最大の支援は「数字を作ること」。ゴールドマン・サックス出身社長が考えるSDGs【連載サーキュラーエコノミー5】

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撮影:竹井俊晴

アフリカ伝統のファブリックを使ったTシャツやポーチで人気のアパレルブランド「CLOUDY」。CLOUDYは売り上げの一部をアフリカの教育や雇用を支援する活動に使っていることでも知られている。ブランドを率いるのは、外資系証券会社出身という異色の経歴を持つ銅冶(どうや)勇人さん。CLOUDYが「支援とビジネスを両立させている」と評される理由は何なのか。渋谷・宮下パークにオープンした初の常設店舗に、銅冶さんを訪ねた。

アフリカのスラム街で感じた衝撃が原点

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DOYA代表取締役社長の銅冶勇人さん。2008年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。2010年、同社在職中に特定非営利活動法人Dooooooooを設立。2015年に同社を退職し、同年1月、株式会社DOYAを設立。9月にブランド・CLOUDYを立ち上げた。

2020年にはリサイクル素材のTシャツの販売も始めたCLOUDY。インタビューの冒頭で「サーキュラーエコノミー」という言葉を口にすると、銅冶さんから逆質問を受けた。

「サーキュラーエコノミーをどう定義されていますか?」

一時の流行や、表面的な理解でブランドを語ってほしくない。言葉にはされなかったものの、この質問の背景に銅冶さんの強い意思を感じる。

これまで約10年にわたって、ケニアやガーナを中心としたアフリカ諸国において、教育、雇用、健康面での支援活動を続けてきた。その原点はケニアへの卒業旅行にある。

「『ここには一生で二度は行かないだろう』という場所に旅をしたいと考え、マサイ族の家庭にホームステイをさせてもらいました。スラム街で、想像を絶する貧困や不衛生、そして何より『教育を受けられない子どもたちがいる』という事実に初めて向き合った。この問題の解決に一生かけて取り組もうと決意したんです」

大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。激務の日々を送りながらもアフリカを支援したいという思いは消えず、入社3年目の2010年に特定非営利活動(NPO)法人Dooooooooを設立する。当初は教育を受けられる環境を整備するための支援を続けていたが、その後は雇用の創出のための支援にも手を広げていった。

「活動を通じてアフリカのことを知るにつれ、ほとんどの国で絶対的に仕事が足りていないという現実に気付いたのです。教育も大事だけれど、雇用も生み出さないと意味がないと思いました」

無断欠勤、遅刻…文化の違いをどう克服したか

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ブランドの原点とも言えるポケットTシャツ。ポケット部分の素材はアフリカの伝統的なファブリックを使用しており、製作も現地の工場で行っている。

CLOUDY提供

現地の人たちを継続して雇用でき、生産した商品は日本で販売することでしっかり収益を上げられるビジネスはないだろうか。行き着いたのがアパレルだった。

「アフリカの街を歩いていると、ミシンを使っている人をよく見かけます。つまり、縫製という作業が生活の中に根付いている。そしてアフリカ伝統のファブリック(織物)もあって、その民族柄は日本にはない個性を持っています。これを活かした商品を作って、日本のアパレル業界で新しいスタイルのビジネスを展開できれば、チャンスは十分にあると感じました」

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アフリカの色鮮やかなファブリックを使用したポーチも、CLOUDYの人気商品。現地の女性によって一つずつ手作りされている。

ブランドの立ち上げにあたって、この事業に集中すべきだと考えた銅冶さんは2015年に会社を辞め、同年1月にDOYAを設立。同年9月にはブランド・CLOUDYを立ち上げた。傍目には順調に感じられるが、その裏には異国でビジネスを進める苦労もあった。

「想定外のことがたくさん起きました。遅刻や無断欠勤は当たり前。理由を聞くと、『神様が休んでいいと言ったから』。また、食べ物を買うお金が欲しくて、商売道具のミシンを売り払ってしまった人もいました。日本人からすると『あり得ない!』というトラブルが次々と起こるんです。

でも、そのあり得ないは私たちの“ものさし”。私たちの“ものさし”を押しつけて進めてしまっては、ビジネスも絶対にうまく行きません。彼らとビジネスを進める中で学んだのは、お互いの文化や考え方を尊重し合って、両者で共通の“ものさし”を作ることが大切だということでした」

最大の支援は「数字を上げること」

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CLOUDYの支援活動には、雇用、教育、健康の3つの柱がある。

