FinTechベンチャーのKyashは、12月1日に都内で記者向け説明会を開いた。
撮影:小林優多郎
キャッシュレス決済ベンチャーの「Kyash」は12月1日、新サービス「残高利息」の発表に合わせて、同社の戦略説明会を開催した。
従来、KyashはVisaブランドのプリペイドカード(物理・バーチャル)の発行やユーザー間の送金サービスなど、お金の“利用”に関する機能を提供してきた。
8月27日には資金移動業の登録を完了し、10月28日には法人向けカード発行事業「Kyash Direct」をインフォキュリオンヘ譲渡。コンシューマー向けのサービスへ注力する姿勢だ。説明会に立ったKyash代表の鷹取真一氏は「創業よりかねてより考えていたバンキング領域に進出する」と意気込む。
Kyashは12月7日、「残高利息」サービスのリリース中止を発表。中止した理由を「当初想定していなかった混乱が生じる懸念がある」とし、今後「サービス名称及び内容を見直す」方針だ。
「貯めても使ってもおトクになるサービス」とは何か
12月8日から新サービス「残高利息」を開始する。
撮影:小林優多郎
発表の主なトピックは、Kyash内の残高に対する年利1%相当の"利息"を付けるサービスだが、その他にも細々とした新機能やアップデートがある。
- 12月8日から年利1%相当、日次計算、毎月付与する「残高利息」サービスを開始
- 残高利息サービス開始に伴い、登録カードから指定金額でチャージする機能を廃止(自動チャージ相当のリンク機能は継続)
- 12月11日から、月ごとの還元上限が変更。全体の上限は1200ポイント/月と変わらないが、登録カードなどからのチャージした残高を利用した決済に対する還元は500ポイント/月に制限(いずれもKyashカードの還元額)
- 12月17日から家計簿アプリのように自動で出費の種類を分別する「カテゴリ機能」を提供
Kyashで決済した内容を可視化する「カテゴリ機能」。
撮影:小林優多郎
Kyashは2月25日から申込を開始している自社発行の「Kyashカード」において、決済時通常1%の還元を行っており、今回の年利1%の残高利息サービスの提供で、使っても使っていなくても最大1%おトクなサービスとなる。
一方で、登録カードからチャージした残高での決済に対する還元額が縮小されることから、各種キャンペーンや還元制度などに関心の高いユーザー層からは、還元額縮小を憂う声も出ている。
なお、利息の原資については、「(Kyashの残高は)外部に100%供託している」(鷹取氏)形をとっており、「(現在は)決済で発生した収入で賄う」(同氏)という。
モバイルバンキング領域へまた一歩前進
写真左からKyash代表の鷹取真一氏、CTOの椎野孝弘氏。
撮影:小林優多郎
前述のとおり、今回のアップデートの背景には、「あらゆるお金の不便をテクノロジーで解決する」という、同社の創業以来の野望がある。
そのための、モバイルバンキング領域への展開であり、他社クレジットカードからのチャージではなく、銀行残高からのチャージ(口座振替)に還元の重点を置くのもその一環だ。
また、セキュリティーに関しても強化を続けている。アプリ上で本人確認ができる「eKYC」(11月24日)や、オンラインショッピングでの不正利用を防止する「3Dセキュア」(11月17日)を導入している。
Kyashの今後の展望。
撮影:小林優多郎
鷹取氏によると、中長期的には給与の受け取り(ペイロール)や投資、保険商品の提供など、銀行などが持つさまざまな金融サービスの提供が視野にあるという。とくに2021年は「与信、為替、融資、送金のところをしっかりと入っていきたい」(同)。
Kyashは資金移動業の免許は持っているが、現時点で銀行業の免許はもっていない。また新規取得に関しては消極的な姿勢だ。
そのため、前述の給与の受け取りはできず、残高の上限も100万円まで。新サービスの残高利息のインセンティブも送金・出金不可のKyashバリューという残高で付与されるなど、一般的な銀行が持つサービスと比べると制限がある。
Kyashとしては、あえて銀行業としてではなく、アプリや決済システムの開発、運用を一気通貫に行っている強みを生かせる資金移動業で、日常生活に潜む“お金”の問題解決にアプローチする方針だ。
(文、撮影・小林優多郎)