就活断念した元就活生ら、リクルートやAOKIに抗議の署名開始。女子学生に「美しさ」求める謎マナーの背景は

いまだ性差別が根強い就活マナー。そもそも服装指南が「男性向け」「女性向け」の男女二元論でのみ示されるのは、多様性に欠けているのではないか?

大手就活情報サイトやスーツメーカーなどの就活産業に向け、問題提起をする署名が始まった。立ち上げたのは、自身も就活マナーに苦しみ、就活を断念した経験を持つ元就活生らだ。

就活産業に性差別の根絶求める署名スタート

署名

署名活動「#就活セクシズム をやめて就職活動のスタイルに多様性を保証してください!」HP

出典:Change.orgのHPより

署名キャンペーン「#就活セクシズム をやめて就職活動のスタイルに多様性を保証してください!」を立ち上げたのは、都内のIT企業で働く会社員や就活を控えた大学生、そして既存の就活指南に疑問を抱くマナー講師ら約10人だ。

多くは、職場で女性にパンプスやヒールの着用を強制することに抗議する#KuToo運動の賛同者で、石川さんの行動に背中を押されたことが、今回の署名に繋がったという。

署名の宛先はリクルートキャリア、マイナビ、ディスコなどの大手就活情報サイトの運営会社と、AOKI、青山商事、はるやまホールディングス、コナカなどの、いわゆるリクルートスーツや靴などを販売する大手スーツメーカー。そして大学や専門学校などの高等教育機関、大学生協の全国組織である大学生協事業連合だ。

求めているのは、以下の2点。

・極端に二元化した男女別スタイルやマナーの押し付けをやめて、多様性のある装いのスタイルを提案して欲しい

・「女性はこうすべき」「男性はこうすべき」という偏った表現は差別や抑圧につながるため、見直して欲しい

女子学生に求められる「美しさ」「くびれ」

就活

出典:AOKI×マイナビ「究極の就活スーツ」HP

メンバーはこれまで就活情報サイトや就活マナーの指南本、大学などが学生向けに発行するパンフレットや、リクルートスーツ売り場に数多く足を運び、情報を集めてきた。

例えばAOKIの「究極の就活スーツ」というHPの女性向けスーツ紹介コーナーには、「女性らしい美しさ」「カービーシルエット」「女性らしさを引き立たせて、第一印象から美しく!!」などの文言が並ぶ。一方、男性向けにも「清潔感」「動きやすさ」「扱いやすさ」などの謳い文句があるが、

不可思議なことに、男性向けには『美しさ』という単語は1つも出てきません。『美しさ』が評価基準ではない、いや評価基準であることは許されないはずの就活において、女性のみに『女性らしい』というジェンダー規範に基づいた『美しさ』を強要するのは、ジェンダー・ハラスメントに該当します。さらにその『女性らしい美しさ』を『カービーなシルエット』という身体的性差によるものとするのは、完全なセクシュアル・ハラスメントではないでしょうか?」(メンバーの会社員の女性)

同様の記述はコナカや大学生協事業連合でも見られたという。

また#KuToo運動が広く知られるようになった今でも、就活情報サイトではヒールのあるパンプスが基本であるかのような記述がなされ、スーツメーカーの就活コーナーのHPや売り場でも同様の状況だ

ノーメイクはマナー違反?女性の身だしなみにかかる時間は男性の倍

資生堂

資生堂の就活生などを対象とした「女性向けフレッシャーズコース」講座

出典:資生堂ビューティ講座HPより

女性のみに課されるマナーの最たるものはメイクだろう

どの就活サイトを見てもノーメイクはNGになっており、例えばリクナビの就活マナーでは「ノーメイクだと不健康に見られがち。だからといってビジネスシーンに合わないほど派手なメイクはNGだ。アイシャドーや口紅は薄めの色で、顔色が冴えないときはチークをプラスするなど、ナチュラルで健康的に見えるメイクをあらかじめ研究しておこう」と、入念な事前準備が促されている。

最近では化粧品大手による「就活メイク講座」なるものも広がっているが、資生堂では男性向けの実習講座時間が60分なのに対し、女性向けは120分。

「プログラムを見ると、どう考えてもメイクの項目分、女性に時間がかかっています。職場で求められる身だしなみのボリューム、費用も時間も、女性は男性の2倍という証拠です。持って生まれた顔立ちを『加筆修正』するメイクは、女性に職場で美しさが求められている証拠でもあり、性差別だと思います」(メンバーの会社員の女性)

女子学生に薬指の指輪はずすことを勧める理由に驚愕

就活

水野さんがこれまで集めてきた就活関連のパンフレットの一部。

提供:水野さん

他にも驚くべきものがマナーとして語られている現状もある。

「似合う似合わないにかかわらずよほどの理由がない限り、一次面接こそスカートで勝負をしていただきたい」。

左手薬指の指輪について「就職活動中は外すことをおすすめします。男子学生にはそれほど損はなくても、女子学生には間違いなく損だと考えている」とし、その理由として「『この学生には決まった相手がいるのか。ということは、近く結婚・出産もあるかもしれないな』と面接官から思われても仕方がありません」と述べている就活マナー指南本もあるのだ。