CLOUDYサイトより

CLOUDYの売り上げの一部は、NPO法人Dooooooooの活動資金に充てられ、アフリカでの学校建設、女性や障がい者の雇用支援などに使われている。株式会社とNPOという2つの法人の活動が直結し、支援のための両輪となっているのだ。

「NPOでは教育や人材育成などの支援活動を行い、そこで育った人材がCLOUDYのモノづくりに参加し、その売り上げの一部がNPOに入る。そのサイクルこそが私たちの特徴であり、強みにもなっていると思います」

NPO法人だけでも十分ではないかと言われることもあるという。だが、「現地にとって一番の支援は数字を上げること。つまり収益を生んでいくことだ」と断言する。

収益を上げることと、支援を続けること。どちらも重要で、両立できなければ長くは続かない。銅冶さんの考えの背景には、いわゆる“エシカルブランド”や“フェアトレードブランド”の、社会での位置付けに対する問題意識もある。

「多くの場合、自分たちがどういう支援をしているのか、どういう理念で運営しているのかということを前面に出しすぎじゃないのか。個人的にはそう感じています。なぜなら、それをすることでブランドの支援内容や運営理念にあまり興味がないお客様には、距離感を与えてしまう」

CLOUDYがアパレルブランドとして一番大事にしているのは、必要とされるブランドになること。それができて初めて、支援内容や運営理念を知ってもらえ、支援活動の継続につながる。決して理念の押し付けになってはいけない ——。そう語る銅冶さんの口調は、穏やかながらも強かった。

必要なのはきっかけ。仰々しいメッセージは要らない

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2020年10月、東京・渋谷の宮下パークにオープンしたCLOUDY初の常設店舗。店舗内には、アフリカの写真や支援内容を説明するパネルなどは飾られておらず、一般的なアパレルブランドと同様にオシャレな雰囲気だ。

この考えはあらゆるところで徹底されているように感じられる。CLOUDYの商品には仰々しいメッセージはなく、商品タグをよく見れば売り上げの一部が支援に使われていると分かる程度だ。

「店内にアフリカの写真は一切飾っていません。もちろん、店頭での接客やSNSでの発信などを通して、お客様にそういったこともお伝えはしています」

日本では、途上国への支援などに意欲がある人はまだ少数派だと銅冶さん自身も感じている。

「『何か良いことをしたい』と思っている人に買ってもらうだけでは、ブランドはいずれ行き詰まってしまう。それ以外の人たちにアプローチして『ただ商品を気に入って買ったけど、こんなに良い活動をしているんだ』と気付いてもらえたらいい」

リサイクル素材だからと妥協しない着心地

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製造過程で水を極力使わず、ペットボトルと洋服のリサイクル素材を使用したSHARE T-shirts 2700。三菱商事ファッションと共同開発したというリサイクル素材は、綿のような肌触りでありながら、速乾性もある。

CLOUDY提供

2020年には、製造過程で水を極力使わず、ペットボトルと洋服のリサイクル素材を使用したTシャツ「SHARE T-shirts 2700」をラインアップに加えた。

「綿のTシャツ1枚を生産するのに2700リットルもの水が使われているという事実を知ったことがきっかけでした。リサイクル素材だからと妥協するのではなく、着心地にもデザインにもこだわって、これを着ていることで誰かに自慢したくなるような商品に仕上がったと思います」

このような商品を購入することで、誰もが環境問題の解決に参加できるということに気付いてもらえると嬉しい、とここでも銅冶さんは言った。

コロナウイルスは、ファブリックの産地であるアフリカも直撃した。日本からの出張もままならない中での次なるチャレンジについて、銅冶さんはこう語る。

「商品作りでは、デザイン面でさらなる強化を考えています。具体的には、伝統柄のファブリックだけでなく、現地のデザイナーによる新作のテキスタイルも取り入れていくつもりです。アフリカではまだデザイナーという職業の認知が進んでいないので、CLOUDYから世界的なデザイナーを輩出するという壮大な目標もあります。

マーケティング面では、外部のショップやブランドとのコラボが進行中です。これまでアプローチできていなかった人たちにもCLOUDYを知ってもらい、そこから途上国への支援にも目を向けてもらうきっかけになれればいいなと考えています」

(文・加藤肇、撮影・竹井俊晴、連載ロゴデザイン・星野美緒、編集・高阪のぞみ)

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