リアル実務家30人に学べる学部スタート、若いうちから挑戦する人材どう育つ?

武蔵野大学記者発表会

2021年春に開講する武蔵野大学アントレプレナーシップ学部。学部長や教員には現役のビジネスパーソンらが集まった。

撮影:宮本恵理子

「実社会と乖離している」と言われ続けてきた日本の大学教育が、本気で変わろうとしている。

そんな潮目の象徴になるかと注目を集めているのが、武蔵野大学(西本照真学長)が2021年春に新設する「アントレプレナーシップ学部(通称 武蔵野EMC)」だ。

ベストセラー『1分で話せ』の著者としても知られるYahoo!アカデミア学長・伊藤羊一氏を学部長に迎え、「ことを成す」ために主体的に行動できるリーダーシップ人材の育成を目的とする。

カリキュラムには1年次から「情報編集力」「プロジェクト入門」「クリティカルシンキング基礎」といった実践的なものが並び、アントレプレナーシップ(起業家精神)を養う。西本学長が構想していた「ビジネスの最前線を大学のキャンパスにそのまま持ってくる」というビジョンを形にしたもので、2019年夏に伊藤氏にオファーをし、準備を進めてきた。

最大の特徴は、専任・客員含めて全教員が“現役の実務家”であるということ。Yahoo!アカデミアでリーダーシップ育成を手がけてきた伊藤氏を筆頭に、リバネス代表取締役副社長兼CTOの井上浄氏、国内外の大手企業からベンチャー組織まで経験したエール取締役・篠田真貴子氏、農業テックで地方を盛り上げるGRAのCEO・岩佐大輝氏、NPO法人ドットジェイピー理事長・佐藤大吾氏など、名だたる起業家や経営経験者約30人が教壇に立つ予定だ。

伊藤氏が一人ひとりに会い、大学教育にかける思いを共感できるパートナーとして迎えたという。

学部創設にあたって、伊藤氏らが定義づけた「アントレプレナーシップ」とは、高い志と倫理観に基づき、失敗を恐れずに踏み出し、新たな価値を創造していくマインドのこと。ゴールは必ずしも起業家育成ではなく、世界の課題を解決できる人材育成を目指す。

1年生は全員寮生活

武蔵野大学

武蔵野大学アントレプレナーシップ学部HPより

11月9日の記者発表では学部の概要が発表され、教員として着任予定の井上氏と篠田氏も登壇。自身も大学院時代に研究所を立ち上げた経験を持つ井上氏は、「若い頃から自分ごとで挑戦する行動の繰り返しが、将来にわたって価値を社会に還元できる力になる」と強調。

「これまでも学生向けにアントレプレナーシップを伝える機会はあったが、単発の講座に限られていた。武蔵野EMCでは4年かけられ、主体的に挑戦する力を育成できる、国内で他に類を見ない学舎になるだろう。5年後には私自身が卒業生と一緒にビジネスを立ち上げるイメージも明確に描けるので、ワクワクしている」(井上氏)

篠田氏が期待するのは、目玉の一つである「学生寮」のシステムだ。1年次は学部生全員がキャンパス近隣の寮(一人部屋)で生活を共にする。

「多様な他者と共同生活をする経験は、人間理解に深くつながるはず。20世紀型の工業社会から知識労働中心の社会へと変わる流れの中では、人間理解こそが重要な資質になる。若い世代が何を感じ、何をいいと思うかを他者と共有できる環境を提供することは、非常に価値があると感じている」(篠田氏)

学部長の伊藤氏自身、平日は寮で学生たちと生活を共にするという。

「コロナ対策は整えた上で、学生一人ひとりとのコミュニケーションを深めていく。当学部は教員が現役実務家なので、学生・教員間が接する時間がどうしても限られる。その分を私が直接カバーし、一人取り残さずフォローをしていきたい」(伊藤氏)。

とはいえ、伊藤氏もさまざまな役職を持つ現役のビジネスパーソン。学部長との両立は、この半年で急速に浸透したリモートワークによって可能だという。

「教育分野から一歩を踏み出す」

itoyoichi

伊藤羊一さん。東京大学卒業後、日本興業銀行に入社。プラスなどを経て、Yahoo!アカデミアでリーダー育成を担った。

撮影:今村拓馬

それにしても、これまで社会人向けのリーダーシップ育成に情熱を注いできた伊藤氏がなぜ今、大学教育に使命感を燃やすのか。その真意についてメールで質問を送ると、伊藤氏から長い回答が届いた。

「これまで『始めるのに、遅すぎることはない!』と、大人に向けたサポートをしてきました。さまざまな社会経験を積んだ大人たちは、目覚めのスイッチさえ入れば、自分の力で歩き出すことができます。その姿を見送りながら、与えられた役割にやりがいを感じてきました。

同時に、次第に抱くようになったのが『若いうちから、主体的に挑戦する力を身につけられたら、もっとラクに生きられるのに』という新たな課題感です。

私自身が20代の頃、思い描いていた社会のイメージと実像のギャップに悩み、鬱状態になった経験があり、やっと『自分の力を使って社会に貢献していこう』と腹落ちできたのは30代後半になってからでした。

社会経験を積む前の早い段階での意識改革に役立ちたいと考えていた矢先、武蔵野大学の西本学長から新学部をつくってくれないかというお話がありました。

(中略)

ベースには、常日頃感じてきた『もっと幸せな世界をつくれる自分でありたい』という思いがあります。

私たちが生きる今日この時点で、環境破壊やジェンダーギャップ、貧困、いじめ、自殺など社会が解決すべき問題は山積みです。この時代を生きる一人ひとりが主役となって、やるべきことはたくさんあると日々感じる中で、私は教育の分野から一歩を踏み出そう。そう思うに至りました」

先の記者発表の場で、伊藤氏は武蔵野EMCの教員たちが“大学教育のプロではない”ことの価値をこう伝えた。

「分からないから学び合う。私たち教員自身が共に試行錯誤しながらチャレンジする姿を、学生たちの目の前で示していきたい」。

(文・宮本恵理子、写真・今村拓馬)


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