中学生以下の児童を対象に現金給付する「児童手当」を、2021年度から政府が減額する方針が波紋を広げている。高所得世帯向けの「特例給付」を減額し、さらに共働き夫婦の場合、所得制限の算定基準を「所得の多い方」から「夫婦合算」に変更する。所得がさらに多い世帯は廃止も検討するとも報じられている。
これを受け、子育てアプリの開発などを行うカラダノートが、特例給付を受け取っている母親らを対象に緊急アンケートを行った。「2人目以降を希望しない」「夫婦どちらかが働かなくなると思う」「政府は共働きフルタイムからショートタイム勤務にシフトさせたいのか」など、「女性活躍」とは真逆の政策に、悲嘆と困惑の声があふれた。
基準は「夫婦合算」、減額、さらに廃止も
児童手当の減額、新たな算定基準に、子育て中の母親たちから不満が噴出している(写真はイメージです)。
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カラダノートは自社アプリの「ママびより」メルマガユーザーを対象に、2020年11月12日から13日にかけてインターネット上で調査を行った。回答者は1842人。
児童手当は子どもの人数と世帯の所得によって給付金額が異なる。例えば、一定の所得に満たず3歳未満の児童を1人扶養している場合、月額1万5000円、3歳以上だと原則1万円が受け取れる。
児童手当の所得制限について
出典:内閣府HPより
一方で、一定以上の所得がある世帯が児童1人あたり一律月5000円を受け取る制度が、今回、変更が検討されている「特例給付」だ。支給額の算定基準は世帯で最も稼ぎが多い人の収入がベースになるため、例えば夫婦どちらかの収入が960万円(所得736万円)以上、子ども2人の場合などがこれに該当する。
今回、政府が検討していると報じられているのは、以下だ。
・所得制限の算定基準を世帯で最も稼ぎが多い人、つまり「夫婦のうち所得の高い方」から「夫婦合算」に変更
・共働き世帯について、夫婦合計で一定以上の所得がある場合は、特例給付を2500円に減額
・さらに高所得なら、給付自体を廃止する案も検討
所得額の基準についてはこれから検討に入るが、浮いた財源は待機児童対策に充てるという。
本当に待機児童対策? 税金の使い道に不信感
浮いた財源を本当に待機児童対策に使われるのか?疑問に持つ人も多い(写真はイメージです)。
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カラダノートは、児童手当特例給付の減額・廃止検討に関して、主たる生計者の年収が800万円以上の主に特例給付を受け取っている層と、それ以下の世帯、主に児童手当を受け取っている層に分けてアンケートを行ったという。
児童手当特例給付の廃止検討の報道について、特例給付を受け取っている人の64%(これ以降、小数点以下切り捨て)が「税金ばかり払って不平等に感じる」、また16%が「金銭的に不安」と、80%にのぼる人が否定的だった。
ちなみに現在の特例給付の使い道として最も多かったのは、「子どもの貯金」57%、「生活費」18%だった。
また、制度を変更・廃止する理由として待機児童の解消があげられていることには、「とても不満に思う」61%、「少し不満に思う」19%と、その根拠にも80%が否定的という結果に。
主たる生計者の年収が800万円以下の人たちも、待機児童解消のために制度を廃止することになれば「少し不満に思う」18%、「とても不満に思う」66%と、84%が否定的だった。
背景には、税金の使い道への不信感などがある。
「 保育士の方が報われるなら納得できるが、果たしてそのために財源が使われるか疑問」
「どのような対策を行うのか、明確ではない 」
「一部の人口密集地域において待機児童が発生しているという認識のため、あまり公平な恩恵を受けられないように感じる」(アンケートの自由記述より)
一方で、約1割は「待機児童解消が実現するなら納得する」と回答。待機児童問題の解消を期待する声もあった。
共働きへの深刻な打撃「働かない方がいい」
共働きにためらいを感じる人も多かった(写真はイメージです)。
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今後の働き方への考え方にも変化が見られた。特に、所得制限の算定基準が「夫婦合算」になった場合に影響が大きいであろう、共働き世帯の女性たちだ。
