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「ネットフリックス社員は“家族”ではなく“プロチーム”なのだ」ヘイスティングスCEOが語る「ノールール」の極意

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ネットフリックス最高経営責任者(CEO)のリード・ヘイスティングス氏。

オンラインラウンドテーブルの模様を筆者キャプチャー

ネットフリックス(Netflix)の創業者で会長兼最高経営責任者(CEO)のリード・ヘイスティングス氏が、日本の記者団に対し、オンラインでのラウンドテーブル形式によるインタビューに応じた。

ヘイスティングスCEOは先日、エリン・メイヤー氏との共著『NO RULES(ノー・ルールズ)』を発表し、日本語版も発売されたばかり。11月10日には「日経フォーラム 世界経営者会議」にもオンライン登壇している。

今回のインタビューのテーマの主軸は「経営」。

コロナ禍にあって、企業経営における「社員管理」「文化の衝突」が大きな課題となっている。ネットフリックスはそうした状況のもとで、社員たちの判断に可能な限りまかせ、文字通り「ノールール(NO RULES)」を貫いている。

ネットフリックスを世界一の配信企業に導いたものはなんだったのか、そして、そこから他社が学べることは何なのだろうか? ヘイスティングス氏の言葉から紐解いてみよう。

「家族」ではなく「プロチーム」

米カリフォルニア州ロスガトスのネットフリックス本社

カリフォルニア州ロスガトスのネットフリックス本社。

撮影:西田宗千佳

ネットフリックスには多数の人材が世界中から集まっていて、それが同社の強みと言われる。「報酬も業界随一」と噂されているが、一方、報酬だけなら他のトップ企業も十分に支払っている。それでもネットフリックスに才能が集まる理由は何なのだろう?

ヘイスティングスCEOは、それにたった一言で答えた。

「本当に才能のある人たちは自由を求めています。ですから、私たちは自由度の高い環境を作るようにしているんです」

ネットフリックスにはほとんどルールがない。就業時間もなく、休暇申請も必要ない。必要な機材の購入にも、必要な経費の申請も、一定額までは存在しない。それどころか、「上司が部下に命令を与える」ことすらない。

「適切な人材がいれば、別に指揮命令系統は必要ないんです。

工場なら、上司が指令して、ミスを起こさないようにそれに従う形でうまくいくかもしれません。でも、新しいものをどんどん出していかなければならない組織では、命令ではなく“刺激”を与えるほうがずっとうまくいきます

トップが指揮してやらせるのではなく、働いている人たち自身で方向性や施策を決めさせるのが、ネットフリックスの「ノールール」という企業文化なのだ。

しかし、それで本当にうまくいくのか、にわかには信じられない、という人も多いだろう。

書籍『NO RULES』でも、多くの紙幅は「いかに機能させるか」「いかに課題を評価させるか」という部分に割かれていた。ポイントはやはり「才能がある人々が集まれば」という1点に尽きる。

「ほとんどの人は、会社や組織は家族のようなものであるべきだという考えを持っています。

そしてもう1つのモデルは、野球やサッカーなどプロスポーツチームのようなものです。誰もが高いパフォーマンスを発揮するためにプレーしていることを理解し、コーチはよりひんぱんに勝てるように変更を加えようとします。それがチャンピオンチームを作る唯一の方法です。

ネットフリックスは家族というよりもチーム。どちらのアプローチも良いことですが、家族のような会社でありたいのであれば、他にもいろいろあります。

私たちは“卓越していること”を重視しています。結果として、社員は非常に才能のある人ばかりなので、ネットフリックスにいる間にも、多くのことを学ぶことができるのです」

創造性が重要な企業では「失敗はプロセスの一部」

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撮影:伊藤有

もちろん、すべての組織にとって「ノールール」がベストなわけではない。

「安全性が第一であるという企業においては、(ノールールは)追求すべきではない。例えば、100万単位のワクチンを作るということであれば、すべてが完璧でなくてはならない。工場など“安全第一”の事業・業態では、イノベーションよりも精度のほうが優先されます。

