アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の提供するクラウドサービス契約の実態が見えてきた。
REUTERS/Ivan Alvarado
- エアビー(Airbnb)が新規株式公開(IPO)に際して提出した書類から、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が提供するクラウドサービス料金の柔軟性が明らかになった。
- クラウド業界コンサルタントのコーリー・クインによれば、クラウドサービスの契約交渉を優位に進めるには単純なコツがある。
- AWSのアカウントマネージャーは、しばしばインセンティブを顧客に提供する。ディスカウントやクレジットの類いがそれで、アカウントマネージャーはそれぞれ年間100万ドル以上の枠をもっている。
- 本記事の内容についてAWSにコメントを求めたが、返答はなかった。
他のクラウドプロバイダーと同様、AWSも、複数年契約を結ぶ顧客や、一定金額を超える顧客に対する値引きを行っている。エアビーが米証券取引委員会(SEC)に最近提出した書類を読むと、AWSの契約とそれに伴うインセンティブにはある程度の幅があることがわかってくる。
エアビーはもともと、2024年までのクラウドサービスに少なくとも12億ドル(約1260億円)を支払う契約を結んでいた。
ところが、今年9月30日に内容が変更になり、(同じ金額で)2027年までの3年間、契約が延長されている。ブライアン・チェスキー最高経営責任者(CEO)が、AWSのクラウドサービスへの支出について「さらなる効率化を検討している」と発言した直後のことだ。
企業向けにクラウドコスト削減の支援を行っているダックビル・グループのコンサルタント、コーリー・クインは、このエアビーの契約変更は、AWSの他の既存契約も個別の交渉次第で、条件がさまざまであることを示していると指摘する。
クインのレポートによれば、写真・動画共有アプリのスナップ(Snap)も、2017年にAWSとの契約条件を再交渉。当初5年で10億ドル(約1050億円)だったのが、6年11億ドル(約1150億円)に見直されたという。
クラウド支出額の多い大企業の特権?
11月16日に米証券取引委員会(SEC)に上場を申請したAirbnbのブライアン・チェスキーCEO。
Mike Cohen/Getty Images for The New York Times
クインによれば、クラウドサービスの契約交渉を優位に進めるには単純なコツがある。担当のアカウントマネージャーを呼び出すことだ。彼はブログに次のように書いている。
「AWSとの契約交渉における最大の秘密がここにある。実は、アカウントマネージャーはAWS内であなたの会社の代弁者として動いてくれるのだ」(クイン)
AWSのアカウントマネージャーは、新サービスの利用を促したり、IT予算をより多くAWSのサービスに配分するよう説得したりするため、しばしばインセンティブを顧客に提供する。
「もっとはっきり言うと、あなたの会社がAWSに大金(例えば年間100万ドル以上とか)を支払っているなら、ディスカウントやクレジットの対象になる可能性があると考えていい。
こうした仕組みは外部には知らされていないことが多く、どんなインセンティブがあるのか、自社で契約しようとしている条件は良いのか悪いのか、契約のどの段階でそうしたインセンティブを受けられるのか、把握するのは難しい」(クイン)
クインのこうしたブログ投稿に対し、AWS元バイスプレジデントで著名エンジニアのティム・ブレイも自身のツイートで触れ、同意を示している。
「僕が(AWSの)内部で見てきたことと合致する内容だね」
ちなみに、アマゾンのブライアン・オルサブスキー最高財務責任者(CFO)は今年7月、パンデミックに苦しむ顧客企業のコスト削減につながるよう、クラウド使用量を削減する方法を検討してきたと発言している。
「(パンデミックの影響で)どの企業も必死で経費削減を進めており、とくにホスピタリティ(接客)産業や旅行産業は非常に厳しい状況が続いている。当社は営業チームを中心に顧客企業の経費削減に何か貢献できないか、方法を模索している」
しかし、このオルサブスキーCFOの発言は、パンデミックに苦しみクラウドコストの削減を望む企業顧客にAWSが寄り添っていないとの批判が相次いでいることを意識したものであって、エアビーとの契約条件を見直した直接の理由とは言えない。
結局、エアビーのような大企業はAWSと交渉しやすい立場にある、というのが正解なのだろう。
複数年にわたる契約は、AWSのようなクラウドプロパイダーにとって安定収入源になるだけでなく、他の競合サービスと見比べて契約先をコロコロ変える顧客への(不要な)インセンティブを削減することにもつながる。
なお、多くの企業はクラウドサービスへの支出額を公開していないが、株式を公開している企業については、複数年契約を締結した際に投資家向けに情報開示するケースもある。
(翻訳・編集:川村力)