービスにとっても不可欠だ。
また大手音楽レーベルの協力が得られないと楽曲ライブラリが満足に使用できない。膨大な楽曲の著作権をいかに迅速にクリアするのかは、各サービス共通の課題だろう。
ショートムービー市場に限らず、SNSや動画配信サービスの台頭でユーザーの視聴時間の奪い合いという競争が全世界で増しているなか、TikTokに匹敵するユーザー数を確立するのは、なかなか難しい状況だ。
「第2のTikTok」の座を射止めるサービスは生まれるのか。TikTokのアメリカでの先行きとともに見守りたい。
(文・西崎圭一、編集・西山里緒)