ビキニフィットネスを通して安井友梨(36)は自分と未来は変えられることを全身で学び直した。
筋肉に包まれたメリハリのあるプロポーションを手に入れたのはもちろんだが、むしろ、ビキニフィットネスによってマインドセットを変えることができた。それは“できるかできないか”ではなく、“やるかやらないか”。このことが今まで想像もしなかったほど自分の可能性の扉を開いたと安井は言う。
ビキニフィットネスを始める前、20代の安井は挫折を経験している。新卒で入社した証券会社を3年で退職した際には無力感を味わった。転職した外資系銀行へは、もう営業は自分には無理だという気持ちで事務職として入職したが、会社の都合で営業へと配置転換された。
証券会社時代の安井(写真左)。右は妹で、よく食い倒れ旅行に行ったと言う。
提供:安井友梨
もう一度営業として頑張ろうと思えたのは、自由な社風が安井に合っていたことに加えて、「恩返ししたい」という1980年代生まれにしてはやや古風なメンタリティの持ち主だったことによる。
営業として挫折した自分を一から育てるという銀行に恩返ししたいという思いで、結果を出そうと頑張った。ビキニフィットネスを始めて以後、「恩返ししたい」マインドはさらに発揮されることになる。
ビキニフィットネスに出合った30歳のとき、若さがだんだん遠のく年齢にさしかかっていた安井は、「どうせ私なんか」と言う、やや諦めにも近い性格が強くなりかけていたという。
「もともと、積極的だったわけでもありませんでした。子どもの頃からアトピーで肌が弱く、関節を中心に湿疹が出やすく、部活のときには大きな絆創膏を携帯していました。痒みを我慢するのは辛かったですし、湿疹のためになんとなく前へ出るのを控えてしまうというか、ちょっと引っ込み思案なところがあったと思います」
夢はビキニフィットネスを知ってもらうこと
2019年にはビキニフィットネスのアジア選手権大会で総合優勝を果たした。
提供:安井友梨
国内大会はもちろん、アジア大会、世界大会まで、母や妹夫婦、妹の夫の両親など、一家をあげて応援団がやってくる。当初、母は娘がビキニ姿でステージに上がりお尻を見せることに強い抵抗を示し、そんなことより料理教室に通いなさいと言って反対した。
競技大会にゲストとして招かれることもある。お年寄りから小さな子どもまで、さまざまな年代が集まる競技会では、観客は安井の美しさと迫力に息を飲む。どんな観客の前でも鍛え上げた筋肉を美しい身のこなしで披露する安井のひたむきさに涙ぐむ観客もいるほどだ。
職場の同僚や家族、ファンの応援を受けると、絶対に世界一をとらなくては、と強く思うという。
「何かに秀でていたわけではない30歳の銀行員の私が、ビキニフィットネスをきっかけに人生を変えることができました。私にできたということは、誰にでもいつからでもできるということだと思います。そして、1日も早く、自らの手で、世界の舞台において結果を出したいと思います。
私には“ボディビルと聞いて誰もがボディビルがどんな競技かわかるように、ビキニフィットネスと聞いて誰もがどんな競技かわかるようにする”という夢があります。ビキニフィットネスの魅力を1人でも多くの方に知っていただき、素晴らしいスポーツ競技だと認めていただきたいと心の底から願っています。
世界のステージ上で1位を目指し、仕事でも営業成績1位を目指し、どこまでも妥協することなく競技と仕事の二刀流を極めていきたいと思っています」
東京転勤を応援、SNS発信もサポートする夫
13万人のフォロワーがいる安井のInstagramアカウントは、夫が運営をサポートしている。
安井友梨、公式Instagram
2016年に結婚した夫は製造業の経営者だが、安井の世界一の夢をかなえるためのパートナーとして安井のInstagramをはじめSNSでの発信をサポートする。安井友梨がプロデュースするブランドのトレーニンググッズや食品を販売するFAVOLINKの経営にも携わる。
2018年に名古屋を離れて東京へ転勤する際に、「自分のことは気にせずやりたいことをとことんやってほしい」と送り出したのも夫だった。
コロナ禍、フィットネスジムは感染防止のために営業を控えざるを得ず、多くのジムが厳しい状況に追い込まれた。そんな中でも、営業が再開されるまで人々のフィットネスへの関心が絶えることがないようにと、安井は125日連続でトレーニングの動画をInstagramにアップした。この取り組みも夫がサポートしている。
夫からは「カッコつけるな」と口を酸っぱくして言われるという。
「ワークショップなどでお会いする方々は等身大の私のことを認めてくださっているんだからと。SNSにアップしてもらうために東京から100枚ぐらい画像を送るんですが、これ、カッコいいかなと思って撮った写真はなかなか採用されません」
ブログを始めた2014年の安井は先輩のボディビルダーやビキニフィットネス 選手の姿に憧れる1人の初心者だったが、6年後の今は、すっかり憧れられる存在となった。
自分と未来は変えられる。
安井の姿を見ていると、ほんとうにそうなのだと思える。
あとはできるかできないかではなく、やるかやらないか。
安井がニッコリと笑った。
(敬称略・完)
(文・三宅玲子、写真・岡田晃奈)
三宅玲子:熊本県生まれ。「人物と世の中」をテーマに取材。2009〜14年北京在住。ニュースにならない中国人のストーリーを集積するソーシャルブログ「BillionBeats」運営。