カリフォルニア州の風車洞窟の天井に描かれた壁画を、見やすく処理した画像。
Devlin Gandy
- カリフォルニア州の洞窟の天井に描かれた赤い風車のような絵は、精神作用のあるチョウセンアサガオを表していると考えられている。
- 研究者たちは最近になって、洞窟の天井の割れ目に詰められていたチョウセンアサガオを噛んだ後の残りかすを見つけた。
- この発見は、壁画の現場で幻覚剤が使用されていたことを示す初めての明確な証拠となった。そして、幻覚作用を強めるために壁画が描かれた可能性を示唆している。
研究者たちは長年、幻覚剤が壁画に何らかの役割を果たしている可能性が高く、南極以外の6つの大陸の断崖や洞窟を彩る鮮やかな絵にインスピレーションを与えたと考えてきた。しかし、新しい研究によると逆である可能性も出てきた。洞窟壁画は、薬物で引き起こされる幻覚作用を視覚的に高める役割を果たした可能性があるというのだ。
2020年11月23日、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に、カリフォルニア南部のサンタバーバラとベーカーズフィールドの間にある洞窟についての論文が掲載された。この洞窟は古くから先住民チュマシュ族が暮らしていた場所にあり、天井に風車のような壁画が描かれていることから「風車洞窟」と呼ばれている。その風車は、摂取すると強い精神作用が得られるというチョウセンアサガオのようにも見える。
論文の筆頭著者であるデビッド・ロビンソン(David Robinson)は、2007年からこの洞窟を調査してきた。彼と考古学者のチームは、チョウセンアサガオを噛んだ後の残りかすを発見し、分析してきた。これらのかすは洞窟の天井の割れ目に詰められたもので、490年前まで遡ることができるかもしれないという。彼らの分析によると、この洞窟は1530年頃から1890年まで人間に利用されていて、その間にチョウセンアサガオの咀嚼が行われていたことは「ほぼ間違いない」。
これらを考え合わせると、この風車洞窟は幻覚剤と壁画を結びつける証拠が見つかった最初の場所ということになる。
壁画が先か、幻覚剤が先か?
カリフォルニアの先住民は、何世紀にもわたってチョウセンアサガオを利用してきた。かつてチュマシュ族は、チョウセンアサガオからトロアチェという飲み物を作り、成人の儀式で精霊と出会うための「ビジョン・クエスト」を行う前にそれを飲んだ。彼らの神話でチョウセンアサガオは、モモイという名の人知を超えた老女として擬人化されている。
風車洞窟に描かれているのは、チョウセンアサガオとその花粉を媒介するスズメガの幼虫の姿のように見える。研究者らは、チュマシュ族の人々が酩酊状態ではないときにこの絵を描き、「共同体験を視覚的に促すための触媒」として、あるいは単にチョウセンアサガオを摂取できる場所を示す目印として利用していたと考えている。
今回の分析結果は、シャーマンが1人で洞窟に入って幻覚を体験していたとする「孤独なシャーマン」説とも相反するものだ。「かす」の密度と洞窟内に道具が多く残されており、チュマシュ族の多くの人々がこの空間を利用していたと考えられるからだ。
「これは共同体全体で利用していた場所だ」と、イギリスのセントラル・ランカシャー大学で考古学の講師を務めるロビンソンは、ライブ・サイエンスに語った。
夕方に開き始めたチョウセンアサガオのつぼみ。
Melissa Dabumalanz
さらに、論文によると、これらの壁画が植物やその花粉媒介者を想起させるという事実は、芸術的なインスピレーションを得ようとして幻覚剤を摂取していたという考えと矛盾するという。風車洞窟の壁画は、植物の幻覚作用により神や霊的な存在が描かれたようには見えないからだ。「壁画にはトランス状態で見えたイメージが反映されている、という仮説に疑問が投げかけられた」と論文には記されている。
政策により阻止された儀式
論文の共同執筆者であるデブリン・ガンディ(Devlin Gandy)によると、チュマシュ族にとってのチョウセンアサガオの共同体の儀式における役割の重要性を考えると納得がいくという。
「チョウセンアサガオは幻覚剤以上のものだ」とガンディはナショナルジオグラフィック誌に語った。
「一種の祈りであり、浄化や癒やしのために利用される神聖な存在だ」
チョウセンアサガオの花から蜜を吸うスズメガ。ワシントン州シアトルで撮影。
Thomson Reuters
20世紀に入って、アメリカ政府は先住民に対して強制的な同化政策や先祖代々の居住地からの追放などを行い、チョウセンアサガオを使った儀式を含む各部族に伝わる儀式も抑圧してきた。1978年になってようやく、先住民の宗教的自由を守るアメリカインディアン宗教自由法が、当時のジミー・カーター(Jimmy Carter)大統領によって制定されたが、チュマシュ族の人々はもはやこの植物を摂取しなくなっている。
チュマシュ族を含むテジョン族の広報担当者であるサンドラ・ヘルナンデス(Sandra Hernandez)は、彼女の祖先とチョウセンアサガオの関係に感銘を受けたと、ナショナルジオグラフィック誌に語った。
「祖先がどれほど賢明だったのかを知ることがいかにすばらしいかを表す言葉がないと感じることがある。この感覚から逃れることはできない。我々が物事を理解できるのは、創造主と交わり、自然と交わっていたからだ」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)