決済データは嘘をつかない。「新型コロナが“日本分断”を加速」した現実 ── いま目を向けるべきは何か

新型コロナウイルス感染症拡大

新型コロナウイルス感染症がまた拡大している。

撮影:今村拓馬

再び新型コロナウイルスの感染が拡大している。

既に第3波襲来を指摘する声も聞こえるが、新型コロナウイルスは経済へ大きな打撃を与えただけではなく、日本においても分断を加速させたと考えている。今回は経済指標とオルタナティブデータから、分断の実態を確認していこう。

国民の懐事情は厳しくなっている

雑踏

撮影:今村拓馬

国税庁が9月に発表した「民間給与実態統計調査」によると、2019年の1年間に民間企業で働く人が得た平均給与は前年比1.0%減の436.4万円と7年ぶりに減少した。

2020年は新型コロナウイルスの影響で業績を落とした企業も多いため、民間給与は下がる可能性が高い。

既に2020年の夏季賞与が前年より少なかったという人も多いと思うが、新型コロナウイルスの影響が出るのは冬季賞与だ。コロナによる大打撃を受けた日本航空の夏季賞与は半減となったが、冬季賞与は8割減との報道もある。

公務員に目を向けても、暗い話題がある。2020年度の国家公務員のボーナスを引き下げる給与法改正案が11月6日に閣議決定された。引き下げは10年ぶりとなる。

新型コロナウイルスの影響によりリモートワークが普及したことで、残業時間も減少している。厚生労働省の毎月勤労統計調査のデータを基に作成したグラフからも分かる。

現金給与総額と所定外労働時間の推移(前年同月比)

従業員5人以上、2020年9月は速報値。

厚生労働省『毎月勤労統計調査』のデータを基に株式会社マネネが作成。

残業代が減ってしまったことで消費を絞らざるを得なくなってしまった人も一定数いるだろう。

さらに問題なのは、残業時間も同じく減ったのであればまだフェアだが、実体としてはオンラインでつながり続けているためにサービス残業自体は増えている可能性があることだ。

しわ寄せは非正規に向かうも今後は……

夕暮れ

撮影:今村拓馬

手取りが減っただけならまだいいじゃないか。そんな声も聞こえてきそうだ。

新型コロナウイルスの影響で失職した人は多い。しかし、失業者数の増加という表面的な減少だけではなく、その内訳を見てみると、日本の社会が抱える根本的な問題が見えてくる。

厚生労働省が発表した「労働力調査」のデータに基づいて、雇用形態と性別で区分けしていくと、しわ寄せは非正規に集中している。そして、過去と比較して違うのは女性の比率が高まっていることだ。新型コロナウイルスの影響によってサービス業の多くで解雇者が続出したが、女性の非正規雇用が多く従事していたということが背景にあるだろう。

雇用形態・性別 雇用者数の推移(前年同月差)

厚生労働省「労働力調査」のデータを基に株式会社マネネが作成。

しかし、今後は正規雇用にも波及していくと考えられ、正しい経済政策を打たなければ失業者がさらに増加し、ひいては自殺者数の増加にもつながりかねない。

堅調だった労働市場は一変した

この数年は失業率をはじめとする労働関連の指標は堅調だった。それが、消費増税があった2019年10月頃から徐々に悪化し始めていた。そして2020年に入り、新型コロナウイルスの感染が拡大すると急激に悪化が進んだ。

労働関連指標の推移

失業率は季節調整値。有効求人倍率はパート含む。

厚生労働省『毎月勤労統計調査』のデータを基に株式会社マネネが作成。

一方で、一部のエンジニアや金融業界では「条件が良い職種へ転職」をしている人が増えているとも聞く。

リモートワークの恩恵を享受しているエンジニアはむしろ転職活動がしやすかったり、実体経済がボロボロでも株式市場は堅調なことによって、金融業界では積極的に人材を集めているという背景があるようだ。

日本でも分断は加速している

横断歩道

撮影:今村拓馬

このように雇用形態や性別、職種や業種でコロナ禍における収入や労働環境に大きな違いが生じている。

現金を含む消費全体を捉えた消費動向指数「JCB消費NOW」(※)を細かく分類してデータを見てみると、新型コロナウイルスは分断をさらに加速する要因になったことが分かる。

消費動向指数の推移(前年同月比)

JCB/ナウキャスト「JCB消費NOW」のデータを基に株式会社マネネが作成。

コロナ禍においても、飲食料品や水道光熱費などは「生活必需品目」のため、収入や労働環境に関係なく支出対象となる。一方で、旅行などの娯楽やぜいたく品の購入は感染を避けるために控えられたことがグラフから分かる。

所得が低いと、もともと娯楽やぜいたく品にお金を使うことは少ないため、コロナ禍においては所得が減る一方で、支出する金額はそこまで変わらない。

高所得者も多少は所得が減ったかもしれないが、それ以上に娯楽やぜいたく品への支出が減ったことで、それほど経済的なダメージを受けなかった。さらには前述の通り、株式市場は絶好調なのである。

アメリカでは人種問題も絡み、分断に対する不満がBLM(Black Lives Matter)という運動につながった。しかし、日本においても、同様に分断が着々と加速しているということには留意したい。

JCB消費NOW:JCBグループ会員のうち、匿名加工された約100万会員のクレジットカード決済情報をもとにJCBとナウキャストが算出した消費動向指数

(文・森永康平


森永康平:証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。現在はキャッシュレス企業のCOOやAI企業のCFOも兼任している。​著書に『MMTが日本を救う』(宝島社新書)や『親子ゼニ問答』(角川新書)がある。日本証券アナリスト協会検定会員。

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