男女雇用機会均等法では、募集・採用について性別を理由とした差別的取扱いおよび、女性労働者に対し、婚姻、妊娠、出産などを理由とした不利益な取り扱いも禁止している。

署名メンバーらは出版社に抗議文を送ったが、返事は来ないままだという。

男性は「強くあるべき」「出世すべき」

就活

撮影:今村拓馬

マナーの押し付けはもちろん男性にもある。短髪や髭剃りを一律に求めるものもあるが、アイデンティティの問題であり、健康上の理由から難しい人もいるだろう。また、幹部候補生として見てもらえるような雰囲気の髪型・服装・雰囲気を目指すようにとの指南も見られたという。署名メンバーは言う。

「総合して『男性は強くあるべき』『出世を意識するべき』という精神に基づいた指南が節々に見られました。こうした指南は男性という性別を理由とした抑圧です。どのようなキャリアプラン・ライフプランを設計するかは個人の自由のはずです」

布団をかぶって死ぬことばかりを考えていた就活時代

就活

水野さんは半身男性向け、半身女性向けの規範とされる就活の装いで東京レインボープライドに例年参加し、この問題を訴えてきた。こちらは女性側。

提供:水野さん

署名立ち上げの中心人物である水野さん(30代)は言う。

「何を見てもどこに行っても、まるでこの世には女性と男性、2種類のジェンダーしか存在してはいけないかのような論調で、服装や振る舞いに関する指南がなされていました。このままでは、一定数の学生は就活で力が発揮できないどころか、アイデンティティを根本から破壊されてしまいます」(水野さん)

水野さんは身体女性だが、自身を女性にも男性にも当てはまらないと考えるXジェンダーだ。自身は2013年に大学を卒業したが、男女二元論で女性らしさを押し付ける就活マナーに苦しみ、外出もできず、就活を続けられない状況に追い込まれたという。

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同上。こちらは男性側。

出典:水野さん

「『女性らしく化粧をしなさい、ヒールつきパンプスとストッキングを履きなさい、さもなければ仕事が得られません』。こんなメッセージにさらされるうちに、次第に私は精神に支障をきたし、就活を断念せざるを得ませんでした。

もともとは多種多様なジェンダー表現をしていた大学の同期が、有無を言わさず一律にこの女らしさに回収されていく恐怖と、ヒールつきのパンプスが履けない自分が出来損ないであるという思い、親への申し訳なさから、私は外に出ることができなくなり、布団をかぶって毎日死ぬことばかり考えていたのです」

これは#KuTooの記者会見で、前出の石川さんが読み上げた水野さんによる手記の一部だ。ぜひ「ヒールパンプスで就活断念した元就活生『履けない私は出来損ない』。#KuToo は身体的ダメージだけじゃない」で全文を読んで欲しい。

マナーを作っているのは誰か?多様性は貧困学生への一助にも

就活

水野さんが東京レインボープライドに持参したプラカード。選択肢のない現状は、ガイドラインとは言えないだろう。

提供:水野さん

署名立ち上げメンバーには、水野さん同様、就活の服装マナーに馴染めず、就活を断念した女性(30代)がもう1人いる。女性が就活したころは「女性の正装はパンツではなくスカート」という風潮が今より強かったそうだ。

幼い頃からスカートを履くことに違和感を感じていた女性は、就活で女性だからとスカートやパンプスを強制されることに耐えきれず、就活を断念した。

メンバーの1人である、2021年に就活を控えた大学生も、性差別が色濃い就活マナーを変えたいと、この署名プロジェクトに参加した。コロナ禍で就活もオンラインで行われることが増えている一方、大学が開くマナー講座では、従来通りのスーツやパンプス、カバンなどがマナーとして教えられているという。

就活情報大手の担当者にこうした身だしなみマナーについて尋ねたところ、

「企業の人事担当者はそれほど気にしていない一方で、学生からの質問がとても多い。本来、就活は中身で勝負するもの。身だしなみにリソースをさかずにすむよう、ガイドラインを示しているだけ」

という返答だった。

文部科学省、厚生労働省によると、2021年春卒業予定の大学生の10月1日時点の就職内定率は69.8%。この時期に70%を下回るのは、リーマン・ショック直後の2009年以来だ(調査は1996年開始)。

就活

撮影:今村拓馬

水野さんは言う。

「学生を不安にさせたり、無理にリソースをさかせたいわけではありません。流される学生が悪いと批判する人もいるかもしれませんが、『新卒カード』を失えば就職が困難と言われ、さらに内定率も悪い現状で、流されずにいられるのは難しいですよ。就活で一番弱い立ち場の学生に、全てのしわ寄せがいっているんです。

変わるべきは、マナーを売り物にしている就活産業です。

就活情報サイトの発信が、スーツメーカーの売り方が、一定数の人を傷つけ、踏みにじっているのだと知って欲しい。現在の状況はガイドラインを示しているとは言えません。だってその他の選択肢がないのですから」(水野さん)

学生の貧困も大きな社会問題になっており、就活生向けのレンタルスーツサービスも普及しつつある。「1着しか買えないから無難なものを選ぶ」という学生も少なくないだろう。

しかし今回の動きが広がり、就活時の服装に多様性が確保されれば、手持ちのジャケットを流用でき、スーツを新調する必要性自体がなくなるかもしれない。

署名は就活情報が解禁になる、2020年の3月頃まで続ける予定だという。

若者の人生の選択肢を広げるはずの就活が、性差別に溢れ、古い価値観に縛られている現状を、社会全体で再考する必要がある。

(文・竹下郁子

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