REUTERS/Arnd Wiegmann
- 大手コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーは、社員の心のケアに取り組んでいる。
- 同社の上層部は毎週会議を行い、社員の健康について話し合っている。
- 1000ものチームを抱えるマッキンゼー北米では、なぜチームごとにワーク・ライフ・バランスに関する基準を設けるようになったのか? 従業員が心の病について率直に話せるようにするための同社の取り組みとは? マッキンゼーの北米統括共同経営者が教えてくれた。
心の病が恥ずべきものだと思われない世の中に——それが、マッキンゼー・アンド・カンパニーの北米事業で統括共同経営者として働くリズ・ヒルトン・シーゲルの願いだ。
マッキンゼー・アンド・カンパニーの共同経営者を務めるリズ・ヒルトン・シーゲル。
本人提供
マッキンゼーで働いて28年になるシーゲルは、同僚たちのキャリアがどれほど心の病に左右されるかを目の当たりにしてきた。部下の様子がいつもと違うことに気づいていながら、仕事を与えた時のことを今でも覚えている。
「彼の様子が変わった理由をはっきりと特定することはできませんでした」とシーゲルはBusiness Insiderのインタビューに答えている。
部下が与えられた仕事を達成しようとすらしなかったことに、シーゲルは驚かされた。彼はその後、双極性障害(躁うつ病)であることを明かした上で辞職を願い出た。
コロナウイルスはほぼすべての人の精神状態に影響を与えており、今やサラリーマンの多くが孤独、不安、悲しみを抱えている。
メットライフが7月にアメリカの会社員2000人を対象に行ったアンケートでは、バーンアウト(極度の疲労状態)に陥っていると答えたのは30%だったが、一方で66%が「消耗していると感じる」または「身体的・心理的に疲れ切っている」など、バーンアウトの兆候に心当たりがある。つまり、自分がバーンアウトの状態にあると認識していない可能性が示されたのだ。
経営コンサルタントたちは、特に影響を受けている。コンサルタントは長時間労働をしがちだが、コロナによって、これまでに経験したことのない形で仕事と家庭の境界線があいまいになってしまった。
そこでBusiness Insiderは、マッキンゼーでは今、積み重なるプレッシャーや不安をどうやって和らげているのかをシーゲルに聞いてみた。
公私の境界線を引く
マッキンゼーでは、コンサルタントたちにセルフケアの時間を設定するよう勧めている。
例えば、日々のスケジュールに体を動かす時間を組み込むといったことだ。また、1日の予定の中に家族との時間を設けることも決められている。
社員は、このような公私の切り分けができているかどうか、定期的に上司と話をするという。
「こうした取り決めをして、それを守っているかを確認します。そうすることで、もし体調を崩したり決めたスケジュールが自分に合わなかったりしたら、気兼ねなく上司に相談してもいいんだ、と思える基盤ができます」とシーゲルは述べている。
絆を深める機会をつくる
上司たちはコロナ禍以降、チームの結束を高める活動をより意識的に行っている。例えばあるチームは、一緒に食事に行く代わりにZoomで料理クラスに参加している。シーゲルはマッキンゼーの幹部たちに、何か心が明るくなるようなものをチームと共有するよう依頼したという。
Ripio/Shutterstock
「飼い犬の写真や、娘と一緒に撮った写真、パートナーとハイキングに行った時の写真などが出てきました。社員が抱えるストレスを認識して、日常生活の中にちょっとした遊び心を取り入れる必要があるのです」
さまざまな業界のトップが、同様の試みに知恵を絞っている。一例を挙げると、ビデオテクノロジー企業のワン・デイは毎月4人の社員に、好きな州のAirbnbの宿でテレワークする機会を与えている。
定期的にアンケートをとる
マッキンゼーのグローバル統括共同経営者のケビン・スネーダーは、社員の意欲を把握するために幹部たちと毎週Zoomで会議をしている。
「今や廊下でばったり会うこともなければ、休憩室でコーヒーを飲むこともないわけです。顔を合わせる機会は、フォーマルな形のものになっています。幹部たちは、社員が互いにつながり積極的に連絡を取り合えるような場をどうやったらつくれるか、頭をひねっています」と語るスネーダー。
会議の結果、マッキンゼーでは毎週水曜日に社員にアンケートをとるようになった。このアンケートで、今の心境や、他の人と一対一でじっくり話す時間はどのくらいとれているか、共同経営者とは何回くらいやりとりしたかを尋ねている。
KPMG、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)、ボストン コンサルティング グループ(BCG)といったコンサルティング会社も、似たような取り組みを行っている。
PwCのアメリカ副会長兼チーフクライアントオフィサーのアミティ・マイリーザーは、アンケートによって、上層部が自社の企業文化のどこを伸ばし、どこを変えるべきなのかを知ることができる、と過去に述べていた。
「社員に意見を求め、それを意識的にフォローアップする当社の企業文化は、アンケートがきっかけで生まれたものです」
新しい福利厚生
マッキンゼーは最近、子育て中の社員を対象とした緊急保育手当やボランティアタイムを導入した。また、柔軟な勤務時間を選べる機会を増やしている。
同社では、「Mind Matters(心も大事)」という社員グループを立ち上げた。このグループは、メンタルヘルスに関する新しい情報を随時追加しているほか、管理職を対象とした社員の健康に関する必須研修を組んだり、瞑想アプリ「Headspace」とサブスクリプションパートナーシップを結んだりしている。
コロナ禍では、このようなセラピーや保育サービスを無料または割引価格で受けられる福利厚生が人気だ。PwCは今年、社員に対するヘルスコーチングセッションを福利厚生に加えている。
心の病についてオープンに語る
コロナの影響は人によって違うことを会社側も理解している、とシーゲルは話す。一人暮らしをする20代前半の若者なら孤独を感じているかもしれない。子を持つ親の場合は、子どもの遠隔授業と自分の仕事を両立させようと頑張っていることだろう。また、コロナ以前から心の病を抱えている人もいる。
社員それぞれの状況がどうであれ重要なことは、メンタルヘルスについてオープンに話すことだ。マッキンゼーでは、不安症やうつ病を抱える社員や元社員が話をするフォーラムを開催している。
「そういう場をつくることで、話しやすくなると思うんです」と語るシーゲルは、最終的にはコンサルタントたちが、もう少し自分をいたわることを学んでほしいと思っている。
「この大変な経験を通して、社員たちには仕事と家庭との間に境界線を引くこと、そして本当につらい状況にあってもそれに耐えられる強さを学んでほしい。それが私の願いです」
(翻訳・玉城弘子、編集・常盤亜由子)