一方、革新的なことをする場合には、さまざまなことが起きます。エラーもミスも起きます。それを許容した上で進むアプローチが重要です。

イノベーションを高めようとしているとき、創造性を高めようとしているとき、エラーはプロセスの正常な一部として受け入れられるべきものなのです」

プロチームのようである、というイメージからは「ミスしてはいけない」という印象をもつ。けれども、実際には逆だ。

ヘイスティングス氏は自著の中で、各人に自由な裁量が与えられる「ノールール」文化の中では、ミスも非効率も許容しつつ、より高い創造性を重視する……という趣旨の主張をしている。

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世界が注目する「コンテンツの王者」の一人となったヘイスティングス氏。ネットフリックス の株価はコロナ禍の3月以降、一時45%も上がり、現時点の時価総額は20兆円を超える。

Ernesto S. Ruscio/Getty Images / Netflix

一方で、優れた人を集めてチームを作るということは時折、「方向性に合わない」「戦力として合致しない」人材が出てくるということでもある。

「メンバーの中では、ときには交代させられることもあります。これは、スポーツの文脈では理解されることでしょう。

私の中では大変緊密なチーム編成ができています。自らの力を発揮できるよう支援をし、カウンセリングもしますが、弊社と合致しない場合には最終的には数カ月分の報酬を伴った退職パッケージを提供し、他の人を採用することもあります」

こうした考え方は、終身雇用型とはまったく異なるやり方だ。

個人に最大限の自由と裁量、そして十分な報酬を与え、チームとしての最高のパフォーマンスを求める。そこに合わない場合には、また違うチームへと人々は動いていくことになる。

ちなみに、ネットフリックスの離職率は「年8〜10%」(ヘイスティングスCEO)で、同業他社とあまり変わらない水準だという。

文化の違いを乗り越えるための「チーム」発想

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ネットフリックスの企業文化の発信地でもある本社の一角(2018年撮影)。

Shutterstock / Benny Marty

こうした働き方の場合、文化や認識による衝突も起きやすい。

190カ国以上でサービスをするネットフリックスは、そうした衝突の可能性に常に晒されている。その中で「ノールール」を貫くには、お互いの理解が必須になる。

「もちろん、日本の従業員の方々がどういう文化的背景にあるかということを理解しなければなりません。たくさんのことを彼らから学びましたよ。

例えば、日本の従業員は“行間を読む”と言うか、はっきりと言わないけれどもちゃんと理解している。ちょっと心情的な面に依存してはいますが。それに比べると、アメリカ人はちょっと子どもっぽい(苦笑)。行間を読むということはしない。

このギャップを埋めるための何かブリッジ、橋渡しが必要です。“スポーツチームのように”と考えたのは、共通理解のため、という部分があります。日本人の従業員は、自分たちが何のために働いているのかをよく理解しています」

国の違いだけでなく、土地柄やジャンルによる違いもある。

ネットフリックス本社は、米カリフォルニア州ロスガトスにあり、「シリコンバレーで最も才能が集まる企業」の1つとも言われる。一方、ロサンゼルスには映像制作の拠点がある。こちらはまさに「映画の都」のど真ん中だ。働き方も文化も異なっている。そこで齟齬はないのだろうか?

「ロサンゼルスとシリコンバレーの違いはあります。でも、両者とも非常にクリエイティブ。新しい番組を作ることと、新しいソフトウエアを作ることには、多くの共通点もあります。

変な言い方ですが、結局彼らはみんな“カリフォルニア人”なんですよ。日本人の社員には、(カリフォルニア州の)北も南も違いはないって言われてるよ、って教えてあげてるんですが(笑)。

私たちが団結している理由は、契約してくれている方々を喜ばせようという点にあります。そうすることで人が集まるのです」

だからこそ、こうしたチームを率いるには目標が重要、とも言う。

「重要なのは、短期的に正しいこと、長期的に重要なこと、この2つを見せるということだと思います。我々はDVDレンタルからスタートしましたが、そこに限界があることは見えていた。そして、映像配信に移行したら、次にはビジネス規模を広げることが重要だとわかっていました。結果的に今の成功があります」

そうした発想は、コロナ禍でも何ひとつ変わらない。

「私たちは自宅で仕事をしていますが、多くの場合、まだ健康です。うまくいけば、次の12カ月間で大きな変化が起きることでしょう。いつものように、率直な気持ちで、目標を定めつつ、楽観的な戦いをすることが、この困難な時代を乗り切るための助けになると思います」

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(文・西田宗千佳)

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