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1日1食菓子パンで生活、コロナ禍の技能実習生の叫び「借金のまま帰れない」

ポスター

ベトナム北東部バクザン省の農村へ続く道に貼られた技能実習生募集のポスター。日本への出稼ぎを希望する若者は後を絶たない。

撮影:澤田晃宏

新型コロナの感染拡大が続く中、受け入れ先の企業から退職を迫られるなど、外国人技能実習生たちが行き場を失い、追い詰められている。

匿名を条件に、コロナ禍で解雇されたベトナム人技能実習生が取材に応じた。仮に名前をアインさん(24歳)とする。

「日本に行ったら成長できるし、お金も稼げる。自分は3年間働いて、500万円を持って帰った」

送り出し機関に勤める従兄弟に「日本は稼げる」と勧められ、技能実習生として日本に行くことを決意。

技能実習制度は、開発途上国に日本で学んだ技能や知識を持ち帰り、それを母国で生かしてもらおうという国際貢献を目的とした制度で、82職種150作業(2020年10月21日時点)が対象になっている。アインさんは機械加工職種の普通旋盤作業の技能実習生として来日した。

技能実習生度

2019年4月に単純労働分野で働く外国人の在留資格「特定技能」が新設されたが、その後も対象職種は拡大している。

出所:外国人技能実習機構のホームページより

日本での生活や日本語を学ぶ1カ月間の入国後講習を経て、2月から埼玉県内の工場で働き始めた。そこでは、社長を含め日本人が3人と、30人程度のベトナム人が働いていた。

外国人労働者は皆、ベトナム人だった。

技能実習生はアインさんを含め2人で、ほかのベトナム人労働者の在留資格は、大卒程度の学歴や一定の実務経験がある者を対象とした在留資格「技術・人文知識・国際業務」(通称、ギジンコク)だった。

仕事は皆同じで、何も印刷されていないボールペンを機械に入れ、機械から出てきたボールペンにブランド名などがきちんと記載されているのかを確認し、それを箱に詰める作業。朝の8時半から、昼休憩と15時からの15分の休憩をはさみ、21時まで続いた。

長時間労働は苦ではなかった。アインさんは言う。

「長時間労働は残業代も稼げるので、むしろ良かったです。ただ、指導役のベトナム人のいじめに耐えられなかった」

コロナで仕事が減り、解雇

ノルマは1日1万8000本。作業が遅いと、指導役のギジンコクで働くベトナム人の先輩から叱責され、殴られることもあった。

ある日、機械が故障し、その確認を先輩のベトナム人に指示された。機械に手を入れた瞬間、先輩ベトナム人が機械を起動した。指が巻き込まれ、8針縫う怪我を負った。

病院に同行した日本人の社長はアインさんにこう話したという。

「なぜこんなことになったんだ。手間も(労災の)保険代もかかる」

怪我

怪我をしたときの写真。

提供:アインさん

働き始めた当初は残業も多かったが、コロナの影響でボールペンの需要も落ち、仕事が激減。

4月になると昼の12時で作業は終わった。職場の雰囲気もギスギスしていた。

アインさんは「監理団体」に相談した。監理団体とは、技能実習生を企業に紹介し、さらに技能実習の受け入れ企業での技能実習が計画通りに遂行されているかなどを確認する、技能実習の監督役の組織だ。

技能実習生は皆、この監理団体を通じて企業での技能実習にあたり、監理団体には技能実習生を保護する責任がある。

監理団体については、過去に筆者がBusiness Insider Japanに書いた記事を参照されたい。

アインさんの求めに、監理団体のベトナム人通訳が会社を訪れた。監理団体は本来、1カ月に1回以上の頻度(技能実習1年目)で企業を訪問し、実習が計画通り進められているかを確認したり、実習生の相談を受けたりしなければならない。

しかし、監理団体のスタッフが会社に訪れたのは初めてのことだった。

アインさんは言う。

「いじめの事実は確認してもらいましたが、先輩社員と仲良くできないなら、ほかで働いたほうがいいと言われました。ただ、ほかに仕事が見つからない場合、帰国してもらいますと」

