- 弱気筋として知られる元経済学教授のジョン・ハスマン(現ハスマン・インベストメント・トラスト社長)は、分散投資を行う投資家のリターンについて、かつてないほど悪くなると予測する。
- ハスマンは2000年3月、テック銘柄が83%下落すると予測してピタリと的中させた他、何度も株価下落を言い当ててきた。
- ハスマンの考え方は、2つの要素に基づいている。市場のバリュエーションと市場内部要因だ。
- 典型的なポートフォリオ(60%を株式、30%を債券、10%を現金に分散)で投資した場合、今後12年間におけるリターンはどうなってしまうのだろうか?
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「今のバブルが崩壊すると大きな打撃を与える」
これは最近、ハスマン・インベストメント・トラスト社長のジョン・ハスマンが、クライアント宛てレポートの中で現在の株式市場について述べたことだ。ハスマンは元経済学教授で、市場に対する弱気な見方でも知られる。
ハスマンは次のようにも記している。
「私は引き続き、今の株式市場のサイクルが終わるまでに、S&P500は価値の3分の2[約66%]を失うまで下落すると予測している。そこまで下落すると、市場のバリュエーションが過去平均を下回ってしまう。しかし、その後S&P500指数の長期リターンは、現在観測されている10〜12年というマイナス予測に反して、過去平均に近いものとなる」
ハスマンの予測は、2つの要素を根拠としている。市場のバリュエーションと市場内部要因だ。ハスマンの見方によれば、長期的なリターンはバリュエーションに基づくが、短期的なリターンは投資家の感情や好みといった心理に左右されるという。
ハスマンは、次のような例を示して自身の考え方を説明している。
「例えば、投資家が10年後に100ドルのキャッシュフローを得るために、今100ドルを投資するとしよう。それによりリターンはゼロに固定されるが、投機筋は短期的に価格を110ドルに引き上げることもあり得る。
そうなれば、投資家は110ドルという価格に魅力を感じるかもしれないが、(その価格で投資すれば)その後10年間、マイナスのリターンが確定することになる。
反対に、リスクを嫌う投資家が価格を46ドルに下落させるかもしれない。そうすると既存株主は痛手を被り動揺するだろう。しかし、その価格を基準とすれば、その後10年間、年率8%のリターンが見込めることになる」
ここしばらく、市場バリュエーションは過去平均よりも高くなっていることは周知の事実だ。企業収益が比較的低い一方で、投資家は価格を引き上げてきた。
バンク・オブ・アメリカは、次のグラフを示して、この点を指摘している。S&P500は多くの指標で、テック・バブルを除く平均値を含め、過去平均を大きく上回っている。
S&P500銘柄のバリュエーション。網掛けの数字は、統計的に見て過去平均よりバリュエーションが高いもの(2020年8月20日時点)。
S&P, Compustat, Bloomberg, FactSet/First Call, BofA US Equity & Quant Strategy
歴史的に見て、バリュエーションが高くなると、投資家は利益を確保するために高騰する市場から避難し、より安全な債券投資へ向かう傾向がある。しかし、利率が最低の今、分散型投資家でさえリスキーな状態にあるとハスマンは見ている。
この考え方は下図にも示されている。典型的なポートフォリオ(株式60%、債券30%、現金10%)について、ハスマンが独自に予測する12年間年率平均リターン(青線)を、実際の12年間年率平均リターン(赤線)と比較したものだ。ハスマンの予測は過去最低となっており、11月13日時点の予測では、今後12年間の年率平均リターンは-1.56%になると見ている。
提供:Hussman
バリュエーションは、ハスマンの予測の2つの要素のひとつでしかない。ハスマンが明確な弱気予測を立てるのは、市場内部要因の悪化という根拠もある。
ただし現状では、市場内部要因は安定しているようだ。
「市場を牽引しているのはバリュエーションではない。(通常のGDPギャップの平均回帰を別にすると)経済成長でもない。投資家の『心理的集積』だ」とハスマンは記し、次のように続けている。
「市況がいつ変わるかという予測は不要だ。変化に対応するだけになるからだ。今の極端な状況からすれば、パニックやクラッシュのリスクが高まっている。しかし、明確に弱気な予想を促すような市場内部要因の悪化はまだ見られない」
ハスマン予測はコンセンサスから乖離している
一方で、ハスマンの予測はウォール街の大手金融機関の予測に比べて大幅に弱気だと認識することも重要だ。
株式については、ウォール街の株式ストラテジスト全員による2020年末のS&P500予測の中央値は直近の指数値を若干下回っているものの、大きな市場崩壊を示唆するものではまったくない。
さらに、ブルームバーグのデータによると、同ストラテジストたちは、2021年のS&P500銘柄のEPS(1株当たり利益)が前年比17%上昇すると予測している。歴史的に見て、利益拡大が株価上昇の最大のファクターであることを考えると、これはプラス材料だ。
ハスマンのトラックレコードとは?
馴染みのない読者のために紹介すると、ハスマンはこれまでたびたび、60%を超す株式市場の下落や10年間にわたるマイナスの株式投資リターンを予測してメディアに大きく取り上げられてきた。株式市場がおおむね上昇を続ける中、ハスマンは警告を続けてきた。
ハスマンの主張をつまらない、いつもの弱気筋として退ける前に、彼のトラックレコードを見てみたい。ハスマンが自身のブログで実績の詳細を示している。次のような内容だ。
- 2000年3月、テック銘柄が83%下落すると予測。その後、テック中心のナスダック100指数が2000年から2002年にかけて「奇跡的な正確さをもって」83%下落した。
- 2000年、その後10年間において、S&P500の総リターンがマイナスになると予測。その読み通りマイナスとなった。
- 2007年4月、S&P500が40%下落する可能性を予測。その後、2007年から2009年の暴落において55%下落した。
とはいえ、ハスマンが運用するファンドのリターンは冴えない。ハスマンが運用するストラテジック・グロース・ファンドの昨年のリターンは2.4%に過ぎず、ブルームバーグのデータによると、同業者ランキング47位だ。さらに過去3年間では1.4%マイナスとなっており、下位から23%に位置している。
それでも、ハスマンが見出す弱気材料は増え続けている。現在の市場サイクルで得られるリターンはまだあるかもしれない。しかし、クラッシュリスクはどこまで高まれば、警戒されるべきなのだろうか。
この質問には投資家自身が答えなければならない。ハスマンもまた、その答えを探求し続けるだろう。
(翻訳・住本時久、編集・野田翔)