「利用医療機関が4倍に」メドレー社決算で顕在化した“国内医療のDX”の現状

アプリ

メドレーのオンライン診療・服薬指導アプリCLINICS。患者はこれ一つで、オンライン診療はもちろん、オンライン服薬指導も受けることができる。

撮影:三ツ村崇志

医療分野に特化した人材紹介サービスや、オンライン診療アプリを提供するメドレーのビジネスが、時代の追い風を受けて好調に伸びている。契約医療機関数は、1Qから2Qの間に2倍に増えたという。

メドレーが11月13日に発表した2020年12月期第3四半期決算は、売上高は前年同期比で42%増の16億6100万円。売上総利益は46%増の11億2500万円だった(決算説明資料)。

コロナ禍でオンラインサービスの利用医療機関が「4倍」

売り上げ

人材プラットフォーム部門は、例年第2Qに大きな売り上げのピークがある。

出典:メドレー2020年12月期 第3四半期決算説明資料

新型コロナウイルスへの感染リスクから、2020年春から多くの医療機関で「受診控え」がおき、患者数が減少。感染対策の観点から、患者と医療従事者が直接対面せず診療できるオンライン診療や、薬局で長い待ち時間を過ごさずに薬を受け取れるオンライン服薬指導の導入が期待されていた。

こうした背景から、2020年の1Q以降、メドレーは病院や診療所を対象にしたクラウド診療支援システム「CLINICS」を含む医療プラットフォーム部門が急成長した。

1Qから2Qの間には、契約医療機関数が1271機関から2173機関とほぼ倍増となった。

さらに3Qには、9月に改正薬機法が施行されたタイミングで、オンライン服薬指導などを実現する調剤薬局向けシステム「Pharms」を提供をスタート。

クラフト、クオールホールディングスといった大手調剤薬局チェーンに全店導入されるなどした結果、Pharmsの利用医療機関も既に2000以上にまで成長している。

利用医療機関

医療プラットフォーム部門の内訳。オンラインサービスを利用する医療機関の数は、緊急事態宣言の前後で2倍。3Qにはオンライン調剤サービスの開始によって、さらに薬局の店舗への契約が増えた。

出典:メドレー2020年12月期 第3四半期決算説明資料

この結果、3Qまでにはメドレーのサービスを導入した医療機関数(診療所、薬局含む)の合計は前年同期比の約4倍となる4396まで増加した。

ただし、契約医療機関の数が約4倍に増加する一方、医療プラットフォーム部門の売上高は前年同期比で41%増にとどまっている。契約機関数に比例して、売り上げが増加したわけではない。

この理由は「CLINICSとPharmsの契約母体となる法人の性質の違い」(メドレーの広報)という点にあるようだ。

クラウド診療支援システム「CLINICS」の主な契約先は、個人で経営している診療所が多い。一方、調剤薬局窓口支援システム「Pharms」では、複数チェーン店を抱える法人に対して契約を行うケースが多い

3Qには、Pharmsを導入した法人が抱える薬局チェーンの店舗数は急増したが、その分ボリュームディスカウントなどの施策も講じている。そのため、契約医療機関数の増加ほど売り上げは伸びなかったようだ。

主力事業は「逆風」も、売上43%増

人材プラットフォーム部門

人材プラットフォーム部門のサービスへの登録者数(左)とスカウト通数(右)。コロナの流行は、人材プラットフォーム部門の売り上げにとって逆風となっている。

出典:メドレー2020年12月期 第3四半期決算説明資料

ただし、主力事業である人材プラットフォーム部門はコロナ禍が逆風ともなっている。

それでも、緊急事態宣言後には、面接や入社遅延などが解消されて、3Qの部門の売上高は復調。前年同期比の43%増を達成(冒頭のグラフ参照)しており、通期業績見通しは据え置きとなった。

医療DXの流れ加速も、全体の中ではまだごく一部

医療機関

大手調剤薬局チェーンでは、オンライン服薬指導サービスを全店に導入している法人もある。

出典:メドレー2020年12月期 第3四半期決算説明資料

病院、薬局を合わせて4000を超える医療機関にオンラインサービスが導入されているとはいえ、メドレーによると、サービスの対象となる全国の診療所や病院の数は約11万薬局の数は約6万も存在する。

コロナ禍でのオンラインサービス急伸は、これまでなかなかオンラインサービスの導入が進まなかった医療業界の状況を考えると、大きな飛躍だといえる。

一方で、医療業界全体を見れば、オンライン化の流れはまだごく一部にしか広がっていないのも事実だろう。

そうした意味で、コロナ禍において時限的・特例的に認めていたオンライン診療の初診への適用を恒久化しようという菅政権の方針は、業界にとって追い風と言えるかもしれない。

ただし、日本医師会を中心に、オンライン診療による初診対応はあくまでも新型コロナウイルスに感染するリスクを下げるための「限定的な対応」にすべきだという見方も、いまだ根強い。

今後、オンライン診療をはじめとした医療分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)の波がどこまで続くのか、コロナ禍におけるサービス利用機関数の増加と合わせて、規制緩和の着地点についても注視していく必要がありそうだ。

文・三ツ村崇志

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