アインさんはコロナ禍の今年4月、受け入れ企業を解雇された。人間関係だけではなく、仕事が減っていることも理由の一つだったという。

母国の送り出し機関に失踪を勧められる

新型コロナ感染拡大の影響で経済が冷え切るなか、新しい仕事は見つからない。6月中旬まで元の受け入れ企業の寮で過ごしたが、1週間ほど東京で働く同じベトナム人の友人に遊びに行った。すると、監理団体から連絡があった。

「あなたは失踪した。帰国してください」

失踪ではなく、遊びに行っただけだとアインさんが説明をすると、今度は監理団体が監理する寮に移り住むように指示された。

しかし、そこも9月に新しく技能実習生が入るという理由で、東京・板橋区にあるホテルに移動するように指示を受けた。

アメ横

いつもは人で賑わう今年4月の上野・アメ横の様子。コロナ禍で経済はストップし、仕事を追われた実習生の新たな仕事探しも難しい。

撮影:澤田晃宏

毎日一人、ホテルで過ごした。働いていないから、お金もない。1日の日課は、洗濯と筋トレ。

1日1食、駅前のセブンイレブンでインスタントラーメンか菓子パンを買って空腹をしのいだ。

セブンイレブンには、過去に実習生として自らが製作に関わったボールペンと同じものが売られていた。

9月、母国ベトナムの送り出し機関の社長から電話があった。

「仕事は見つからないから、失踪したほうがいいよ」

少しでも稼ぎたいと、送り出し機関の社長から紹介され、埼玉県内で働いた。中古の家電製品をコンテナに詰める仕事だった。

しかし、監理団体から「すぐに戻らないと失踪者扱いにします」と注意され、仕事は1日で辞めた。

この間、どこにも相談をしなかったわけではない。ホテルで過ごす日々の中で、出入国在留管理庁と厚生労働省が所管する外国人技能実習機構が開設する母国語相談ダイヤルに電話をした。

外国人技能実習機構

外国人技能実習機構は本部を東京都港区に置き、全国に13の地方事務所を持つ。

画像:外国人技能実習機構のホームページより

外国人技能実習機構は技能実習生の保護強化の目的で、2017年11月に施行された技能実習法により新設された。

監理団体の許認可権を持ち、指導に従わない場合は監理団体の許可を取り消すなどの行政指導の権限を持つ。監理団体をさらに監督する立場で、技能実習制度の総監督役と言える。

アインさんは、その監督役であるはずの技能実習機構の母国語相談ダイヤルに窮状を訴えたが、

「監理団体が次の仕事を探してくれるのを待ってください」

そう、アドバイスを受けるだけだった。

技能実習生に同一業種への「転籍」は認められるが、転職は原則的にできない。

機械加工職種の普通旋盤作業の技能実習生として入国したアインさんの場合なら、原則として同じ旋盤作業の技能実習をする受け入れ先を、探さなければならない。

政府はこの間、新型コロナ感染拡大の影響を受け、職を失った技能実習生に対して、条件付きで他業種での就労も認める特例を出していたが、そうした情報をアドバイスされることもなかった。

外国人技能実習機構の機能不全

盗難事件

北関東では、ベトナム人による農畜産物の盗難事件が相次ぐ。

出所:NHKのニュースサイトよりキャプチャ

目下、北関東で、ベトナム人による農畜産物の盗難事件が相次ぐ。なかには、コロナ禍で仕事を失った技能実習生の姿も含まれる。彼らの犯罪は決して許されるものではないが、彼らを支援する組織の脆弱ぶりを見ると、非難ばかりはできない。

現在、技能実習生の最大の送り出し国となったベトナムの技能実習生の大半は、多額の借金を背負って来日している。その額は、多ければ100万円以上に達する。

ベトナム技能実習生の大半は地方農村部出身で、彼らの両親の年収は20万〜30万円程度だ。土地を担保に銀行からお金を借り入れ、多額の借金を背負ったまま帰ると、家族ごと路頭に迷うことになる。

