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- 「弱さ」はあらゆるリーダーにとって大切な要素だ。
- 著名な社会学者でありリーダーシップの専門家でもあるブレネー・ブラウンは、バイデン次期大統領のリーダーシップの特徴は「弱さ」だと語る。
- バイデンはトランプ大統領と違い、自分の弱さや悩みについて隠し立てせず、意見が異なる人とも話し合おうとする、とブラウンは指摘する。
バイデン次期大統領のリーダーとしての大きな強みは、その「弱さ」だ。
社会学者のブレネー・ブラウンは、ピクサーからIBMまでさまざまな企業におけるコンサルティング経験も持つ。
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そう語るのは、TED Talkで再生回数が5000万を超える動画「傷つく心の力」でも知られるブレネー・ブラウンだ。
ブラウンはヒューストン大学のソーシャルワークの研究者、リーダーシップ論の専門家であり、『Daring Greatly(邦訳:本当の勇気は「弱さ」を認めること)』『Rising Strong(邦訳:立て直す力)』などのベストセラー著書でもある。
「今は、難しい会話のしかたを知っているリーダーが求められています」とブラウンは言う。
「不確実な状況に立ち向かっていける人。厳しいことを言うことからも言われることからも逃げない人。効果的かつ生産的に弱さを見せられる人です」
「リーダー」と聞いて、「弱さ」を連想することはまずないだろう。従来、「リーダー」はどちらかというと「はっきりものを言う」とか「競争に勝つ」など、「男らしい」特徴と結び付けられてきたからだ。
「弱さ」のリーダーシップという点では、トランプ大統領とバイデン次期大統領は対照的だ。
有能なリーダーは「弱さ」を見せる
ブラウンはこれまでの20年間、勇気、弱さ、恥、共感に関する研究に取り組んできた。その結果、優秀なリーダーほど弱さを持っていることを突きとめた。グラウンデッド・セオリーと呼ばれる手法を用いて1200件のインタビューを行ったところ、弱さという性質と人間関係に関する定性的なエビデンスを繰り返し得たのだ。
信頼を築き、チームが成功するうえでは、弱さのリーダーシップが非常に重要だ。2万7000人超の従業員を対象に行われた2017年の研究では、リーダーが会社の課題についてオープンに話す会社では、社員の63%が自分の職場をいい職場だと他人に勧めると回答した。一方、リーダーが課題を社員と共有しない会社では、自分の会社を他人に勧めると回答したのはたった6%だった。
バイデンもご多分に漏れず、吃音症であったことや息子を亡くしたことなど、これまでの人生の苦悩について公の場で語ったことがある。
10月21日、バイデンはブラウンのポッドキャスト「Unlocking Us(自分を解放するには)」に出演し、共感を示し弱さをさらけ出せるリーダーは信頼できると語っている。そういうリーダーには「直感から生まれたアイデアを心に刻み、それを言語化する知性がある」からだと。
弱さを受け入れ、周囲の意見に耳を傾ける——これは大統領であれ経営者であれ、権力を持つ者にとっては極めて重要な特徴だとブラウンは言う。
2通りのリーダーシップ
弱さ、勇気、恥、共感に関する研究で20年間最先端を走ってきたブラウンは、研究者として初めて、ネットフリックスで「ブレネー・ブラウン:勇気を出して」という冠番組を持った。また、新しく始まったポッドキャスト「Dare to Lead」では、仕事におけるリーダーシップや成功について分析している。
ブラウンはこの研究を通して、リーダーには2種類あることが分かったという。ひとつは「支配する力」、つまり恐怖と脅迫によって上から押さえつけるリーダーシップ。そしてもうひとつは「成し遂げる力、連帯する力、自分を信じる力」。こちらは他者と協力し反対意見にも耳を傾ける姿勢に特徴づけられるリーダーシップだ。
「成し遂げる力、連帯する力、自分を信じる力」の模範となるリーダーは、自分より知識が豊富な人を周辺に置き、その知見を頼る。自分は正解を知っているという態度はとらず、いい質問を投げかける。一方、「支配する力」で支配するリーダーは、自分が正しいと証明することばかり考え、反対意見に耳を傾けない。
この両者の違いは、「成長マインドセット」と「硬直マインドセット」とも関連している。「支配する力」タイプのリーダーは硬直マインドセットを持っていることが多く、「葛藤するのはダメなリーダーの証拠」と考える。
