ドロップボックス(Dropbox)主催のイベントに登壇したズームのエリック・ユアン最高経営責任者(CEO)。
Matt Winkelmeyer/Getty Images for Dropbox
- アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は11月30日、ズーム(Zoom)から「推奨クラウドプロバイダー」に選ばれたことを明らかにした。
- ズームは2011年にAWSとの協業を開始。マイクロソフトやオラクルともクラウド契約を結んでいるが、サービスの大部分は自社データセンターに依拠している。ただし、新型コロナの世界的流行が続くなかでビデオ会議の需要が急増、外部のクラウドサービスへの依存度が高まっている。
- 今年4月、ズームはオラクル(Oracle)と提携し、同社からクラウドインフラの提供を受けることを発表している。
ビデオ会議アプリ「Zoom」を展開するズームは、AWSを「推奨クラウドプロバイダー」に選んだ。急激な需要増に対応するためにオラクルと提携すると発表してから、まだ半年もたっていない。
ズームは2011年からAWSのクラウドサービスを利用してきたが、今回新たに推奨プロバイダとして複数年契約を結んだことで、両社の協業関係はより緊密になるとみられる。
例えば、ビデオ会議室システム「ズームルームス(Zoom Rooms)」にアマゾンのスマートアシスタント「アレクサ・フォー・ビジネス(Alexa for Business)」を連携させてAI機能を持たせ、将来的にはスマートスピーカー「エコーショー(Echo Show)」とZoomアプリを統合するといった展開も考えられる。
ズームが提供するビデオ会議室システム「Zoom Rooms」の製品紹介ムービー。
Zoom rooms
ズームのエリック・ユアン最高経営責任者(CEO)は声明で、AWSとの関係を次のように表現している。
「パンデミックの影響により全世界でかつてないほどの需要の高まりに直面したにもかかわらず、それを問題なくさばくことができているのは、クラウドベースのワークロードの圧倒的大部分を我々の推奨クラウドプロバイダーであるAWSが担ってくれているからだ。AWSのパフォーマンスとスケーラビリティ(拡張性)なしではこうはいかない」
「今後もAWSとともにイノベーションを続け、バーチャルなコラボレーションのあり方を革新し、安全かつエキサイティングな体験を顧客に届けていきたい」
テクノロジー専門メディア「プロトコル」記者のトム・クラジットによれば、ズームはビデオ会議のトラフィックの大部分を世界中に散らばる自社データセンターでホストしている。そして、AWSのアンディ・ジャシーCEOによると、それ以外のほとんどはアマゾンのクラウドインフラを活用しているという。
そうした状況がありながらも、ズームが常用しているクラウドはAWSだけではない。今年4月、パンデミックを背景に急増したビデオ会議需要をまかなうため、ズームはオラクルと大型のクラウド契約を結んでいる。
ちなみに、このズームとの提携はオラクルのターニングポイントと言われ、AWSやマイクロソフト、グーグルに遅れをとっていたクラウドビジネスにおける反撃ののろしとされている。
実際このあと、オラクルは動画アプリ「TikTok(ティックトック)」のアメリカ事業に(小売り大手ウォルマートとともに)出資することで基本合意(契約締結は保留中)。TikTokのクラウドインフラの大半あるいはすべてを自社に移管するのが狙いとみられている。
ズームはこのAWS、オラクルのほか、一部の限定的なサービス向けにマイクロソフトのクラウド「アジュール(Azure)」も使っている。
ZoomにおけるAWSの特別なポジション
アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のアンディ・ジャシーCEO。
REUTERS/Mike Blake
今回ズームがAWSを「推奨クラウドサービス」に選んだからといって、それは必ずしもズームがAWS以外のクラウドサービスを切ることにはならない。それでも、ズームがAWSとの提携関係を他のクラウドプロバイダーとは異なる位置づけで重視していることは間違いない。
ズームはパンデミックのさなかで成功への階段を一気に駆け上がり、2019年12月に1日1000万人だったビデオ会議利用者数は、2020年4月の時点で3億人を超える規模まで成長を遂げた。学校や政府機関、他のさまざまな組織など広く活用されている。
その快進撃をサポートしたのがAWSで、ジャシーCEOによると、クラウドインフラだけでなく、大型エンターテインメントイベントのストリーミング時のサイバーセキュリティモニタリング(=サイバー攻撃の観測・分析)などのサービスも提供しているという。
「新型コロナウイルスの世界的流行はズームのすべてを変えた。世界各地で合わせて数億人というビデオ会議の需要が生まれ、ズームはそれに応えた。そして、オンライン上で昼も夜もなく生み出される新たな需要を満たせるよう、(2011年の設立)当初からズームに寄り添ってきたのが、我々AWSなのだ」
Business Insiderは本記事の内容について、オラクルとマイクロソフトにコメントを求めたが返答を得られていない。
(翻訳・編集:川村力)