現在、在日ベトナム人の支援組織「NPO法人日越ともいき支援会」に保護されているアインさんはこう話す。

「親にお金を借りて日本に来たので、それを返せるまでは国に帰れません」

無印良品からの応援物資

NPO法人日越ともいき支援会には毎日ように行き場所を失った技能実習生や留学生が訪れる。無印良品から下着や靴下の物資支給があるなど、日本企業からの寄付が届く。

提供:NPO法人日越ともいき支援会

人生を棒に振るほどの借金を背負わせてでも技能実習生を受け入れる状況を、日越両政府が黙認する以上、労働者保護は重要だ。

その保護強化のために、外国人技能実習機構が生まれたのではなかったのか。

NPO法人日越ともいき支援会の吉水慈豊代表はこう話す。

「保護するベトナム人労働者の7割は外国人技能実習機構に助けを求めているが、シェルター利用などの積極的な支援はなく、彼らの保護ができているとは言いづらい」

保護を求めるときには、すでに職場を追い出されるなど緊急性を要するものばかりだが、「対応が遅く、その間に逃げ込むところもない」(吉水さん)。

技能実習違反があった場合、外国人技能実習機構は監理団体や受け入れ企業に許認可の取り消しなどの行政処分を行える。

しかし、あくまで外国人技能実習機構が主務省庁(出入国管理庁、厚生労働省)に進達し、そこから行政処分に至るまでには時間がかかる。

2019年6月、縫製工場の技能実習生として、劣悪な環境下で働くベトナム人技能実習生を取り上げたNHKの番組は、今治タオルの不買運動につながるなど、大きな話題になった。

しかし、その監理団体、受け入れ企業に行政処分が下るまでには約1年の時間がかかっている。

NHK番組ホームページ

受け入れ企業、監理団体に行政処分が下ったのは2020年6月23日だった。

出所:NHK番組ホームページよりスクリーンショット

不法在留者は統計以上の数がいる

法務省の調べによれば、2020年7月1日時点で、 受け入れ企業から失踪するなど不法在留状態で日本に滞在する元技能実習生の数は1万2457人。

ただ、この数字以上に不法在留者がいることは間違いない。最新の集計によれば、2019年度に認定された技能実習計画数は36万6167件。

一方、同年、受け入れ企業が経営難などを理由に技能実習計画の実施が困難だと届け出を出し、実習計画が中止された数は4万4773件だ。

今年は新型コロナ感染拡大の影響で、その数がさらに大きくなるのは容易に想像がつく。

多額の借金を背負ってきている以上、実習計画が中止になったからといって、「はい、わかりました」と帰国することはできない。彼らは失踪せざるを得ない状況に追い込まれているのだ。

多額の借金を背負わせるリスクのある制度であるのに対し、その計画の1割強が途中でとん挫している。

監督役である外国人技能実習機構が監理団体、実施企業をきちんと精査すれば、こんな事態にはならないのではないか。

先述の通り、技能実習生は同業種であれば転籍することができるが、外国人技能実習機構の実習先変更支援は54件(2019年度)に過ぎない。

保護施設

保護施設で日本語の勉強に取り組むベトナム人。

提供:NPO法人日越ともいき支援会

労働者保護を強化した技能実習法の施行から約3年。コロナ禍で露わになったのはそのあまりに脆弱な支援体制だ。

外国人技能実習機構では、2019年末時点で全国389カ所に実習計画がとん挫するなど行き場を失った技能実習生を保護するシェルターを設置している。しかし、その宿泊支援件数は集計のある2020年3月末時点で71件に過ぎない。

疾走や事件など、個々の実習生にまつわる事案に注目するだけでなく、そもそもこの制度や外国人技能実習機構は十分に機能しているのか。早急に検証すべき時が来ている。

(文・澤田晃宏


澤田晃宏:ジャーナリスト。1981年、神戸市生まれ。「AERA」記者などを経てフリー。取材テーマは外国人労働者、農協と新規就農者。著書に『ルポ技能実習生』。https://note.com/sawada078

編集部より:初出時、吉水慈法代表としておりましたが、正しくは吉水慈豊代表です。お詫びして訂正致します。 2020年11月19日 09:10
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