今や、あらゆる場所に、人との間隔を取るよう促すシールなどが貼られている。
撮影:今村拓馬
「プライベートで公共交通機関を使って都心部に行ったのは、緊急事態宣言以降は1回くらいだと思います。緊急事態宣言明けに、髪を切りに」
こう話すのは、関東の食品メーカーに務めるアカリさん(仮名・20代)だ。
「食品を扱っている以上、感染はできない」
4月から5月末まで、緊急事態宣言が発令されていた。
撮影:竹井俊晴
「(自粛続きで)病んでくるときもあるけど、食品を扱っている以上(自分が)感染するとやばいなと思っています。社内で感染が広がっていることを報道されると、売り上げが落ちて回復するのが大変ですし」
職業柄、アカリさんの感染対策への意識はかなり高い。
アカリさんの職場では、新型コロナウイルスの流行とともに、緊急事態宣言前から部署での飲み会や出張の自粛、さらには通勤時に公共交通機関を使うことを極力控えるよう通達があった。
また、会社からは、遠回しにプライベートでも飲み会や都内へ遊びに出ることを極力控えるよう話もあったという。
緊急事態宣言が明け、世の中がGoToキャンペーンで盛り上がり、観光地が賑わうようになった時にも、こういった対応を解除したという公式発表はないという。第3波が押し寄せる11月の段階でも、もちろん状況は変わらない。
アカリさん自身、プライベートで都心へ足を運ぶのは、唯一、月に数回、趣味で参加している社会人サークルの集まりに顔を出すときくらいだ。
ただし、アカリさん自身は車を所有していないにも関わらず、都心への移動にはシェアカーを使ったり、車を持っている友人に相乗りしたりするという徹底ぶり。
社会人サークルでは事前の検温などを徹底しており、アカリさんとしては不特定多数の人と接触する可能性のある公共交通機関を利用するよりも心理的安全性は高いという。
「今のところは、我慢できています。多分、3月くらいまでは耐えられるのではないかと。冬は感染者がさらに増えてしまいそうですし。
部署で(年齢が)下のほうなので、何かやらかすとまずいなというのもあります」(アカリさん)
他部署の同僚の中には、とっくに都内へ遊びに出かけている人もいるというが、アカリさんの部署では変わらずずっと気をつかっている人が多い。
アカリさんの感染対策の日々は、しばらく続きそうだ。
「いつも同じ人と遊ぶように」
夏場には、街中でもかなり人が出歩くようになっていた。
撮影:今村拓馬
「最近は週3でオンライン授業とインターンに行っています。あんまり気にしすぎても空気を読めないやつみたいで嫌だなと思って、飲みに行ったり、旅行に行ったりもしています。
ただ、すごい人が多いところには行かないようにしています。前、ミヤシタパークのところで大騒ぎしながら飲んでいる人がいて、さすがに引きました」
都内の私立大学に通うユミさん(仮名・20代)は、マスクや手洗いなどの一般的な感染対策を遵守しつつも、緊急事態宣言のときのようにずっと自宅に閉じこもるような生活はやめたという。
「正直、コロナに対して『怖い』という感覚はあまりないです。確かに死者は出てますけど、事実として若者はそれほど重症にならないですし。
知り合いで1人感染した人がいるので、近くにきているなとは思います。ただ、インフルエンザみたいな印象です」(ユミさん)
ユミさんとしては、コロナを怖がって自粛を積み重ねることで、大学生として過ごせる時間を失うことのほうがデメリットが大きいようだ。
「ただ、人によっては『コロナを気にしているのかな?』と思って誘いにくい人もいます。いつも同じような人と遊ぶようになったかも」
「一番危険なところを避ければ良い」
公園自体は開放された空間だが、複数人で集まって会話するような行為は感染のリスクを高める可能性がある。
撮影:今村拓馬
都内の外資のメーカーで働く、タツヤさん(仮・30代)は、3月以降基本的に在宅勤務を続けている。
「以前は1カ月に1回にくらい出張がありましたが、コロナが流行してから飛行機に乗るような出張はないです。緊急事態宣言が明けてから、お客さん側もOKなら営業に行くことはあります」(タツヤさん)
タツヤさん自身は、マスクや手洗いといった基本的な対策を遵守。
