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お金で幸せは買えない。
「この格言は素晴らしいし、世間一般に信じられていますが、ほぼ間違いです」と自身が共著者として名を連ねた論文で書いたのは、ハーバード大学の心理学者ダニエル・ギルバート(Daniel Gilbert)氏だ。
お金のある人々が長生きし、より健康的な生活を送り、経済的な安定を謳歌し、余暇を楽しみ、日々自分がすることをコントロールできることから、ギルバート氏はお金が「幸せのチャンス」をくれるという。
ただ、お金でさらなる幸せは買えないことが混乱を招いていると、ギルバート氏とブリティッシュコロンビア大学のエリザベス・ダン(Elizabeth Dunn)氏とバージニア大学のティモシー・ウィルソン(Timothy Wilson)氏は言う。
心理学の研究では、一定の値 —— 年収5万ドル(約520万円)だとする研究もあれば、7万5000ドルだとする研究もある —— を超えると収入と幸せの相関関係が崩れることが分かっている。
お金は「人々が定期的に無駄遣いをする1つの機会だ。なぜなら、自分を幸せにしてくれるだろうと思っているものは、しばしばそうではないからだ」とギルバート氏、ダン氏、ウィルソン氏は言う。
だからこそ、彼らの論文のタイトルは『If money doesn't make you happy then you probably aren't spending it right(お金があなたを幸せにしないのなら、あなたは恐らくそれを正しく使っていない)』なのだ。
これらを踏まえ、『明日の幸せを科学する』の筆者でもあるギルバート氏とダン氏、ウィルソン氏はわたしたちが従うべきお金の使い方のルールをアドバイスしている。
1. モノではなく、体験を買おう
1000人を超えるアメリカ人を対象に行ったある研究では、回答者の57%が車や電化製品など物質的な"モノ"よりも、旅行やコンサート、その他のライフイベントといった"体験"を買うことでより大きな幸せが得られたと答えている。わたしたちは期待して待ったりそれを記憶することから"体験"が好きで、より長い間それをありがたく思うのだという。
ギルバート氏、ダン氏、ウィルソン氏は「新しいマンション用に完璧な樫木の床を選ぼうと何日も費やしたあと、住宅購入者はかつて自分たちが大好きだったブラジル産の桜の床が急に足元の注目されない地面と同じになっていることに気付く。対照的に、アフリカのサファリで夜明けに見たチーターの赤ちゃんの記憶は喜びを与え続ける」と指摘している。
2. 自分のためでなく、他人のためにお金を使おう
人間は地球上で最も社会的な動物だ。つまり、社会的なつながりによって、わたしたちの幸福度は高まるということだ。
こうしたつながりを育てることは、お金の使い道として実りの多いものだ。脳スキャンは、他人のためにお金を使うことで脳の報酬中枢が活性化することを示している。
「社会性のある支出は、社会的な関係に驚くほど大きなインパクトを与える」とギルバート氏、ダン氏、ウィルソン氏は言う。
3. 大きな満足をちょっとだけより、小さな満足をたくさん買おう
幸せに関する研究の重要な発見の1つは"適応の力"だ。わたしたちは常に自分の周りにあるモノには慣れてしまう。わたしたちは一緒にお茶をする友人、ベッドを共にする恋人、耳に入ってくる美しい歌に慣れっこになる。
大きな買い物も、しばらくすれば当たり前のモノになる。高級な最新のiPhoneも、数週間すればただのスマートフォンになるのは避けられない。
こうした理由から、自分にあまり高価でない"満足"を与えるのは幸福感を高める賢い方法だ。
「お金には限りがあることから、まれにより素敵なものを買うより、頻繁に素敵なものを買うのに経済的リソースを割く方が良いだろう」とギルバート氏、ダン氏、ウィルソン氏は言う。
4. モノへの保険はそこそこに
悪いニュース:わたしたちは良いことに慣れっこになる
良いニュース:わたしたちは悪いことに適応する
だからこそ、保険をかけるのはそこそこにしておこう。
「将来、後悔する可能性をなくすために人々は保証期間の延長や寛大な返品条件を求めるが、研究では保証は幸せのためには不可欠でないかもしれないし、返品条件は実際、幸せを台無しにするかもしれないと示している」とギルバート氏、ダン氏、ウィルソン氏は言う。
5. いま買って、あとで消費しよう
多くの心理学の研究が、楽しみを先延ばしにすることが満足を感じる、成功した、幸せな人生につながることを示している。
ところが、わたしたちの経済システム —— クレジットカードや「頭金なし!」があらゆるところで見られる —— は、いま消費をし、あとで支払いをするインセンティブを生み出している。
これが「借金を重ね、引退後の生活のための貯金をほとんどしない、近視眼的な行動につながる」とギルバート氏、ダン氏、ウィルソン氏は指摘する。だが「結局、報いを受けて、それが起きた時には人生がしばしば破滅してしまう」という。
期待による恩恵も受けられることを考えれば、いま買って、あとで楽しもう。
6. 自分が欲しいものを手に入れるのは実際どんな感じか、想像してみよう
何かを所有するのがいかに素晴らしいことか想像する時、わたしたちはディテールを忘れがちだ。
そして、幸せはディテールなのだとギルバート氏、ダン氏、ウィルソン氏は言う。だからこそ、大きなものを買う前に、その新しいものを所有することで起こり得る全ての"頭痛のもと"を考えてみよう。森の中の古い山小屋は蚊がいっぱいかもしれないし、その新しいスーツは追加の仕立てが必要になるかもしれない。
7. 比較購買は止めよう
わたしたちは比較購買することによって自分自身を欺くことがある。
「比較購買は、自分の幸せにとって重要なプロダクトの特性から消費者の目をそらさせ、代わりに実行可能な選択を区別する特性に意識を向けさせる可能性がある」とギルバート氏、ダン氏、ウィルソン氏は言う。
3人は不動産をひとつの例として挙げている。たくさんのオープンハウスを見て回っていると、控えめな家にそれなりの金額を払うより、他の物件に比べて良く見える広々とした家を買い、そのためにとんでもない額のローンを組んでしまう可能性がある。
8. 自分の友人に聞いてみよう
「研究は、ある"体験"を自分たちがどのくらい楽しめるかを予想する最良の方法は、実際にその"体験"をした人がどのくらいそれを楽しんだか知ることだと示している」とギルバート氏、ダン氏、ウィルソン氏は言う。
例えば、あなたの友人はあなたがどんな人とのデートを楽しめるか、あなた自身よりよく分かっていることを研究は示唆している。
「他人は何が彼らを幸せにしたかわたしたちに教えてくれるだけでなく、何がわたしたちを幸せにしてくれると彼らが思うか教えてくれることで、わたしたちに価値ある情報を与えてくれる」とギルバート氏、ダン氏、ウィルソン氏は話している。
つまり、お金を使う時は友人に相談しよう。そして、うまくいかなそうなこと、うまくいきそうなこと全てをイメージしてみよう。
(翻訳、編集:山口佳美)