撮影:鈴木愛子
幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
今回は読者の方からお寄せいただいたご相談にお答えします。テーマは「30代後半でのキャリアチェンジ」。
相談者の方は、営業から企画職へ移りたいとのこと。しかし、「適性に自信がない」「新しいスキルを磨くには手遅れではないか」という悩みを抱えていらっしゃいます。
新たなスキルを磨くのに「手遅れ」ということはない
「未経験だけどやりたいことにチャレンジするか、これまでの経験を活かすべきか」——転職相談の場面でも、このお悩みによく遭遇します。
転職市場においては、30代前半までは異分野へのキャリアチェンジが比較的しやすいのですが、30代後半になると即戦力を求められるケースが多く、キャリアチェンジのハードルは上がります。
しかし、あきらめるべきだとは思いません。やりたいことがあるならチャレンジしたほうがいいと、私は思います。
「人生100年時代」が到来し、この先、70代まで働くことも当たり前になっていくでしょう。そう考えれば30代後半は、世阿弥の世界観では「守破離」の「守」。いわゆる「基礎を磨く」世代とも言えるのではないでしょうか。
ビジネス人生は長くなっているのですから、新たなスキルを身につけるのに「手遅れ」なんてことはありませんし、やりたいことをやったほうが楽しく働き続けられるはず。実際、40~50代で未経験の領域にチャレンジし、能力を開花させた方を私はたくさん見てきました。
選択肢1:転職する場合
では、現実的に、今のAさんにどんな選択肢があるかを考えてみましょう。
企画職としてスキルを磨きたい、けれど今の会社では企画の仕事を続けることを許されない……となれば、企画職として迎えてくれる会社に転職する手もあります。ただし、企画職としては未経験に近く、実績もまだ挙げられていないのですから、報酬には期待できません。
受け入れられるとすれば、中小ベンチャー企業でしょう。営業人材のニーズは高いので、これまでのキャリアを活かし、即戦力として営業活動を担いながら、横に染み出していく形で企画の仕事にも関わる。そして、企画業務で成果を挙げたうえで、本来の希望である企画中心のミッションに移行していく……そうした形なら、可能性があると思います。
ただし、そうした転職の場合は年収が下がる可能性があるため、覚悟は必要です。入社後、成果を挙げて年収水準を回復していけるかどうかは自分次第です。
選択肢2:今の会社にとどまる場合
扶養家族がいたり住宅ローンがあったりと、年収ダウンを受け入れられない状況であれば、今の会社にとどまるのも選択肢の一つです。
企画担当から外されたとしても、企画職への道が完全に閉ざされたわけではないと思います。これからの仕事ぶりや成果によって、評価が変わることは十分にあり得ます。
そもそも、入社してまだ2年ほどしか経っていないAさんに対し、会社の一方的な適性評価が正しいかどうかも分かりません。
「会社の適正評価が必ずしも正しいとは限りません」と森本さん。
撮影:鈴木愛子
Aさんが理想とするような企画職に、一足飛びにはなれないとしても、回り道をしながらでも徐々に近づいていけるように、キャリア戦略を練ってはいかがでしょうか。
会社からは「ゼロから何か生み出す仕事には向いていない」と指摘されたとのことですが、世の中の企画職の多くは、天性のセンスによって成果を挙げているわけではありません。重要なのは場数を踏むことです。
「企画担当から外されてしまったら、場数を踏むこともできない」と思われるかもしれませんが、今の時代、自社でできない経験を他社で積む経験をするチャンスは豊富にあります。
近年、企業が副業(複業)を解禁する動きが広がる中、副業者を受け入れる企業が増えています。報酬には期待せず、「スキルを磨く」という目的で、他社での企画業務に携わるチャンスが拡大しています。
あるいは、ボランティアでNPO法人での企画業務を担う手もあるでしょう。
ほか、「社会人インターンシップ」などに参加し、ワークショップなどを通じて、自社ではできない課題に取り組むこともできます。
そのように、社外での機会を利用して企画スキルを磨くと同時に、社内では高評価や信頼を築くことに力を注ぎましょう。
Aさんは、1年目に担当した、既存顧客へのリプレイスの交渉・再契約プロジェクトで高く評価されたとのこと。顧客折衝や調整のスキルレベルは高いとお見受けします。
ですから、今の会社の企画部門の中で、社内外との折衝業務を中心的に担う、あるいは営業部門で「営業戦略策定」など企画に近い仕事を担うなど、ご自身の強みを活かして成果を挙げられるように努めてください。
社内で確固たる信頼を獲得できた人は、いずれ自分がやりたいことをするチャンスを手に入れられるはず。今の会社で評価を得た上で、折に触れて会社に新しい企画の提案を行うなど、企画部門に戻るチャンスをうかがいましょう。
転職するにしても、今の会社にとどまるにしても、目の前の仕事で成果を挙げることと新しいスキルを身につけることを、同時進行で行わなければなりません。
それは大変な努力がいることですが、この先数十年に及ぶキャリアを納得感を持って歩んでいくために、ここでアクセルをぐっと踏み込んでみてはいかがでしょうか。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひアンケートであなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
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※本連載の第41回は、12月14日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。