「一番危険なところを避けていれば良い、という感じで対策をしています。『飲食店は危ない』という認識です」(タツヤさん)
リスクが高い場は、3密が揃う環境や、大声を出すことのある飲み会の場。
タツヤさんは、コロナの流行以降、個人的に飲みに行くことがなくなった。最近では同僚から飲みの誘いもあるが、基本的に断っているという。
その結果、面倒な人付き合いが大幅に減少した。リアルで会う機会が少なくなり、仕事相手であっても名刺をもらっていない人が増えた。
その一方で、タツヤさんは、
「仕事の取引先との付き合いでの飲み会は、どこかでチャレンジしようかなと考えていました」
と、「高いリスクのある場」に出てコミュニケーションをとるメリットも捨てきれないと感じている。とはいえ、このところのコロナ感染者の増加を見ると、それもいつになるかは分からない。
なお、タツヤさんは、2人いる子どもを外に遊びに連れて行くときも、公園や動物園など、人が密集しにくい広い場所に行くのなら、そこまで気をつかっていないそうだ。
「うちは幸い、夫婦間で感染対策に関する考え方のズレはほとんどありません。外に出歩く頻度も、家族だと以前とあまり変わっていないです」
と話す。
「会社の目」から感じる“コロナ差別”
撮影:今村拓馬
都内のコンサルティング会社で働くミキさん(仮名・30代)は、緊急事態宣言以降、8月いっぱいまで飲み会を控えていたという。
会社から何か言われていたというよりも、あくまで自主的に判断してのことだ。
「以前、会食に参加したあと、参加者が新型コロナウイルスの陽性だと判定されたんです。私は厳密にいうと濃厚接触者にはあたらなかったのですが、少し迷って会社に報告しました。そこから、ちょっと目線が厳しくなって」
その間、予定していた飲み会は延期したり、オンラインに移行したりしたという。
「以前は週に複数回飲むこともあったのですが、それからは週1くらいになりました。場所も選ぶようになっています。繁華街があるような大きな駅は避けたり、感染対策をしているお店をチョイスしたりしています。
陽性になった方と会食をしたことを会社に報告したときに、いろいろな方に『ごめんなさい』と連絡をしたこともかなり精神的にきたので、まわりには迷惑をかけたくないですし」
と、気をつかうことは多い。
ミキさんとして気になるのは、こうした会社からの「目」だ。
「在宅勤務や時差通勤などがあって、みんなで感染を減らそうという試みをやっている中でならまだ納得できるのですが、毎日出社して働いているところで、そこだけ気をつかうのはちょっともやもやします。
コロナ差別の話だとかも聞きますが、自分の身に起こって初めて、自分ごとになりました」
感染拡大期に考えたい、対策意識の差
撮影:今村拓馬
新型コロナウイルスの流行が始まってからというもの、多くの人が生活の自由度と感染対策のバランスを考えながら生活してきた。しかし、人によって感染対策に対する価値観が異なる以上、どうしても濃淡が出てしまう。
感染対策に対して異なる価値観を持っている人を見て、
「なんであいつは飲みに行っているんだ」
「そこまでやる必要はないんじゃないの?」
などと考えたことのある人も多いのではないだろうか。
新型コロナウイルスの流行で、ただでさえストレスを感じる日々の生活。感染対策に関する考え方の違う人からの批判的な指摘や、企業内における「同調圧力」は、私たちにさらなる「居心地」の悪さを与える元凶の一つだろう。
実際、感染対策にかける意識の違いから、人間関係が変わっていくケースや、トラブルに発展する事例も散見される。感染対策にかける意識の違いは、社会を分断する原因にもなりかねない。
11月18日、東京では過去最多となる493人の感染者が確認された。全国合計では、2000人を超える感染者が確認されている。
11月以降、東京や大阪、北海道を中心に、全国で新型コロナウイルスの感染者が増加している。今は間違いなく、感染対策にかける比重を高めなければならない時期だろう。
一方で、感染対策の比重の高め方もまた、人それぞれ。
私たちが社会の分断や人間関係の変化を経験するのは、これからが本番という可能性もあるのではないだろうか。
(文・三ツ村崇志)