Kena Betancur/Getty Images
- 2021年の市場見通しは、この数週間で変わってきた。アメリカの選挙もほぼ決着がつき、ファイザーが開発中の新型コロナウイルスのワクチンに予防効果があることが確認されたためだ。
- ゴールドマン・サックスは最近発表したレポートに、来年の市場を牽引するテーマと、投資家が検討すると良い投資先をまとめている。本稿ではその内容を紹介しよう。
アメリカの投資家にとって2020年は記憶に残る年だった。
まず年初に主要株価指数が最高値をつけた。
それから新型コロナウイルスが世界中に広がり、史上最速で下げ相場に転じた。
次に、連邦準備制度が異例の量的緩和を行い、大規模な財政刺激策を講じた。するとステイホーム経済の恩恵を受けた大型IT株に資金が流入し、市場は急速にV字回復を遂げた。
9月には新型コロナの第2波が不安視されるなか、選挙の先行きが不透明だったことから、調整局面に入った。
そしてついに投票日(結果が出るまで1週間もかかったが)を迎えた。税制や規制はどうなるのか、財政刺激策の第2弾はと注目が集まるなか、ねじれ議会の構図のままバイデンが当選という結果が出て、株価は急騰した。
さらに11月9日には、ファイザーが開発中の新型コロナウイルスのワクチンに有効性が確認されたという驚きのニュースが報じられた。これにより、S&P500とダウ平均は史上最高値に迫るまでに上昇した。
さて、2021年の相場を展望する時期になった。
投資家は強気だ。例えばJPモルガンは最近の市場を「まるで天国」と表現しており、S&P500が来年早いうちに4000に達すると見ている。
だが、この「天国状態」にうまく乗るには、どのようなポートフォリオを組めばいいのだろうか?
以降では、ゴールドマン・サックスが11月10日付けのレポートで挙げている「2021年の10大テーマ」を紹介する。投資の参考にされたい。
2021年の市場を牽引する注目の10大テーマ
ゴールドマン・サックスが挙げた注目の10大テーマは次の通り。
- ワクチン関連が回復を主導し、シクリカルアセット(景気に敏感に反応するアセット株)が上昇する。
- 活気ある2021年への道のりは平坦ではない。都市封鎖や財政刺激策の遅れが市場の重荷となる可能性がある。
- 米国国債の利回り曲線は傾斜が急になる。
- ヨーロッパ系のアセットは、2020年に実施された政策のおかげで比較的投資妙味があるだろう。しかし最近の都市封鎖により直近ではパッとしないと思われる。
- 中国の成長が引き続き成長の牽引役となる。
- コモディティが新たに力強い上昇サイクルを描くだろう。
- 新興市場がこれまでになく良い成績を収めるだろう。
- シクリカル銘柄がディフェンシブ銘柄(編集部注:景気動向に左右されにくい銘柄のこと。食品、電力、鉄道などが代表的)より上げる。日本、中国、韓国は主要市場の中でも好調に推移するだろう。
- 債券はあまり分散効果を持たなくなる。
- 新型コロナは引き続き「最大のリスク」。
有望な投資先は?
ゴールドマン・サックスの予測ではまず、直近でリスクはあるものの、アメリカ経済は回復すると見る。ファイザーのワクチン開発でその気運はさらに高まっている。そのため、コモディティを含む循環型のアセットが上げている。
「世界の株式指数は今年順調に上昇傾向にあります。でも確実に周期的な回復を遂げている、とまでは言えないと思います」とゴールドマン・サックスのシニアエコノミスト、ザック・パンドル(Zach Pandl)は言い、実際の経済回復は予防効果のあるワクチンが実用化されるかによる、とする。
「例えば、S&P500は今年上昇しましたが、上げ幅はごくわずかでした。5大IT銘柄であるGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフトのこと。S&P500の時価総額の約20%を占める)はおよそ40%上げましたが、それ以外の銘柄は今年下げましたから」とパンドルは続けた。
(出所)ゴールドマン・サックス
ゴールドマン・サックスによると、アメリカ債券市場では長期債券と短期債券の金利差が大きくなり、利回り曲線の傾斜が急になる。言い換えれば、短期の米国国債に比べ長期の米国国債の需要が落ち込むので、ドル安になる。
このため、より長期の米国国債がヘッジの役割を果たす可能性があるという。
海外市場の見通しはさまざまだ。
ヨーロッパでは新型コロナ対策のロックダウンが今後数カ月影を落とすだろう、とゴールドマン・サックスは見ている。
しかしいずれ成長軌道に戻るとすれば、30年物のユーロ圏のインフレ・スワップを売ったり、米ドルを売っていくつかのヨーロッパ通貨(ポーランドズロチやノルウェークローネ等)を買ったりすることで、良いリターンを得られる可能性がある。
中国は、新型コロナの状況は比較的落ち着いている。ゴールドマン・サックスは中国の経済成長について強気のスタンスであることから、中国アセットの評価にも連鎖反応があるだろう。先のパンドルは言う。
「2021年は、与信の伸びや政策支援がある程度先細るとしても、当行の中国チームは実質7.5%、名目10%超の成長を見込んでいます。最近反発しているとはいえ、市場の評価が十分追いついているとは思えませんから、中国は手堅く伸びると思いますよ」
パンドルは、中国元、韓国ウォン、台湾ドル、日本円などの通貨が強くなると見ている。
さらに、ゴールドマン・サックスはエマージング市場のシクリカル銘柄およびコモディティ関連アセットが好調に推移すると予想している。例えばラテンアメリカ株や、新興市場の銀行株などだ。
シクリカル銘柄が伸びると思われるのは、韓国、日本、中国の北アジア地域も同様だ。北アジアではバリュー株がグロース株以上に上昇すると予想している。
ただしゴールドマン・サックスは、今後数カ月ワクチンの普及を待つ間、世界の市場は下振れリスクに直面するだろうと強調してもいる。
新型コロナの感染者数が増え続けるなか、各国政府は再びロックダウンを行う必要に迫られ、財政支援の必要性も高まってくるからだ。
「引き続き新型コロナがアセット市場最大のリスクであり、当行本店の予想もそれによって変わってきます。新型コロナの感染者数がヨーロッパやアメリカで予想を上回り、長期にわたって経済活動に支障をきたす見通しとなれば、当然この冬の市場を押し下げるおそれが出てきます」とパンドルは言う。
「ここまで述べたように、主だったワクチン候補薬の第Ⅲ相試験の結果が期待外れだった場合(または遅延した場合)、市場としてはそのリスクを見過ごすわけにはいかないでしょう」
(翻訳・カイザー真紀子、編集・常盤亜由子)