フォードは新型EVバン「イートランジット(E-Transit)」を発表した。
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- フォードが新たに発表した電気自動車(EV)バン「イー・トランジット(E-Transit)」の航続距離は126マイル。
- 300マイル以上走れる他の多くのEVに比べると見劣りする。
- しかし、フォードの新たな最高経営責任者(CEO)の考えでは、この設定はターゲット層にジャストフィットだという。
- 「一般の消費者はバッテリー(車載電池)に金をかけすぎる。しかし、商用EVを必要とする顧客は必要以上の性能にはお金は払わない」とジム・ファーリーCEOは語る。
語り継がれてきた歴史と、「マスタング」や「F-150」のような愛される名車を抱えるフォードは、地球上で最も有名な自動車メーカーのひとつ。とは言うものの、競争の激しいアメリカの乗用車市場に同社が占めるシェアは15%以下にとどまっている。
フォードのパネルバン「トランジット」はさほど広く知られている車種ではないものの、輸送用あるいは工事のような移動作業向けに使う人たちの間では一種のレジェンド。このトランジットこそが、アメリカの商用車市場でフォードが50%のシェアを占める主な理由だ。
創業117年のフォード社内、とりわけ10月に就任したばかりのジム・ファーリーCEOがこのトランジットに着目し、EVバン「イートランジット」を発表するに至ったのは、そうした市場の状況が背景にある。
2008年の金融危機後、4代目のCEOであるファーリーは、確立された商用車市場での優位性を活かし、イートランジットをデータ駆動型ビジネス強化の原動力にしようというわけだ。
シェア10%の維持もおぼつかない自動車販売より、コネクティビティのほうが利益率が高いと気づくことになる、ファーリーはそう語る。
ところが、そうしたきわめて重要な車種であるにもかかわらず、イートランジットは驚くほど航続距離が短い。わずか126マイル(約200キロ)だ。
これまでのEVでは、より大きくより高効率の車載電池を搭載することこそが、内燃機関車との差別化につながってきた。
テスラは1度の充電で300マイル(約480キロ)以上走れるモデルを販売している。この秋生産開始したフォード「マスタング・マッハE」も300マイル超え。2022年市場投入予定の、期待のピックアップトラック「Fシリーズ」も“300マイルクラブ”に名を連ねるだろう。
しかし、ファーリーはこの300マイルに執着がない。輸送用車両として使うことの多いバンの購入者と、日常の足を必要とする一般消費者のニーズは異なるからだ。彼はBusiness Insiderに対してこう語った。
「一般の消費者はバッテリー(車載電池)に金をかけすぎる」
なるほど確かに、普通の人が販売店に車を買いに行くとき頭の中に思い浮かべるのは、いかに素敵なドライブを楽しめるかであって、毎日10マイル(約16キロ)の通勤をすることではない。
「しかし、商用EVを必要とする顧客は必要以上の性能にはお金は払わない」
商用車として「過不足ない」航続距離と価格
「イートランジット(E-Transit)」の航続距離はわずか126マイル(約200キロ)にすぎないが……。
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イートランジットの主な購入者としては輸送業者が想定されており、それゆえに価格は4万5000ドル(約470万円)以下に設定されている。車載電池の容量は67キロワット時、航続距離は先述のように126マイル。
「商用車の購入者は、航続距離をまったく別の視点で見ている」ため、イートランジットの「過不足のなさ」は強いアピールポイントになる、ファーリーはそう見る。
商用車ユーザーにとって最も大事なのは、価格、ユーティリティ、操作性だ。フォードはガソリン車のトランジットから得られた3000万マイル分のデータを分析し、イートランジットの航続距離はおよそ130マイルが適切であるとの結果をはじき出した。
同社の北米エリア商用車部門を率いるテッド・キャニスはこう語る。
「運転ルートを知り尽くし、都心での配送業務が多い商用のユーザーにとって、イートランジットはまさに理想と言えるだろう」
「価格の手ごろ感は非常に重要だ。商業車を購入する顧客の目的は、仕事をやり遂げることただ一つだから。イートランジットは必要十分な航続距離をそれにふさわしい価格で提供することで、EVへの移行を容易にする。フォードの新たな戦いはいままさに始まったところだ」
[原文:Ford CEO Jim Farley reveals the key difference between the two main types of electric car customers]
(翻訳・編集:川村力)