自民党のデジタル社会推進本部は11月18日、デジタル庁設置に向けての「第一次提言」を政府に提出した。
出典:衆議院議員小林史明事務所
自民党のデジタル社会推進本部(本部長:下村博文政調会長)は11月18日、菅内閣が設置を目指す「デジタル庁」についての提言を平井卓也デジタル改革担当相に提出した。
今回の「第一次提言」では「一度提出した情報は二度と提出しないワンスオンリー」の実現や「マイナンバーの活用範囲拡大」など行政サービスの利便性向上や拡充を盛り込んだ。さらに「内閣直属」「強い権限」を持つ常設組織とし、官民から専門家を登用し、幹部への若手抜擢も視野に入れた「官民問わず適材適所の人材配置」を求めている。
“行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)”を担うとされるデジタル庁に政府・与党はどんな役割を思案しているのか。提言書の中身から、その一端を探った。
デジタル庁に向けた「第一次提言」その内容は?
提出された提言書。
撮影:小林優多郎
下記のポイントは、いずれも「第一次提言」から抜粋したもので、実際の文章はA4用紙7ページ分、全41項目にわたる。盛り込まれた内容の主なポイントは以下の通り(太字は編集部)。
- 内閣直属で、強い権限を有した常設組織とし、各府省等、地方公共団体、準公共分野、民間などの想定されている業務を着実に遂行可能となるように、予算一括計上と執行権限、十分な機構・定員を与える。
- デジタル庁主導で、各府省や地方公共団体でバラバラに整備・運用・検討されている情報システムについて、検討案や見直しを期限を設けて設定する。
- 個人・法人に対し、各府省など地方公共団体共通の行政サービス電子調達ポータルを提供。
- マイナンバーの担う役割の整理。マイナンバーカードの利便性の向上。各府省などおよび地方公共団体の基盤システムなどでは、標準的なAPIを提供し、民間事業者が提供するサービスとの連携を実現。
- 個人情報保護法、行政機関個人情報保護法、独立行政法人個人情報保護法の1本化、いわゆる「個人情報保護法制2000個問題」の解消。
- 内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)などの関係機関の役割を明確化、必要であれば組織の見直し。
- 準備室の段階から人的資源管理の専門部署を設置し、多様な経験を有する民間などの専門家を雇用。年齢や官民にとらわれない人材配置を行なう。
- デジタル庁においては幹部職含め、若手からの抜擢含めて、官民問わず適材適所の人材配置を行う。
- 国家公務員全体の採用、育成、働き方の見直し。既存の公務員はリテラシー向上のための研修を必須化。
「マイナンバー活用範囲の拡大」に焦点
撮影:小林優多郎
さらに国民の実生活に近い部分に目を向けてみると、注目すべき方針の1つはマイナンバーの活用範囲・用途の拡大だ。
提言書には、マイナンバーに関して以下のような内容が盛り込まれている。
- 複数のパスワード設定、5年おきの公的個人認証の更新、10年おきのマイナンバーカード自体の更新、ビニールケースでマイナンバーを隠す運用など、使いにくい点を是正。
- “マイナンバーカードと健康保険証との一体化”に伴う健康保険証発行義務の緩和および将来的な廃止。
- 預貯金口座へのマイナンバー付番。
- スマートフォンへのマイナンバーカード機能の搭載。
小林史明議員。申し入れ前日の11月17日、記者説明会にて撮影。
撮影:小林優多郎
とくに、スマートフォンへの機能搭載については、事前の報道陣への説明会で小林史明衆院議員(党デジタル社会推進本部事務総長)が「だいたい2、3年を目処に見えてきている」と展望を語っている。
これらには、多くの情報や機能と連携することで、例えば新型コロナウイルスで課題が指摘された給付金などのスムーズな支援、教育や医療、防災などの「準公共」と呼ばれる領域でも相互連携が図れるように整備する狙いがあるという。
なお、一部で報道されている運転免許証とマイナンバーカードの統合は、今回の提言には明記されていなかった。「やっていくという方向性は決まっているが、政府の方針として確定していない」(小林議員)としている。
マイナンバー普及には「現在の3倍以上のスピードが必要」
撮影:小林優多郎
生活に必須な情報がマイナンバーを中心にまとめられるとすれば、「日本に住むすべての人が使えるか」「個人情報は十分に保護されるか」などが重要な視点なるだろう。
前者については、提言には「年齢、障害の有無、性別、国籍、経済的な理由等にかかわらず、全ての人が不安なくデジタル化の恩恵を享受でき」と記された。
だが、日本に住む人全員にマイナンバーおよびマイナンバーカードを行き渡らせるには、実際に発行業務などに従事する現場の人的リソースも問題となってくる。
自民党内からは「(日本に住む全ての人に行き渡らせるには)現在の3倍以上のスピード感が必要」(小林議員)という声も出ており、提言にも「マイナンバーカードの発行・手続き窓口の強化および分散化」が明記された。
具体的には「自治体だけでなく、免許の更新センターや金融機関、郵便局、手続きによっては各携帯ショップの代理店なども考えうる」(小林議員)としている。
なお、個人情報保護の観点については、提言のなかで、
「日本は、EUのGDPRと相互認定した個人情報保護法体系を既に確立しており、こうした制度の上に、個人情報保護を確保しつつデータ利活用を進めることが重要」
と記された。現在の「マイナポータル」の仕組みのように、利用者が一定の許諾をした上での運用が検討されている。
旧態依然とした日本の行政をデジタル庁が本当に変えられるか
甘利明議員。
撮影:小林優多郎
デジタル庁の設置には、単にマイナンバーのもつ役割の強化だけではなく、各省庁や地方自治体などの業務基盤をも変える大きな狙いがある。
そのために提言書には「内閣直属で、強い権限を有した常設組織とし(中略)想定されている業務を着実に遂行可能となるように、予算一括計上と執行権限、十分な機構・定員を与える」と、各省庁などを横断した強い権限などが必要だと明記された。
また、デジタル庁では目標達成のためにも「プロジェクト型」での人材登用などが計画されている。ただ、「国家公務員の古い人事制度の中で、それが円滑に実施できるか」は疑問が残る。
人事制度とのアンマッチについて、説明会に出席した甘利明衆院議員(党デジタル社会推進本部座長)は「ここが1番大変」「人事の仕組みを新しい形態の役所とどうすりあわせをするか、今から試行錯誤してもらいたいと投げかけている」としている。
自民党のデジタル社会推進本部では、今回の第一次提言をもとに2020年末を目処に、2030年までの大きなゴールと、2025年までのロードマップを提示する方針だ。
(文、撮影・小林優多郎)