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「コンビニATM」が進出する“夜間金庫”代替……銀行のATMビジネスの曲がり角はいつ来るか

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撮影:Business Insider Japan

ローソン銀行は同社ATMを使った入金サービス「金庫がわりクン」を11月中旬から開始した。飲食店やサービス業を営む各社などが、ローソン銀行の法人用口座と紐付く「入金専用カード」により、日々の売り上げ金を同社ATMを使って入金し、各々の入金状況を管理できるサービスだ。

ローソン銀行が11月16日に開始した法人向けATM入金サービス「金庫がわりクン」

ローソン銀行が11月16日に開始した法人向けATM入金サービス「金庫がわりクン」のキャンペーン告知。

出典:ローソン銀行

一見地味な取り組みのようにも見えるが、ローソン銀行が狙うのは、名前どおり銀行が担ってきた「夜間金庫」の置き換え。同行によると、背景には、地方銀行(地銀)などを中心に進む、支店やATMの統廃合による「夜間金庫からの撤退」があるという。

利便性の高いコンビニATMを地域の法人に活用してもらうことで、従来の個人向けサービスに加えて、ローソン銀行の「法人向けサービス」拡大を進める動きとも言える

ローソン銀行「金庫がわりクン」

ローソン銀行では、大規模なチェーンなどではなく、地方に十数程度の店舗を展開している主に中小企業をターゲットとしており、当初は早い段階で2000企業程度の獲得を目指す。

出典:ローソン銀行

ATM入金に特化したサービス提供にあたっては、地方の金融機関や地元企業の聞き取りなどを行い、「地方銀行の市場を奪うというよりは、事業継続性の観点から統廃合先の受け皿となり、コンビニATMならではの『近くて便利』というメリットを提供する」(ローソン銀行)という側面が強いという。

興味深いのは、ローソン銀行の説明にあるように、「地方の金融機関における支店やATM減少による法人顧客利便性の低下」「コンビニATMなど受け皿となるサービスへの顧客のシフト」といった現象が実際に発生しているのかという点だ。

各種データを調べ始めると、どうやら「単に需要を代替する」というシンプルな話でもなさそうなことが見えてきたからだ。

銀行ATM減少は不便? そもそも需要が減っている?

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都内のある駅のATM。ゆうちょ銀行ATMが撤退した跡地に、間髪あけずに入ったのはセブン銀行のATMだった。この駅敷地内には、ローソンが入店している。

撮影:伊藤有

先日、コンビニATMで業界最大手のセブン銀行のATM設置台数が、2019年時点での数字で都市銀行の設置台数を上回ったとの報道が話題となった。

2020年9月末時点でセブン銀行のATM台数は2万5382台、3月末時点の数字でローソン銀行が1万3367台となっている。セブン銀行ATMについてはここ数年は2万5000台前後の水準で推移している。

コンビニATMの設置範囲が拡大しているというよりも、「既存金融機関のATM台数が減少していった結果、2019年時点で逆転した」と考えた方が正しいように思える。

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過去3年間のATM設置台数の推移

出典:セブン銀行

では、既存金融機関のATM設置数は実際どのように変化しているのか。

全国銀行協会(全銀協)が公開している決済統計年報を基に推移を下記にまとめてみた(2002年、2010年、2019年のデータから抽出、ゆうちょ銀行は、集計を開始した2007年以降のデータのみの参考値)。

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出典:全国銀行協会

信金のようにあまり変化していない業態がある一方で、都市銀行や地銀などは20年ほどの期間を経て1〜2割程度ATM設置台数が減少しているのが分かる。

特に都市銀行・地銀はATM設置台数が多く、結果として全体の合計を1割以上押し下げる結果につながっている。

逆にゆうちょ銀行については大きくATM設置台数が伸びているが、これはおそらく2016年以降にファミリーマートとの提携でコンビニATMをゆうちょ銀行のものに置き換え始めており、これが反映された結果だろう。

数字が語る「ATMそのものの需要減少」

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今村拓馬

ATM設置台数の推移は分かった。では、ATMの減少とともに、実際に「既存金融機関からコンビニATMに利用者が流出」しているのだろうか。

まず先ほどの全銀協の決済統計年報を基に既存金融機関のATMを介した支払い件数と額の推移を見てみると分かるが、約20年前と比較して、件数と金額ともに半減している。

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2001年と2019年の業態別CD・ATM設置状況データを比較。支払件数、支払金額ともに半減している。

出典:全国銀行協会

理由としては口座引き落としやクレジットカード払いなどが広く普及したことで、現金引き出しや振り込み作業といったATMの需要そのものが減少したことが考えられる。

一方のコンビニATMについて、セブン銀行が公開している過去3年のデータを見る限り、口座数と残高ともに右肩上がりなのに対し、平均利用件数と総利用件数はそれほど変化していない。むしろ2020年前半については新型コロナの影響もあり減少しているほどだ。