「年収によって共働き夫婦に児童手当が支払われないとなると、夫妻どちらかが働かなくなると思う」
「共働きしていると保育料も高く支払っているのに、その上児童手当も減らされるのは納得できない。働かない方がいいのではと思った」
「共働きフルタイムで生計を立てているが、『政府は共働きフルタイムからショートタイム勤務にさせたいのか』と考える世帯も多数いるのではないだろうか 」 (アンケートの自由記述より)
児童手当改定なら2人目以降は考えられない
今後の家族計画にも大きな影を落としている(写真はイメージです)。
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全世帯で変化があったのは、2人目以降の子どもをどうするか? だ。
主たる生計者の年収が800万円以上の層では、特例給付をこれまで通り受け取れる場合、2人目以降の妊娠・出産を希望する(とても希望する・少し希望する)と48%、約5割が回答している。しかし、特例給付を受け取れなくなった場合にも2人目以降の妊娠・出産を希望すると回答したのは12%と、大幅減の結果になった。
また主たる生計者の年収が800万円以下の層でも、年収の判定基準が現在のままの場合、2人目以降の妊娠・出産を希望する(とても希望する・少し希望する)と50%が回答したのに対し、判定基準が見直され世帯単位となった場合も2人目以降の妊娠・出産を希望すると回答したのは19%と、こちらも大きく減少した。
理由には、以下のようなコメントが寄せられた。
「収入が少ないので、支援のない中での子育ては不安」
「判断基準が見直され世帯年収になった場合、忙しく共働きして頑張っているのが馬鹿らしく感じる。実際、子どもを養っていくお金もない」
「子どもにきちんと教育を受けさせることができるか不安だから」
「税金をかなり払うため、年収1000万もらっても3人育てるのは本当に大変」
不妊治療の所得制限撤廃との整合性は?
コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会 緊急提言(参考データ)
出典:内閣府・男女共同参画局HPより
内閣府「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」は11月19日、「新型コロナウイルス感染症の拡大は、特に女性への影響が深刻であり、『女性不況』の様相が確認される。 2020年4月には非正規雇用労働者の女性を中心に就業者数は対前月で約70万人の減少(男性の約2倍)となり、女性の非労働力人口は増加(男性の2倍以上)した」と警鐘を鳴らす緊急提言を発表。
独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の周燕飛・主任研究員は「仕事か家庭かの二者択一で就業を控える女性も増加している」と毎日新聞の取材に答えている(毎日新聞2020年11月14日)。
コロナ禍による女性の就業者の減少や、家事育児負担の増加などによる働き控えは日本だけではない。
9月にマッキンゼー・アンド・カンパニーがアメリカとカナダで働く女性4万人を対象に行った調査によると、4人に1人がコロナを機に離職や就業時間を短縮したいと考えていたという。
今回の調査結果が示すのは、児童手当の特例給付の減額や廃止は、女性たちにさらなる「働き控え」を強いる懸念があるということだ。これは「女性活躍」を謳う政府の姿勢と逆行しているのではないか。
また菅義偉首相は、不妊治療の費用助成制度の所得制限を2021年度から撤廃する意向を示している。妊娠への支援はしても、その後に続くものがなければ、当然、「産み控え」を決断する家族が増えるだろう。
雇用が冷え込む中、整合性のない政策で女性たちを混乱させ、キャリアや子育てを断念させている場合ではない。
Business Insider Japanでは子育てとお金の問題について取材を続けています。今回の児童手当の縮小についての考えや、それによる影響。またコロナによる働き方、子育ての変化でぶつかっている壁やモヤモヤがあれば、ぜひ教えて下さい。ご連絡は ikuko.takeshita@mediagene.co.jp まで。(個人情報の取り扱いについては下記の規約に同意の上でご連絡ください。)
(文・竹下郁子)