一方、「成し遂げる力、連帯する力、自分を信じる力」タイプのリーダーは、「自分のスキルはもっと伸びるはずだ」と考え、壁にぶつかってもそれを成長の機会にする。これは「成長マインドセット」とも呼ばれ、マイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラが社内に学びと協力のカルチャーを促すために使っていた考え方だ。
トランプは「支配する力」型のリーダー
ドナルド・トランプ大統領(右)とマイク・ペンス副大統領。
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ブラウンによれば、トランプ大統領は「支配する力」型のリーダーだ。
トランプは、間違いや発言の誤りを認めないことでよく知られており、大統領任期の4年間で何度もアドバイザーと衝突してきた。最近では、コロナウイルスへの対応についてアンソニー・ファウチ博士の助言を受け入れず、顧問を務める専門家たちを「バカども」呼ばわりしていたとニューヨークタイムズが報じている。
「『支配する力』型の権力を保つ手段は恐怖と残酷さ。この2つを私たちはトランプ政権でたくさん見てきました」とブラウンは言う。
ただしこれはトランプに限ったことではない。同様の振る舞いは政界のどこにでも見られるとブラウンは話す。
「『支配する力』型のリーダーシップは共和党にも民主党にも見られます。権力や影響力を持っている人は誰でも、常に自分の力の使い方に批判的な目を持ち、自問しなければならないのです」
カマラ・ハリス(左)とジョー・バイデン。
Andrew Harnik/Pool via REUTERS
バイデンは「成し遂げる力、連帯する力、自分を信じる力」型のリーダー
対照的に、バイデンは「成し遂げる力、連帯する力、自分を信じる力」の模範的なリーダーだとブラウンは言う。
バイデンは弱さを見せることにも物怖じしない。1972年に交通事故で妻子を亡くしたことについても悲しみを隠さず、当時は自殺も考えたことすら打ち明けている。また、2015年に46歳だった息子のボーを脳腫瘍で亡くしたことについても、公の場で話している。
家族を亡くした痛みだけでなく、長く続いた吃音症との闘いについても公表しており、この経験を生かして同じ悩みを持つ若者たちへのアドバイスをしている。
ブラウンはバイデンの政策を常に支持をしてきたわけではないとしつつも、こう話す。「バイデンを見ていると、私自身の一筋縄ではいかない境遇と重なります。彼に全幅の信頼を寄せているわけではないけれど、(トランプより)バイデンの方が、私の生き方に見合った政策が期待できそう」
バイデンは、自分が間違っていても動揺しない。新しいことを知りたいと思っており、自分はすべてを知っているわけではないという前提で会話を促す。
以前、次期副大統領のカマラ・ハリスは、学校に通う生徒の人種構成を多様化するために学区外から生徒をバス通学させる政策にバイデンが反対していたことを批判した。
バイデンはその後、反対したことは間違いだったと認め、人種差別を容認する上院議員に加担したことを謝罪した。
ブラウンは、バイデンの議論好きにも注目する。副大統領候補にハリスを選んだことは、バイデンが自分とは異なる意見を持つ人を周りに置く人間であることを示していると言う。2人は過去に、医療制度に対する考え方をめぐって意見が衝突したことがある。
「予備選でカマラ(・ハリス)ほどバイデンを痛烈に批判した人はいませんでした。でも自分に厳しいことを言ったカマラをバイデンが選んだ。そこにはまったく驚いていません」とブラウンは言う。
自分のリーダータイプを知るには、まず自分を知ること
ブラウンは言う。
どんなリーダーでもバイデンから見習うべきところがあり、日常の中で弱さをもっとさらけ出せるようになる。
リーダーは職場での振る舞いのどんなところに「支配する力」と「成し遂げる力」が表れているかを考えてみてほしい。例えば、会議で誰かを侮辱すれば、それは「支配する力」を使っていることになる。
人々を分断して二極化させるリーダーもいるが、それを回避する方法もある。その第一歩が自己認識だ。
「私が知るかぎり、真に変革を起こせるリーダーは例外なく、自分のことをよく分かっている人物です。自己を深く認識しているリーダーは、恐怖という手段に訴えることなく、難しい局面であっても心を開いた対話で解決しようとするものです」
(翻訳・田原真梨子、編集・常盤亜由子)