セブン銀行側のさらに昔のデータがないため完全には検証できないが、コンビニATMサービスの提供開始直後はこれら数字も右肩上がりだったものの、現在では既存銀行のATM設置数減少の需要をそのままコンビニATMが取り込む流れにはなっていないように思える。

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セブン銀行が公開している過去3年間のATM平均利用件数と総利用件数。

出典:セブン銀行

実際、ローソン銀行が「金庫がわりクン」提供にあたって背景の説明にあったような流れが起きているのか?

セブン銀行では「売上金入金サービス」という同種のサービスをすでに提供しているが、この件について実際のサービス展開状況がどのようになっているのか同社広報に聞いてみたところ、次のような回答が返ってきた。

「地方での銀行支店やATM整理、サービス終了にともなうセブン銀ATM利用の変化が実際にあったのかということですが、特に変化がなく、われわれの観測範囲で目についた動きはないというのが実情です。

(実際に地方の事業者などからリクエストや相談は)地域ごとの出店数の差異こそあれ、申し込みも全国からいただいており、特に偏りはありません。近くて便利、店内が明るくて安全・安心という理由から申し込みをいただいております」(セブン銀行広報)

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現在セブン銀行が全国展開を始めている最新世代の「ATM+」。顔認証や身分証の読み取りなど、最新機能が多く盛り込まれている。

撮影:鈴木淳也

セブン銀行「売上金入金サービス」

セブン銀行が提供する「売上金入金サービス」。

出典:セブン銀行

つまり、少なくとも先行する大手では、実感できるほどにはコンビニATMへの「需要シフト」が起きていない可能性が高い。

現在、都市銀行や地方銀行を中心に支店やATMが減少を続けているが、それよりも取引件数や取引額の減少幅の方がさらに大きい

ここで導き出せる推論の1つは、「そもそもATMの需要そのものが減少しており、銀行は手数料収入を含めた損益分岐点に満たない支店やATMを中心に整理を始め、合理化を進めている」ということかもしれない。

ゆえに、利便性の面からコンビニATMを利用する層はいても、既存の銀行ATMから流れてくる層は現在ではそれほど多くもなく、結果として顧客のATMシフトは目立つ形では起きていないことになる。

筆者の実感として、給料日前後や連休前などのタイミングでATMが混雑する場面に遭遇することはあっても、普段ATMが行列でなかなか利用できないというケースは非常に少なくなっている。

これもキャッシュレス化の恩恵の1つかもしれないが、今後はピーク時を想定したATMの設置はより見直され、さらなる縮小傾向へと向かうことが考えられる。

三菱UFJ銀行はコンビニATM(セブン銀行)での手数料を引き上げる代わりに、毎月25日と月末の営業時間内の手数料の無料化を発表している。

三菱UFJ銀行の手数料

三菱UFJ銀行におけるコンビニATM利用時の手数料の扱い。

出典:三菱UFJ銀行

これはまさにピークタイムのみコンビニATMへのシフトを促し、三菱UFJのATMでの混雑を緩和することでATM設置台数減少の埋め合わせを行おうという作戦だといえる。

今後、ATMが持っていた出金機能や振り込みなどの機能は、徐々に提携機関でのキャッシュアウトサービスやスマホアプリへとシフトしていくことが予想されるが、

悩ましいのは日々の業務で現金を扱う小売りや飲食、サービスなどの事業者だ。

ローソン銀行が今回のサービス提供で挙げていた「夜間金庫サービス縮小」にあるように、現金がそこにある限り、それを安全に管理、保管する手段は欠かせない。これらはキャッシュアウトサービスやスマホアプリで代用できるものではない。

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ローソン銀行の日本全国のATM設置台数。これがいつのタイミングで既存金融機関がサービス縮小した受け皿となるのか。

出典:ローソン銀行

そこでコンビニATMの登場となるが、セブン銀行がいうように、まだ市場として大きく成立するほど売上金預け入れサービスは広がっていない。裏を返せば、「夜間金庫の減少」で従来の銀行から離れざるを得ない事業者は、まだそこまで多くないということだ。

とはいえ、総理大臣が直々に地方銀行の整理について発言する状況となるなか、金融機関の支店とATMの減少は今後も続いていくことは確実。どこかの時点でコンビニATMへの大きなシフトが発生する可能性がある。

現在はまだその兆候がみられないが、それが5年先か10年先かは分からないが、日本の金融サービスの在り方が変化する節目かもしれない。

(文・鈴木淳也

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