11月20日、アンジェスから臨床試験に関するリリースが発表された。
撮影:三ツ村崇志
新型コロナウイルスのDNAワクチンを開発する大阪大学発のバイオベンチャー・アンジェスは11月20日、開発中のワクチンに関する「第2/3相臨床試験」を実施する方針を発表した。
これまでアンジェスが実施してきた第1/2相臨床試験の「次のステップ」に相当する。
今後、臨床試験を行う施設での審議・承認が下り次第、2020年11月から2022年3月までを目処に、関東・関西にある合計8医療施設において、500人を目標とした臨床試験が行われることになる。
無作為、二重盲検、プラセボでの臨床試験
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アンジェスは6月と9月、大阪市立大学医学部付属病院と大阪大学医学部付属病院で、それぞれ開発中のDNAワクチンに関する第1/2相臨床試験を実施していた。
この2つの臨床試験では、健康な人に対してワクチンを接種することで安全性を確かめるとともに、実際に免疫がどの程度つくのか評価することを目的としていた。
今回発表した第2/3相臨床試験でも、基本的な評価項目は同様。
ただし、ワクチンの投与量・投与間隔といった条件を絞り、症例数を増やすとともに、第1/2相試験では投与しなかった「偽薬(プラセボ)」を投与するグループも設けるとしている。
また、この臨床試験は「二重盲検」と呼ばれる形式。投与したのがワクチンなのか偽薬なのか、患者側と医療従事者側といずれにも分からない形で行われる。
臨床試験の内容は以下の通り。
対象者:健康成人志願者
手法・目的:筋肉内接種における治療薬の安全性および免疫原性評価のための無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験
目標人数:500人
実施施設: 関西および関東エリアの8施設
ワクチンの用量:2.0mg
ワクチンの接種回数と間隔:2週間間隔での2回接種(250人、うち50人はプラセボ)、4週間間隔での2回接種(250人、うち50人はプラセボ)
期間:2020年11月〜2022年3月(2021年3月頃に接種完了予定。ワクチン接種後、52週間のフォローアップ期間を含む)
過去の治験結果の詳細が未公開の理由
アンジェス、創業者の森下竜一大阪大学教授。アンジェスは2020年3月5日、国内ではいち早くワクチン開発に挑戦することを発表した。
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ここ最近、ファイザーやモデルナなど海外でワクチン開発を行っている企業から、ワクチンの高い有効性に関する明るい見通しが発表される事例が続いている。
今回のアンジェスの発表も、臨床試験を次のステップに進めたこと自体は明るい材料だと言えるだろう。
一方、アンジェスの開発しているDNAワクチンは、これまで安全性や有効性に関する詳細なデータがほとんど開示されていないなど、不安な面も多い。
アンジェスの広報担当者に、この点を問い合わせたところ、次のような回答があった。
「これまでの臨床試験の結果については、11月中旬、第4四半期(9月〜12月)に発表することを広報ブログなどを通して報告しておりましたが、分析に時間がかかっている状況です。
ただ、第2/3相臨床試験に進んでいるということで、安全性について大きな問題は出ていないと認識しています。免疫性(免疫がどの程度獲得できているのか)の分析に時間がかかっているところです」(アンジェス広報)
アンジェスは、国内のワクチン開発でトップを走っていることから、どうしても海外の先行事例と比較されるケースが多い。
ただし、早さを求めるあまり、安全性や効果の検証がおろそかになってしまっては本末転倒だ。
アンジェスとしても、大前提として、安全でしっかりとしたワクチンを提供するため、医薬品の審査を行う医薬品医療機器総合機構(PMDA)と歩調を合わせて準備していきたいとしている。
新型コロナウイルスに対するワクチンは、今年、来年という短期間だけ必要とされるものではない。先々のことを考えると、急場は海外の大企業が開発したワクチンでしのぎ、後々開発が追いついてきた国産のワクチンをしっかり確保しておくことは非常に重要といえる。
第3相臨床試験では、海外で数万規模の治験を
新型コロナワクチンのイメージ。
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なお、今回アンジェスが実施する第2/3相臨床試験の結果が仮に良かったとしても、すぐにワクチンとして一般に普及するわけではない。
次のステップとして、「発症予防効果」「重症化予防効果」を検証するための第3相臨床試験が実施されることとなる。
ここまで進んでやっと、ファイザーやモデルナが発表したような「ワクチンの有効性」を確かめることができるのだ。
アンジェスの広報によると、第3相臨床試験では、ファイザーなどが実施したのと同様、数万人規模の人に対してワクチンを投与することを想定しているという。
ただし、この臨床試験の場所について、いくつか課題がある。
今、日本で感染が広がっているといっても、海外に比べると規模はまだ小さいほうだ。
実は、ワクチンの効果を正確に検証しようにも、感染者が少ない環境で臨床試験をしても、重症化する人の数がそもそも少ないため、実際にどの程度発症を予防したり、重症化を予防したりできるのか、検証精度が上がりにくいという皮肉な側面がある。
そのため、十分な精度をもった検証を行うために、国内だけではなく、日本よりも感染が広がっている海外での臨床試験も視野に入れる必要があるという。
編集部より:初出時より、試験期間に関する一部表現を改めました。2020年11月20日 14:50
(文・三ツ村崇志)